0790・買い取り所にて
Side:シャルティア
あたし達は満足するだけの狩りを終えて辺境伯の領都へと戻ってきた。アレッサが聞いた魚族とかいう種族の事、あたしも聞いたけどビックリだよ。何で首から上だけが魚の種族が居るんだか。訳が分からない。
何かそんな感じの見た目のヤツが出てくる漫画を読んだ気がするけど、ありゃ何だったかねえ……。それはともかく、創作物である漫画に登場するキャラクターみたいな種族が本当に居るって、どういう事だと言いたいよ。
「ねえ、本当に魚族なんてのが居るの? 冗談抜きで本当に?」
「まだ信用できないんですね。気持ちは分かりますけど、本当に居ますしボク達も普通に話しましたよ。皮膚の色が水色で水かきみたいなのが付いていて、首から上が青魚。それが魚族です」
「そう。マハルが言う通り、それが魚族。自分の眼で見ていないから信じられないのは分かるけど、ミクに【転移】で連れて行ってもらったら分かるわよ。マリウェン王国に」
「魚族の国があると……。つまり国が作れるくらいに大量に居るという事ですね。その魚人間が」
「魚人間って……。魚族っていう種族だよ、れっきとした一種族だからね。変な生き物みたいに言うのは止めなさいよ」
「申し訳ありません。とはいえ常識外れというか、どうやって意志の疎通をするんですか? だって、首から上は魚なんですよね?」
「残念ながら、彼らは普通に言葉を話すわよ? それも私達と同じ言葉を」
「どうやって!?」
「そんな事を言われても知らないわよ。ただ普通に話せて意思疎通は行える。これが紛れもない事実よ」
何というか、ギャグで作られた種族なのか、それとも魚の神様がゴリ押しで作った種族なのかねえ。最近思うんだよ、神様なら何でもアリなんじゃないかってさ。幾らなんでも、首から上だけ青魚なんてのが普通に生まれる筈がないだろう。
どう考えたって神様が手を加えたか、悪魔合体したに決まってる。そんな事でもなけりゃ、〝首から上だけ〟魚っておかしいんだよ。首から下も魚でないと不自然だろうに。
「それって普通に魚じゃない? マーマンとかサハギンだと魚寄りだから、あっちならまだ分かるんだけどね。本当に人間の体だから始末に負えないんだよ。手足に水かきっぽいのが付いてるのと、皮膚が水色なだけだし」
「それが普通に腕組みしてこっちを見てたり、口を開けて普通に言葉を喋ってるのよね。言い方は悪いだろうけど、どうやって声を出してるのかは途中で考えるのを止めたわ。生命の神秘って事にしてね」
「考えたって仕方ない事は、考えたって仕方ないんですよ。ボクもアレに関しては考えるのを止めましたし、そういうものだと思うようにしています」
「私達もその話は止めましょうか、臨時の売却所というのは多分アレの事でしょう」
ふと見ると傭兵のような連中が集まっている一角があり、そこで何やら買い取りを行なっている感じだった。しかし多くの傭兵が屯しているが、大半のヤツは見ているだけだね? 何かあったかな?。
そんな所へミクは真っ直ぐ行き、まずは熊のモンスターを1体出す。この星では魔物の事をモンスターって言うから仕方ないんだけど、どうにも魔物って言いそうになるよ。
「こりゃまた珍しいな、ネイルベアじゃないか。こいつは凶暴で狩れるヤツは少ないんだが、これを狩ってくるとは優秀なんだな、お前さん達」
「まあね。それより査定してもらっていいかな?」
「了解だ」
周りの傭兵達も身を乗り出して見に来たが、どうやらちゃんと査定されてるかを確認してるんだろうね。狩りを続けてきている奴等は目利きもしっかりしてる。傷が少なかったり状態が良い方が高く売れるからね。
「こいつぁ、見事だな。首にしか傷がないぞ。その一撃で殺されてやがる」
「それだけじゃねえ。どうやったか知らないが血抜きが完璧だ。驚くしかねえが、オレ達でもここまでは出来ねえ。信じらんねえぜ」
「………こいつをコレだけとなると、中銀貨3枚ってトコでどうだ?」
「その金額は正常? それとも買い叩かれてる?」
「………微妙なトコだな。買い叩いてると言えば、そう言えなくもねえが……難しいところだ。肉の金額が低けりゃ、そんなもんかもしれんしなぁ」
「だが、これだけ綺麗に血抜きがしてあるなら、肉を買い叩いてるのはおかしくねえか? オレ達でもここまで綺麗に血抜きをするのは無理だぜ? ここまで綺麗なら肉は傷んでねえだろ」
「こっちが出せるのは中銀貨3枚だ。それで、どうする?」
「分かった。コレだけはここで売るよ」
「分かった、中銀貨3枚だ。コレだけとはどういう事だ?」
「うん? 獲物をどこで売ろうが傭兵の自由でしょうが。この領都で売買禁止になってるなら、近くの町まで売りに行ってくるだけだよ。危険を冒したのに買い叩かれるんじゃ、やってられないからね」
「そうだね。結果として戦争に間に合わないかもしれないけど、それは買い叩いたヤツが悪いんだから仕方ない。当たり前の事だよ」
「………」
「っていうか、肉が売れずともバラして必要な部位を商人に売ればいいさ。腐らない物なら買い取ってくれるし、問題なんぞ無いだろ。ついでに薬師の所に肝を卸したりすりゃいい。その手間が面倒だから売ってるだけで、面倒な手間を掛けりゃ結果は一緒だよ」
そう言ってあたし達はその場を離れ、町の人に話を聞き、本来ある買い取り所へと向かった。こっちにも多少の傭兵は居たが、向こうほど多くないね。そんな中、あたし達は獲物を売る。
「………こんなに、ですか?」
「そう。買い取れないなら戻すけど、買い取れるなら買い取ってよ」
「ご存知ないかもしれませんが、臨時の買い取り所が向こうにあ「知ってる」りまして……」
「向こうの買い取り所で、これと同じ傷の殆どないネイルベアを売ってきたんだ。中銀貨3枚だったんだけど、どう?」
「拝見します。……………ウチなら中銀貨4枚で買い取りますね。肉の質も非常に良いですし、これなら売れますよ。他にもどうやって倒したのか分からないほど綺麗な死体もありますし、全て査定させていただきます」
「お願いね。どうも私達から買い叩きたいみたいだからさ、向こうの買い取り所」
「とにかく少しでもケチを付けて、値段を下げようってところでしょうね。我々は向こうに一切関与できませんし、向こうの解体師などは何処から連れて来たのか分からない連中です」
「町の者が分からないって怪しいねえ。辺境伯家の裏の部隊か何かの可能性がありそうだ。辺境の守り人ならそれぐらいの暗部は抱えてる筈だし、そうでなきゃ辺境なんて守れない」
「それぐらい大変なのが国境、つまり辺境だもの。仕方ないとはいえ、わたし達の方に何かしてくるかしら?」
「してきたら消えるだけでしょう。いつもの事です。誰かの命を狙うという事は、自分の命が狙われるという事ですからね。自分だけは安全な所で、なんてあり得ないのですよ」
「そうやって勘違いして死んでいくマヌケは多いからねえ。ま、死ぬとしても裏の連中だけだろ。それなら替えがあるだろうし、そこまで大事にはならないさ」
そんな話をしながら、あたしは査定している連中を【精神網羅】で調べる。こっちが辺境伯家の裏部隊の可能性もあるし、両方がその可能性がある。ミクもそうだけど、あたしも油断なんてしてないよ。
阿呆なヤツってのは、自分の命令を聞かないってだけで殺しに来るからねえ。




