0810・辺境伯家にて
Side:シャルティア
ティアが取り調べの部屋で怪我をさせられて、それによって少々怒りが出たあたし達は色々と言った。そりゃね、嫌味を言われて当たり前の事をした訳だから、文句が口から出るのは当然だ。その結果、何故かあたし達は辺境伯の屋敷に居る。
正直に言って面倒の極みでしかない。兵士の詰め所に来た令嬢が辺境伯家の者だという事ぐらいは分かっていた。当たり前の事だけど、貴族令嬢の格好で兵士の詰め所に来る者なんて普通は居ない。だから関係者なのは考えればすぐに分かる事だ。
問題はいちいち面倒臭い辺境伯の屋敷なんかに招きやがった事さ。向こうとしたら心象を良くしておきたいのかもしれないが、こっちからすりゃ更なる嫌がらせを受けているに等しい。皆も「いい加減にしろよ」という態度を隠してもいない。
それもまた当たり前なんだけど、この屋敷のメイドがこっちを睨みつけていて一触即発状態だ。それに対して連れて来た令嬢が頭を抱えている。あたしが言った通り、家臣を従える事も出来ていないのが露呈した形だからねえ。
で、そんな状況で出された茶や菓子に、あたし達が手を付ける筈が無い。それが余計に気に入らないらしいが、信用ならないヤツの淹れた物を誰が飲むのやら。意味が分からないねえ。
そうして無言で居ると、誰かが部屋の中に入ってきた。どうやら格好からして辺境伯本人っぽい。今さら何しに来たんだか……。
「執務があったので今まで掛かったのだが、何かあったのか?」
「何が、どころではありません。下の兄上は頭から血を流している女性を無視するわ、そこのメイドはお客様を睨むわで、今回の事で辺境伯家は恥しか晒しておりません」
「は? ……いったいどういう事だ。いつから我が家のメイドは客を睨むのが当たり前になったのだ?」
「い、いえ。私は睨むなど、そんな……」
「では、お前は娘が嘘を吐いたというのか。成る程、相分かった。今までご苦労であったな、さっさと去るがいい」
「い、いえ! 私がお客様を睨みました。申し訳ございません!! ですので、ど「要らぬ」うか!!」
「我が家に嘘吐きなど要らんのだ。最初から謝罪しておればよいものを。コレを摘み出せ」
「ハッ!!」
部屋の中に護衛として入ってきた騎士がメイドを連れて出たが、最後まであのメイドは自分は悪くないとかホザいていたね。そもそも主人が気にしていないのに、何故メイド如きが出しゃばるのか意味が分からない。何なんだろね、アレは。
「すみません。アレは子爵家の三女で、メイドであるにも関わらず貴族家の者という価値観が抜けない者だったのです。それどころか辺境伯家である当家を見下す発言もしていました。よりにもよって今日の客に出てくるなど……」
「それでもこちらの落ち度だ。すまなかったな。ところで……そちらが怪我を負った者か。バカ息子がすまん。怪我をしている女性を無視するなど、あやつは騎士の本分すら忘れたようだ。なので一介の兵士に落としておく。それで溜飲を下げてくれ」
「私としましては、辺境伯家の中にとやかく申す権利も持っていませんので、御自由にどうぞと申し上げるだけです」
「………そなた、もしや何処か上級貴族の令嬢なのでは? どう考えても平民の考え方と所作ではない。いったい……」
「詳しくは申せませんが、私達は西の大陸から来たとだけ申し上げておきます。それ以上は色々と察して下さいとしか言えません」
「そうか……。西の大陸の家の者が何故こちらに?」
「それは見聞を含めて色々というところでしょうか? 特にどうこうという事はありません。デジム、ナロンダと続き、次に訪れたのがこの国なだけです。むしろいきなり勾留されて暴力を振るわれたのはヴィダ王国が初めてですよ」
「真に申し訳ない。当然ながら、あのような状況が我が国の当たり前ではない。既に市井にも噂が流れているだろうが、我が家では第4王子を匿っておる。これ自体は療養という名目だ。正直に言えば我が家にとっても迷惑な話なのだよ」
「そこで止まってくれるかい? あたし達をこの国の揉め事に巻き込むのは止めてほしいねえ。王族に関わる事なんざ聞くと碌な事にはならないんだ。こっちは聞く気も無いから、この辺りで帰らせてもらうよ」
「そちらも何かしら……。いや、貴族家に連なる者が護衛をつけていない筈がないか。すまないな」
「シャルは貴族だったけど、一代限りの伯爵家でしかなかったけどね。代わりに将軍だったけど」
「なんで余計な事を言うんだい? 今の状況じゃ全く関係ないだろう」
「えっ? 将軍? ……関係大有りなのですが、助けてもらえませんか。お願いします!」
「は? どういう事だと言いたいけど……皆、どうする? 話を聞くかい?」
あたしが皆を見回すと、「仕方ないんじゃない?」という声が返ってきた。アレッサ、そもそもアンタが喋るからこんな事になってるんだけどね? そのうえ仕方ないってアンタが言うんじゃないよ。
「はぁ……で、いったい何を聞かせようってのさ。あんまり余計な事に巻き込まれたくないんだけどねえ」
「第4王子殿下が我が家において療養されているのは当然理由があるのですが、それは北の山に咲く病気に効く花の為です。今までは騎士達や兵士達で何とかなっていたのですが、ビホウが住み着いてしまい採りにいけなくなってしまい……」
「第4王子の病気が悪化でもしたかい?」
「はい。第4王子殿下は一番聡明な方だったのですが、12歳頃から御体の調子が悪くなられ、それ以降はどんどんと悪化の一途を辿っているのです。我が家にお迎え致した時には既に相当悪く、花も採りにいけなくなりまして……」
「それはマズいわねえ。もし第4王子が死んだりしたら、辺境伯家の立場が相当に悪くなるじゃない。そのビホウっていうのが何かは知らないけど」
「大きな鳥の魔物です。縄張り意識が非常に強く、自分が決めた縄張りに侵入すると攻撃してくると聞きます。実際、採りに行った騎士や兵士は命からがら逃げ帰ってきたくらいでした」
「そんな事よりも第4王子のところへ案内してくれない? 私が持ってる薬が効くかもしれないからさ」
「ああ、アレね。確かにアレなら治るんじゃない? 可能性は高そうだから、試すだけ試したら?」
「その薬とやらは何処に?」
「……これだけど、渡しはしないよ。コレは希少な薬でね、たとえ辺境伯相手でも勝手に持っていかせる訳が無い。それほどの代物なんだよ。だから案内してって言ってるのさ。一応言っておくけど、私達にとっては第4王子なんてどうでもいいからね。そっちで好きに決めてよ」
「「………」」
悩んでるねえ。もしかしたら治るのかもっていうのと、あたし達が何かしたらという事を天秤にかけてるんだろうけど、こっちは本当にどうでもいいんだよ。本来はビホウとやらを退治させたかったんだろうけど、それより早く治せるならその方が良いに決まってる。
だけど王族に何処の馬の骨ともしれない者を近づける訳にはいかない。辺境伯じゃなくても悩むだろうさ。しかしあたし達にとったら高みの見物でしかない。所詮はどうでもいい国の、どうでもいい王子だからね。それ以上でも、それ以下でもない
さて、どうするのやら。
「……分かった。第4王子殿下に会わせよう。ただし何かよからぬ事をしたら、地の果てまで追いかけて必ずワシの手で殺してやるぞ」
「そんな事はしないし、そこまで言うなら会わせなきゃいいじゃん。私達にとっては治してやる必要も無い相手なんだけど? あくまで治りそうだから言ってやっただけで、この国の者でもない私達には心底どうでもいい相手でしかない」
「………はぁ。案内しよう」
辺境伯はその事を思い出したのか、溜息を吐いた後で腰を上げた。そう、ミクが言った通り心底どうでもいいのが本音なんだよ。それに気づいたからこその溜息だろうけどね。
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