0807・報酬とナロンダ国へ
Side:アレッサ
戦闘が終わって6日経った。あれからは適当に宿で暇を潰したり、町の片付けなどを手伝って暇を潰す日々。それがようやく終わると言えば喜ばしいけど、雲行きは良くない。
その理由は辺境伯が死んでいるからだ。実は辺境伯は首を取られており、代わりに家族は特殊な場所から逃がしていたらしい。おそらくは地下通路か何かだと思うけど、その御蔭で領都に混乱は見られない。まあ、ミクが悪人を全て食い荒らしているのもあると思う。
なので領都に関して言えば、団結してボンクル王国憎しという雰囲気のままだ。いえ、ままと言うよりは、日に日にボンクル王国への怨みは増大していると言っていい。死体の片付けをしている町の人達も、多く殺されている町の人の遺体を見ている。
中には性的暴行を受けた後に殺害されたと思わしき女性の遺体も複数あった。更には子供や老人など、とにかく弱い者を狙って殺しているのが分かってくると、加速するように怨みと憎しみが増大していったのだ。
本来なら領主への批判もある筈だけど、辺境伯本人が殺されてしまっている為、面と向かって辺境伯家に対して声を上げる者は居ない。ある意味では辺境伯家にとって理想的な展開ではある。
そんな中、傭兵である私達への褒賞だったが、その内容は大銀貨で4枚だけだった。とはいえこれは仕方ない。王都のようなお金のある所ではなく、そのうえ辺境伯が死に町の復興にもお金が掛かる以上、これが出せて限界なのだろう。
他の傭兵も文句は言っていないので、ギリギリだというのは分かる。特に町の建て直しに莫大な費用が掛かる以上は、傭兵個人がどうこうと言っても仕方ない事なのよ。いわゆる、無い袖は振れないというヤツね。
「結局この程度の報酬ではあったけど、貰う物は貰ったわね。次はどうするの?」
「この戦国乱世でしなきゃいけない事は何も無い、あるのはいつも通りの悪人を食い荒らす事だけ。だからウロウロと回らなきゃいけないんだけど、次は思い切ってナロンダ国かな? 今ボンクルに行っても混乱中で碌な事にならないだろうからね」
「特に旅人なんて難癖をつける格好の的だと思うわ。それなら一ヶ月前に戦いが終わっているナロンダの方がマシね。特に向こうは騎士ぐらいしか死んでないし」
「こちらは第3王子が行方不明ですからね。相当に色々と動きがあると思いますし、そうなると旅などという名目で国に入ろうものなら……」
「間違いなく、即拘束のうえ拷問だろうね。第3王子の行方を調べなきゃいけないし、敵国からの旅人なんて怪しすぎる。博打を打つ商人でさえ、このタイミングでは絶対に行かないよ。拘束されるのが分かりきってる」
「だからこそナロンダなんだけど、向こうも攻めた軍は行方不明なんだよねえ。ま、既に一ヶ月だし流石にもう調べてないでしょ。とはいえ国境の監視は増やされてるだろうけどね。いつ報復があるかと警戒しているだろうから」
「その辺りはどうするんですか? 最悪は夜中に強行突破するしかないと思いますけど……」
「そんな事をしなくても、私が鳥になって飛んで行って、向こうで皆を転送すれば済むよ。そうすれば怪しまれないし変にも思われない。ま、その方法はボンクルにも出来るんだけど、向こうの混乱は酷そうだから無しかな」
「流石に北は駄目ね。やるなら東しかないわ。見慣れないヤツっていうだけで、兵士に連れて行かれる可能性があるもの。町の辺りから始めるのが無難じゃない?」
「そうだねえ。それより第3王子はどうだったんだい? 脳から情報は得られた筈だけど聞いてないからさ。ちょっと気になってたんだよ」
「特に大した情報が無かったから知らせなかったんだよ。第3王子はそれなりに優秀かな? 将来を嘱望される程ではないけど、兄達の手伝いは十分に出来る感じ。周囲の反応も変わらないから、今回の戦争は箔を付ける為に行われたものだね。メインは」
「つまり他に目的はあったと。それなら情報を共有しておいてもらないと困るんだけど?」
「いや、その内容が不死玉を使った実験なんだよ。どれぐらいの威力があるか、どれだけの回数でどれだけの門を壊せるのか。そういう実験の意味合いがあったってだけ。結果は手に入らず終い」
「そりゃ喰われてるんだから、結果を持ち帰るのは無理でしょ。手紙でも送っていない限り無理よ。ガイアならまだしも、この星では距離の壁がどうにもならないわ」
「ここで話してても仕方ないし、そろそろ出ましょうか」
私の言葉に皆も腰を上げ、宿を出る。既に報酬を貰っているし、わたし達に構う暇も無い辺境伯家を尻目に領都を出ていき、人目の無い場所でミクの本体空間に転送されたわたし達は、しばらくゆっくりと休むのだった。
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Side:ロフェル
ここはデジムとナロンダの国境から進んだ1つ目の町。私達はそこの宿をとり、今は昼食を食べている。特にどうこうと言う事も無い普通の町であり食堂だけど、流石にデジム王国に負けた事は伝わっているようで、雰囲気はあまり良くない。
とはいえそれは町中だけで、食堂の中にはそういう暗い雰囲気は無い。何というか、外では見せる為に暗い雰囲気にしている感じだろうか? いわゆるワザとそう見せているように見える。
そうしておかないと変に目立つとか目をつけられるとか、もしくは敵国の者だとか言って捕らえられるのかもしれない。そういった感じの悪そうな兵士が町中をうろついていたのは普通に見た。
もしかしたら怪しいヤツを探してるんじゃなくて、単に難癖をつける相手を探してたりしてね。まあ、悪人なら今日中に消えるから別にいいんだけど、それまでに面倒な事に巻き込まれるのも業腹なのよねえ。
おそらく王都に近い町になればこんな事もなくなるでしょうけど、ここは国境に近い町だからどうにもならないわ。更に近い所に村があるけど、そこはファーダに任せているみたい。
流石に村は無視していいという事にはならないし、しっかりと悪人は駆除しておかないといけないわ。村に悪人が残ってたりしたら、何の為に移動してきたのか分からなくなるし。
「この町にも悪人は多そうね。軍は壊滅したとはいえ、報復があった訳じゃないのに治安が悪化しているのかしら?」
「傭兵が集まっているから悪い訳でもないし、もしかしたら兵士が難癖つけてるから雰囲気が悪いのかもね。可能性的には十分あり得るよ」
「それはそれは……。面倒なので今日は宿でゆっくりですね。明日は出発ですし、さっさと進んでしまいましょう」
私もそれには賛成ね。流石に首都に近い町だと平穏だろうし、そこでも町の雰囲気が悪いなら元々悪いのだと言わざるを得ないわね。今のところは詳しいところまで分かってないから、こういう国の可能性も捨て切れない。
とはいえ雰囲気が悪いのが当たり前の国なんて存在しないと思うから、何かしらの影響でしょうけど……。どう考えても戦争の結果よねえ?。
「どうも軍が居なくなった事で相当数の兵力を失ったみたい。コレに関しては当たり前だけど、その所為で他国が襲ってきた時に抗えないってさ。それで雰囲気が暗くなってるみたいだね、ちょこちょこ小声で話してる」
「成る程、それなら分かります。流石に兵数が心許ないのでは不安になるでしょう。民心が不安定になると買い溜めに走ったりしますし、あまり良くない傾向ですね」
負けたんだから大なり小なり起きると思うけど、こういう事にもなるのねえ。




