0794・監視と雑談と騎士
Side:ロフェル
敵が随分と引いていったけど、未だこっちが見える場所には陣取っているわね。とはいえ、あの距離じゃ流石に届かない。それにしても傭兵を引かせる事を許可したのには驚く。行け行けどんどんで攻めさせると思ったんだけど……。
「そこまでマヌケじゃないんだろう、敵の指揮官か片腕がさ。仮に片腕が優秀でも、その意見を取り入れるくらいには信頼しているんだろうね。最悪の形なのは、それが簡単に決断できるほど懐が深い場合だ。往々にして、そういうヤツは手強い」
「厄介なものね。とはいえ敵国を攻めるんだし、そんなマヌケを総大将にして攻めては来ないか。町を守る領主の中にはマヌケも居るだろうけど、敵国攻めじゃねえ。そんなのに命じたら、命じた者の責任まで問われるわ。王なら恥じゃ済まないし」
「それでも貴族達は見ないフリをするでしょうけど、顔に泥を塗られた王は怒り心頭でしょうね。そうならないように貴族からの推薦で決定するのですし、だからこそ失敗したら貴族の責任に出来るのですから」
「容赦無いわねえ。もちろん国王の顔に泥は塗れないんだけどさ、率先して泥を被ってくれる貴族ばかりじゃないでしょ。まあ、そういう事が出来るから覚えが良いんでしょうけどね」
「ですね。だからこそ取り入りたい者は、そういう所にしゃしゃり出ようとして失敗するんです。そもそもですが、そういう役の者は古くからの忠臣の家系に決まっていまして、新参の入る余地なんて無いのですよね」
「むしろ新参はちゃんと領地経営できているかとか、何か功績を挙げたかとか、そういう部分を見られてるからね。王の泥を被るのは基本的に上級貴族、つまり伯爵以上と決まってるんだよ」
そんな話をしているくらいに私達は暇になっている。門前の梯子も完全に引き上げ、既に撤去済みなので敵兵は登って来られない。なので、こちらの軍は弛緩したような状態になっている。それも仕方ないっていう雰囲気かな?。
戦争中とは思えないけど、一旦緩んだ緊張は簡単には戻らない。シャルがそんな事を言っていたから、こうなるのは仕方ないんだろうね。まさかの女将軍で伯爵家の当主だとは思わなかったわよ。元らしいけど、とんでもないと思う。
500年ほど生きるという情報にも驚いたけど、国を守り通した英雄であり、最も名が知られている将軍って凄いとしか言えない。何故か暗殺されて死んだらしいんだけども。
私は何回聞いても意味が分からなかったし、意見が違っていたからといって英雄を暗殺するって何なのかしら? しかもそれを王が命じたとか意味が分からない。もちろん宰相の入れ知恵でやったらしいけどさ。何度考えても訳が分からないのよねえ。
暗殺なんて方法は許さんというのは分かる。しかしそのシャルを暗殺って、あんたも同じ事をしてるでしょーがって話にしかならないでしょ。誰か指摘しなかったのかと思うも、その王って宰相の操り人形だったんじゃないかって思うわ。
そうでなきゃ、国の英雄を暗殺したりなんてしないでしょ。そのうえ近衛騎士がやったってバレるって最悪じゃない。たとえミクが関わってそうなったにしても、そもそもがおかしいんだから話にならないわねえ。本当。
世の中というか、異なる惑星には不思議な星があるものだと思うわ。英雄を暗殺する王。嫉妬でも邪魔でもなく、汚い方法を使うのがけしからん! だもんね。どんな国でも汚い部分はあるっての。
「まあ、そうなんだけどさ。子供の頃から洗脳するように教えられてると、それが当たり前だと思い込むものよ? 先代の王の考え方だったらしいし、どちらかと言うと刷り込まれた被害者って感じじゃない?」
「ですが我が国の陛下と違っていて、例の病でお亡くなりになっているのですよね。という事は悪しき部分があったのでしょう。それがスヴェストラ将軍を暗殺した罪なのかは定かではありませんが」
おっと、そろそろお昼みたい。私達もちょこちょこ休憩したり、トイレに行ったりしてるけど、今日はもう攻めてこない気がするわ。相手はあそこまで傭兵を失ったんだしね。見ている感じでは、向こうも気が抜けてる気がする。
「そうだね。向こうも監視は置いてるけど、どうやら兵士も腰を下ろしているみたいだよ。だから今日の戦闘はもう無いんじゃないかな? 向こうも作戦会議をしてると思う。予想以上に私達が防いだからだと思うけどね」
「ファーダを行かせて盗み聞きとか出来ないのかい? それなら相手の作戦が事前に分かるんだけど……」
「言ってなかったけど、とっくに行かせてるよ。向こうに気付く奴が居るかと思ったんだけど、どうやらファーダに気付くヤツは居ないみたいだ。流石に気配、魔力、精神、生命、そして見た目を隠蔽されると無理なんだろう。前にモンスターには気付かれたんだけどさ」
「「「「「えっ?」」」」」
「鳥形のモンスターだったけど、気付かれたそうだよ。あからさまに顔が自分の方に向いてたって言ってたから。でもモンスターテイマーが気付いてなかったんで、それで勘付かれなかったみたい」
「少なくともモンスターの中には、消えてるファーダに気付く種が居るって事よね。ただし偶然にもそいつだけが得た能力かスキルかもしれないけど、そういうのが居るってだけで厄介だよ」
「話ばかりしてないで、お昼だから何か食べましょうよ。お腹空いたし」
「そうですね。そうしましょうか。眼下に死体があるままですけど」
「それは仕方ないし、諦めるしかないね。戦場なんてこんなもんさ。まだ高い所に居るだけマシだよ。地上なら腐ってくる臭いさえ鼻に来るんだ。風で薄まってるだけ、ありがたいと思いな」
実戦経験は当然豊富なんだろうけど、代わりにこういうのも経験してるって事よね。それまた良いのやら悪いのやら。ま、昼食にしましょうか。
ミクが壁の上で料理するのを眺めながら適当な雑談をしていると。何故か騎士達が私達のところにやってきた。何の用で来たのかと思ったら、また下らない事を言いに来たらしい。
「貴様らが使っていたよく分からん武器を献上せよ! 辺境伯様の御家で使われた方が武器も喜ぼう!」
「寝言は寝てから言え。起きたまま寝言をホザくな。それより傭兵の武器を奪おうなど無様な事をよくやるものだ。辺境伯家には恥というものが無いらしいな。それともお前の勝手な独断か? どっちだ」
「何だと、貴様!!」
「事実だろうが。他人から物を奪うなど、お前がやっている事は盗賊と何も変わらん。だから聞いているのだ。盗賊は辺境伯家か? それともお前だけか? どっちだとな」
「………ふんっ! いつまでもいい気になっているんじゃないぞ。お前達のような傭兵如き、幾らでも潰す方法があるのだからな!」
「ならやってみせろ。お前はすぐにこの世から消え失せるが、それが望みならさっさとやれ。………どうした、早くやれ」
「………チッ! 覚えておけよ」
「断る。覚えておくのはお前だ。私はマヌケを覚えておくほど阿呆じゃないし、そんな無駄な事はしない」
「いちいち鬱陶しいヤツめ! お前の減らず口も明日には悲鳴に変わっているだろうな!!」
騎士は怒り狂った顔で去っていったけど、あいつ自分がどれだけマヌケなのか理解していないから出来るんでしょうね。本気でこの世から消されるんだけど、知らないって幸せだと思うわ。
もちろん、あんなのには絶対なりたくないけど。だって命が幾つあっても足りないもの、あんなマヌケじゃ。




