0797・壁上の戦い・2日目
Side:アレッサ
「ふーん。って事は辺境伯は実は優秀な人で、平時では怪しい奴等を見張らせていたと。で、戦時になって怪しい行動をし始めたから軒並み潰し始めた。……昨日わたし達に絡んできた騎士も間者だったとはねえ」
朝起きてからミク達の部屋に行ったら、まさかの結果で驚いたわ。とはいえ悪い事じゃなくて良い事だから助かるけど、まさか辺境伯が優秀だとは思わなかった。何も聞かないから普通程度の能力しかないのかと思ってたけど、それは間違いだったみたい。
「平時は凡庸に見せかけて敵の間者を炙り出すって輩も、かつて祖国には居たからねえ。マヌケなように見せつつ周りを計り、都合よく利用していたヤツさ。【精神感知】と【精神看破】を持っていたあたしには通用しなかったけどね」
「心の色がバレていたなら流石に無理でしょう。その方も困ったでしょうね、何も通用しない相手が居ると」
「その頃には既に将軍だったからねえ。流石にバレてると気付いてからは諦めてたよ。あたしの前では仮面を被るのを止めて素で話してたけど、あれも案外と息抜きになっていたのかもしれない」
「思い出はともかくとして、辺境伯が優秀なら放っておいても大丈夫って事? それとも何かしておいた方がいい事がある?」
「今のところは特にないかな? 私達の分の食料はあるし、矢もボルトも十分にある。敵もまだまだ十分に数が残ってるし、戦争も始まったばかりだからね。といっても、ここで帰ってもらうんだけど」
「辺境伯の領都を攻めてきている相手だけど、第3王子かはともかくとして王族なのは間違い無いんでしょ? ミクがこっちに居るって事は、相手は絶対に負けるって事なのよ。王族さんはどうするのかしらね?」
「どうするもこうするも、帰って負けましたって言う他あるかい? 実際に勝てないんだからどうしようも無いだろう。決死隊とかいうのが門を爆破するつもりらしいけど、それをやっても勝てないだろうしねえ」
「それ以前に、その決死隊の攻撃は成功しない気がするのですが……。だって好き放題できる方々が居ますよね?」
「残念だけど、マハルが考えてるような事はしないよ。不死玉を使った爆発攻撃はリョーク中央帝国の秘匿技術だったらしいんだけど、その危険性を知らしめる為にも決死隊には成功してもらう。実際に受けなければ危機感を持たないからね」
「それはミクの言う通りだろうさ。私達もガイアの軍事演習なんかを映像で見た事があるけど、あれは実際に見ないと分からないだろう。目の前で見た事が無いあたし達でもアレはヤバいと分かる。もちろん魔法で同じ事は出来るんだけどさ」
「話もいいですが、そろそろ朝食に行きましょう。あまり待たせると、まだ五月蝿い者が居るかもしれません。善意で口五月蝿い者も居ますからね」
「居る居る。自分は善い事をしていると思い込んでいる面倒臭いヤツ。単に五月蝿くて鬱陶しいだけなのに、何で善い事をしていると勘違いするのかしら。意味が分からないわよねー」
既に片付けも終わっていたわたし達は、そのまま食堂に行って朝食を食べる。朝でもそれなりに客が居るので、わたし達は食べたらさっさと出て門に向かって歩いていく。昨夜は騎士が捕まったりしているので、多少の混乱はあるかと思ったけどそれも無い。
「そういえば夜に敵軍がコンタクトをとりに来るんじゃなかったの? それってどうなったのか聞いてないんだけど」
「それならファーダが処理したよ。町の近くに来て合図を出すつもりだったみたいだから喰って、脳はレティーに渡した。結果として辺境伯領に居た平民の間者も割り出せたから、そいつらも喰っておいたよ」
「一家を根こそぎ?」
「いや、そんな事はないよ。間者を喰った後、そいつの脳から情報を得て決めた。一家丸ごと間者の場合は根こそぎ、間者だけで家族が知らないなら間者だけを喰った。有事の際の裏切りは敵だからね、喰われるのは当たり前の事だよ」
「裏切った時点で悪人だもんね。特段の事情があって仕方なくならともかく、最初から間者じゃ完全に悪じゃん。どう考えても喰って下さいって自分から言ってるでしょ」
門の近くの梯子を登り、今日も壁上へと上がる。昨日と同じ場所に着いたらクロスボウを取り出して、後は敵が攻めて来るまで待機だ。今のわたし達は門の守備であって、乱戦で切り合いをする訳じゃない。
それもあって気楽というか、まだ戦争という感覚は無い。そもそも戦争に参加した事なんて数える程しかないし、あの異常者に支配されていた時だしね。思い出したくもないから、無かった事にしましょ。
どのみち正しく覚えてないし、経験になってないから無いって事で問題なし。それよりもロフェルやマハルが言っていた乱戦を経験したいわね。それこそが戦争だと思うし、遠くから撃つのが戦争ではないと思うのよ。
それはともかく、わたし達が居る側はいいんだけど向こう側は大丈夫かしら? 向こうから侵入されたら、わたし達の側からは援護が難しいのよ。その場合は兵士や騎士が何とか止めてくれると思うしかないわね。
「「「「「「「「「「うぉぉぉぉぉぉぉ!!!」」」」」」」」」」
「敵が向かって来るけど、あれは間違いなく兵士ね。つまり敵さんも軍を使う事を決めたみたい。昨日は傭兵で様子見だったみたいだけど、流石に半数ほど殺されたんじゃ傭兵も動かないか。同じ事をさせられるんじゃ、全滅するしかないだろうし」
「だろうね。あれだけ死んだし死体を見せ付けられたんだ、傭兵達は十分に死を感じた筈さ。今日はそれを受けるのが兵士なだけ。そういう風に持っていかなきゃいけない。とはいえ上手くいくかは……」
「そんなに上手くいくなら、誰も苦労しないと思うわよ? そもそも責任ある立場じゃないんだし、気楽にしているぐらいでいいんじゃない? 責任を持たなきゃいけないのは辺境伯なんだしさ」
「そうそう。わたし達が責任を持つ必要なんて何処にも無いし、こっちは気楽な傭兵稼業よ。まずはこうやって撃つのが仕事」
わたしが引き鉄を引くと「ガシンッ!!」という音がしてボルトが発射される。相変わらず音が大きいので敵にバレバレだが、特に気にする必要は無い。そもそも隠れて撃つものじゃないから、バレたところで……ねえ。
そんな事を考えつつ、先端の金具に足を引っ掛けて引き上げる。そしてボルトをセットして敵を狙い撃つ。昨日と同じ事を繰り返すだけなのだが、今日は正規兵だからか弓兵と魔法兵が居る。
特にわたし達に集中しているみたいで、ミクが前に出て防ぎ始めた。カイトシールドを持って防いでいるので問題なく、わたし達に矢や魔法が届いたりはしていない。何故か両手にカイトシールドを持ってるけど。
「予備のカイトシールドを持ってたんだけど、まさかこんな風に使う事になるとは思わなかったよ。後、周りにはバレてないっぽいけど、実は魔法は食べてるんだよね。カイトシールドに当たった後」
どうやら目の前で非常識が行われているらしい。とはいえ敵軍もおそらく気付かないだろうし、考えもしないだろう。魔法を食べる奴が居るなんて事はね。
わたし達はミクが防いでくれている隙間から、敵の弓兵や魔法兵に矢やボルトを撃ち込んでいく。当然だが当たれば大ダメージか即死しかなく、弓兵や魔法兵が怯えているのが分かる。こっちは敵に届くけど、向こうの攻撃は届かない。
目の前に最強の怪物が居る以上、わたし達に当たる攻撃なんて無いのよね。




