0788・森に出かける
Side:ミク
本体はクロスボウの構造から色々考えたようだが、最終的にはリカーブドクロスボウと呼ばれるタイプに決めたようだ。メンテナンスが面倒な物などはパスし、【身体強化】でどうにかすれば問題ないので複雑な機構を付ける意味が無い。
ドラゴン素材で作られ、弦はドラゴンの腱を四重に撚って作り出した物だ。リカーブドクロスボウとはクロスボウの先端に足を引っ掛ける金具が付いている物で、それで固定して弦を引っ張り上げる。
力も然る事ながら手を切る恐れが高いので、手を使う部分には防護の為のドラゴン皮を巻き付けた。これで安全に引っ張り上げられるだろう。本体空間に冗談で置いていたプレートアーマーなどを全て溶かし、鉄に戻してボルトを作成していく。
それなりの数は作成できるものの、あまり多くはない。やはりファーダが買ってきてくれる鉄を待つしかないだろう。それでもお金は沢山あるので、そこまで大きな問題にはならない。それに還元しなければ溜まる一方なのだから、散財は私にとって悪い事ではないしね。
本体はクロスボウを作りつつ、ボルトと矢も作っているから大変だ。この後でシャルの弓も作らなきゃいけないから、今日一日くらいは大変忙しい時間を過ごすしかないね。それに私は木を伐って本体空間に送らなきゃいけないし。
皆は適当に魔物を狩っているけど、血抜きを正しく出来るのはレティーだけだ。流石にレティーの血抜きが終わってからでないと、次の獲物を狩る訳にはいかない。なので交代交代で狩っているみたいだね。たまにはゆっくりで良いだろう。
「私だって上手く血を抜き出せると思うんだけど、やってみると難しいのよねえ。これ【浄化魔法】を使ってから直接吸い取った方が早いかな?」
「とりあえずやってみたらどうですか? 案外上手くいくかもしれませんよ?」
ティアにそう言われてやってみると、アレッサは吸い過ぎたのか鹿のモンスターが乾涸びてカチカチになってしまった。完全に干物状態だけど、そこまで吸ったら失敗だろうに何で一気にいくのかな?。
「ごめん、ごめん。何か久しぶりで感覚が鈍ってるのかも。ミクの血肉を入れられてから血を吸う必要なんて無くなったからさ、本当に忘れてたのよ。血を吸う感覚。……で、誰かこの干物要る?」
「要る訳がないでしょう。さっさと捨てて新しいのに挑戦して下さい」
「それはするけど、ティアは新しいスキルを調べなくていいの? 何だか色々あったじゃない」
「まあ、使ってみても良いのですが………なんとなくですけど、どうなるかが分かるんですよね。これもアルファ・サキュバスとやらになった所為だと思うのですが」
「ふーん……」
そう言っていると、2人の近くに熊のモンスターが現れた。奇襲をしたつもりなんだろうけど2人が気付いていない筈もなく、ティアが突然手を翳した直後、いきなり熊のモンスターは倒れた。
死んだのかと思って見ていると、熊のモンスターは痙攣し始め、それを見て色々と察したアレッサ。特に腰の辺りがビクビク痙攣しているので、そういう事なのだろう。途中でティアが止めたので見てみると、熊のモンスターは死んでいた。
「ある意味で恐ろしい攻撃だけど、さっきのってそういう事よね?」
「ええ、そういう事です。夢魔なので眠らせなければ効きが悪くなるようですが、眠っていなくても使えはしますね。ちなみに必要なのは精気であって、精そのものではありません。精の気を吸い取れば良いだけなので、臭いのは要りませんよ」
「それなら楽で助かるんじゃない? とはいえこの熊はマシな死に方をしたみたいね。ある意味では情けない死に方だけど、それでも死ぬ前に苦痛は無かったでしょうよ。それが良いか悪いかは聞いてみないと分からないけど」
「マシな死に方と言われるのも微妙ですけど、確かに精気を吸い取った結果、ほんの少しだけ強くなったみたいです。ただし強くなったのはサキュバス部分だけなので、戦いに強くなるには普通に修行をするしかありませんね」
「まあ、それはそうなんじゃない? って、アレは……酷い。シャルはちょっと強くなり過ぎじゃないかな? おそらく【神爪神脚】のスキルなんだろうけど、熊のモンスターが輪切りになってるじゃないの。それも7つに分かれてるし」
「バラバラ死体ですが、強力過ぎて使えませんね。あれでは解体所に売れないと思いますし、とてもではないですが手加減は無理でしょう。神の名が付くスキルは伊達ではありませんね」
「おっと、出来たから2人に渡すよ。これがリカーブドクロスボウね。クロスボウの先端にあるコレを足で踏んで、弦を引っ張り上げる。そしてボルトをセットしたら準備完了。後は敵に向かって撃つだけ」
「へー、貸して貸して。それ面白そう。見た事はあるけど、自分の手で触った事なんて無いのよねえ」
「で、これがティアのヤツね。適当に布を結ぶなり色を塗るなり、自分のだって分かるようにしておいてよ。それじゃ素材の色が剥きだしだからさ」
「分かりました。なかなかにズッシリと重いですね。そこまで極端に重い訳ではありませんが、結構な重量はしています」
「マハル。こっちに来てくれる? クロスボウが出来たから説明する」
「分かりましたー」
マハルが来たので説明し、ボルトとボルトを入れる筒も渡す。矢筒と似たような物だが、肩から掛けられるようにしてあるので持ち運びには便利な筈。それらを渡すと早速弦を引っ張り上げてボルトをセットしたマハル。
どうも新しい武器は使ってみたくて仕方がないらしい。モンスターを狩るのか新しい玩具を使うのか、その辺りをハッキリしてほしい気はするね。まあ、9割は玩具扱いしていると思うけど。
そんな事を考えながら見ていると、「ズドン!!」という音がした後に何かが倒れる音がした。慌てて見に行くと熊の魔物が倒れており、アレッサが勝ち誇った顔をしていた。
「ハッハッハッハッハッ! 一撃で頭をブチ抜いてやったわ。コレ相当の威力があるけど、味方に当てないように注意しないと危ないわね。ボルトが貫通して飛んでっちゃったしさ、上手く使うのは難しいかも」
「戦場なら貫通するのは問題ないんじゃないかい? 後ろの兵士も貫いていくなら都合が良いさ。多少練習したら後はいつも通りに戦いな。威力が高過ぎて音も五月蝿いしね」
「あまり大きな音をさせると獲物も逃げるし良くないわね。普通の物ならそこまで威力も無いんでしょうけど、ドラゴン素材だから危険な威力になってしまってるみたい」
「もともと人間種が殺せる程度の威力はあるのがクロスボウだけど、熊のモンスターの頭蓋骨すら貫通する威力になってるね。鉄のボルトと考えれば十分かな。これがドラゴン素材のボルトなら更に威力は上がるだろうけど」
「それは危険過ぎて駄目よ。流石のわたしでも、それを使いたいとは思わないわ。あまりに危険過ぎて」
「ならボルトは鉄の物でいいね。ファーダが買ってきてくれたから、今から量産に入るみたい。シャルのロングボウはこれからだから、ちょっと時間が掛かるよ。とはいえ経験者だから、そこまで急ぐ必要は無いだろうけどね」
「まあ、おそらく大丈夫だろうと思う。戦争直前に完成しても、撃ってれば感覚は取り戻せる筈さ。それよりアレッサとティアのスキルを練習させる方が大事だろう。使わなきゃいけない時に失敗なんて目も当てられないからねえ」
「【血液自在】は触れていなくても血を抜く事が出来るみたいだし、【夢幻搾精】は眠らせなくても使える。もっと練習すれば上手くなるだろうし、2人は練習しようか?」
「「………」」
「練習しようか?」
「「……はい」」
クロスボウで遊びたかったみたいだけど、スキルを使い熟す方が先だよ。味方を巻き込まれても困るしね。




