0077・新武器の使い心地
翌日。ミクは呼びに来たメイドに連れられて食堂に行き、いつも通り朝食を食べていると……。
「失礼いたします。御当主様、朝早くではありますが、宰相閣下の使いの者が参りましてございます」
「は? ……宰相の使いだって? ………いったい何の用で来たのやら。で、向こうは何の用で来たか言ったかい?」
「それが……御当主様にしか申し上げられないと。そう申しておりまして……」
「ふーん。なら待たせておきな。朝食の時間にズケズケ来て、自分を優先しろなんてゴミは待たされて当然だ。そいつにも、そう言っておきな。下らない事を言ってきたら、私から宰相に言うから気にせず言え」
「畏まりました」
そう言って執事は下がっていった。どうやら宰相から何か言ってきたらしいが、ミクには関わりの無い事なのでスルー。権力関係などの知識は多少与えられているものの、ミクは一切関わる気が無いのであった。
朝食も終わり、ヴェスに一言伝えてミクは出発する。今日も適当にワイバーン狩りをするかと思いつつダンジョンへと歩いていると、何故か周りからヒソヒソ話す声が聞こえてきた。
彼らは聞こえないように喋っているつもりだろうが、異常な聴覚をしているミクには丸聞こえだ。隠せていない。
「あの女が80階まで完全攻略した女だって言われてるけど、本当かよ? あんな華奢な女が一人でだぜ? 大ボラもいい加減にしろってんだ」
「でもよ、昨日解体所にワイバーンを持ち込んだのはマジなんだろ? だったらそれだけの実力者なんじゃねえのか? ゴールダームから来たって聞くしよ」
「ゴールダームから来たってヤツは聞くけど、誰も彼も大した実力なんてねえよ。ゴールダームの奴等だっていうだけで、持ち上げられてるだけだろ」
「そうそう、所詮は卑怯な事やって手に入れたんじゃないの?」
「卑怯な事ってどうやってだ? だってワイバーンなんだろ? 卑怯な事したら手に入るならオレだってやるぜ。どういう卑怯な事すればワイバーンが手に入るんだ?」
「いや、それは……その……」
「お前あの女の肩を持つ気かよ? フィグレイオの探索者の自覚ねえのか!?」
「それとこれとは違うだろ。オレは卑怯な事すりゃ手に入るって言うから、どういう方法か教えてくれって言ってるだけじゃねえか。1頭で中金貨すら手に入るんだぜ? どうやってか知りたいに決まってるだろ」
「それがゴールダーム如きを擁護してるってんだ!」
「なんだとテメェ! オレは金が欲しいだけだっつってんだろ!」
何故か喧嘩が始まったものの、ミクは既に歩き去った後である。もちろんミクには聞こえているが、いったい何がしたいのかサッパリ分からない。そんな連中を無視してミクはダンジョンへと行く。
中央の魔法陣の上に位置するショートカット魔法陣に乗り、61階に転移されるのを見て、周りの野次馬は驚きの声を上げるのだった。
再び61階に来たものの、やるべき事は新武器の試し切りである。まずはワイバーンの骨と牙で作ったウォーハンマーだ。骨と粘液を練って固め、高温で焼いた槌頭。そこに円錐にした牙を付けて出来た物だ。
盾はトレント材にワイバーンの胴体の皮を3重にして貼り付けてある。今までの物より軽く、そして防御力はおそらく高いであろう。
ミクは早速【風弾】を使って仮称サンドワームを呼び出し、ウォーハンマーを叩きつけるのだった。
「これはアレだ。今までの鉄製よりも頑丈なだけあって、私のパワーを今まで以上に出せるね。人間種が居る所じゃ無理だけど、誰も居ないなら素の能力を多少は出してもいい。その程度には頑丈だよ」
『これで多少ですか……。叩き付けた地面が砂だとはいえ、小さなクレーター状になっているというのは流石に……』
「これでもフルパワーには程遠いんだけどね。それでも3割強は出せてるかなー? ってくらい」
『OH………』
流石のレティーもリアクションに困ってしまったのだろう。唖然としながらも搾り出せた声がそれらしい。人外パワーの本当の恐ろしさを垣間見たというところであろうか?。
その人外パワーを持つ張本人は、ウォーハンマーとカイトシールドを仕舞い、バルディッシュを取り出す。2、3度振って確かめると、移動を開始するのだった。
「……これは失敗だったね。まさかドリュー鉄でも曲がるとは思わなかったよ。さっきのウォーハンマーと同じ感覚で使ったのが悪かったんだろうけど、それにしてもドリュー鉄って脆いなぁ」
『主のパワーが強すぎるだけの気がしますが、それにしても曲がってしまう武器は駄目ですね。こちらもワイバーン製にしますか?』
「バルディッシュを? ……難しいと思うけどねぇ。この刃を牙や爪で再現しようとすれば、刃の先端に取り付ける形になると思うけど、それって簡単に壊れたり取れたりしそうじゃない? そうなると武器として駄目なんだよ」
『簡単に壊れたり取れたりする物は使えませんね。ではドリュー鉄はお蔵入りですか? 少々勿体ない気もしますが……』
「言いたい事は分かるんだけど、お蔵入りだねえ。代わりにウィリウム鋼で作るかな? 槍はワイバーンの素材で作ればいいし、根本的に武器を一新するしかないね」
そう言ったミクは再びウォーハンマーとカイトシールドを取り出し、バルディッシュと槍を本体空間へ転送。作りかえるのだった。
その間も分体は進み続けてボス部屋前、ミクはレティーと遊んでいる。やっているのは<しりとり>であり、暇潰しとして行っているだけだ。
「おっと制限時間が経過したから私の負けだね。それに本体空間のも完成したみたいだし丁度良かった。さてと、新しい武器でどこまで戦えるか楽しみだ」
『それは新たに変えたのですか? 今までの物と違い、三日月形に変わっていますが……』
「そう、これが本来のバルディッシュ。三日月斧とか言われる物だから、本来はこの形が正しいんだよ。代わりに厚さを増やして重量を上げたんだけどね。御蔭で柄が少し細くなったよ。多分大丈夫だと思うけど、ちょっと心配かな?」
『それと、槍の形は変わっていないのですね?』
「これが使いやすいからねえ。技術としては十文字槍とか、卍鍵槍とかで色々あるんだけどさ、槍なんてシンプルに突く物でいいんだよ。それが最速の攻撃なんだし、槍の真骨頂とも言える」
『速く突いた方が勝ちという訳ですか。それが致命の一撃であれば、確かに最速の攻撃こそが最も有効でしょう。私が喰った騎士の知識にも、そうあります』
「最後にはそこに帰結するんだよ、普通は。スキルとか色々あるけど、結局はシンプルな所に行きつく。それは変わらないんだ」
ミクは新しいウィリウム鋼のバルディッシュを何度か振って確かめると、ボス部屋の中へと入っていく。
魔法陣から現れたワイバーンが飛び立った瞬間、【風弾】を翼に連打して落とし、【身体強化】を使って一気に接近。首の根元に振り下ろすと、あっさりと斧の刃は砂の地面まで落ちた。
ドゴォン!! という音はしたものの、素早くバックステップするミク。総鉄製のバルディッシュの時とは比べ物にならない程の夥しい血を噴き出し、あっと言う間に意識を失い死亡したワイバーン。
今までの物とは切れ味が違いすぎる。そう思うミクとレティー。流石はウィリウム鋼と言うしかないのだろう。
「いやー、驚いたねえ。手加減はしたものの柄にも刃にも異常は無し。今まで以上に使えるのは間違い無いけど、ヴェスが何か言ってきそうな気もする」
『テリオルヴ家の家宝ですからね』
そうなんだよねー、と軽い感じで返すミク。あの盗賊が地獄で怒り狂っているのかもしれないが、仮にそうであってもミクは気にしないだろう。




