0785・募集の開始
Side:テイメリア・フェルス・ゴールダーム
私達が北の辺境伯領の領地に来て3日経ちました。既にスラムだけではなく町中の悪人まで駆逐されており、その中にボンクルの密偵が数人居たそうです。ミクさんがどうにか出来るのは悪人だけなので、間者というだけで始末は出来ません。
ボンクルからの間者は辺境伯領の様子を送っていたようですが、それ以外には殆どしておらず、しかも息の長い間者だったと聞きました。ガイアの日本では草と呼ばれていた者と同じで、敵国に潜入してはそこの平民になりきってしまうという者です。
おかげで平時では間者かどうかが分からず、戦時でも不審な行動をとらない限り分からないという厄介な者達。そういう者達だったようですが、どうやらそれ以外にも悪事に手を染めていたようですね。それが悪人として断じられた理由でしょう。
言い換えれば悪徳な行動をしていない限り、ミクでも草を見つけるのは難しいという事です。何かを盗みに入ったり、何かの書類を盗み見るならまだしも、様子を送るだけなら悪事にはならない。それがミクの答えでした。
確かに言われてみれば自分の近況を伝えるようなもので、それが悪事とはならないでしょう。なるのなら世の中は悪事だらけです。そういった様子から読み解くのは軍人の仕事なのでしょうが、様子を送るだけでは間者という事を強弁しても罪に問うのは難しい。
だからこそ草を捕まえるのは強引にならざるを得ないのでしょうね。無理矢理に連れて行って間者だと吐かせる。拷問をする描写の漫画もありましたが、それぐらい探すのが難しい間者。それが草と呼ばれる者達。
「法的に言っても、近況を伝えるくらい普通の事だからねえ。それに戦争前に入っていた場合は敵国じゃないし、他の国から戦争を避ける為に来たと言われれば追求は難しい。それに自国も同じ事をしているだろうしね」
「草を排除したら、自国の草も排除されかねない。難しいところですね」
「普通は見て見ぬフリをするもんだよ、そして決定的な事をしたら証拠付きで捕縛する。それしか無理だ。後は流しても問題ない情報は流しちまう事と、勘違いさせる為の情報もバラ撒く事さ。それでどの情報が本当か分からなくさせる」
「情報を減らすと怪しまれるから、敢えて増やすんだよ。真偽不明な憶測なんて一般人の間でも沢山飛び交うものだから、それに合わせて色んなのを撒く。そうすると間者はどれが本当か分からなくなるって感じかな? これも難しいけどね」
「それはともかく、いつ北の国が攻めて来るのかと傭兵達がやきもきしてますね。このまま辺境伯領に留まるのが難しいのでしょうか? お金が無いとか?」
「なら安全なスラムに行けばいいじゃない。わたし達は安全な宿屋に泊まってるんだけど」
そう、今の私達は宿の部屋で会話をしています。ミクがスラムだけでなく町中の悪人も喰い荒らしましたが、その中には傭兵も大量に含まれていました。
何故戦争が起きるかもしれないのにミクがそんな事をしたか、それは傭兵の中に工作員が含まれていたからです。どうやら彼らは破壊工作員としてボンクルに雇われていて、ボンクル軍がここまで来たら領都の内側から呼応する作戦だったと言っていました。
ようするに内側から門を開き、ボンクル軍を町中に入れる者達ですね。そんな事をされていればあっさりと陥落していたでしょう、しかしそれはミクによって防がれています。
なので現在の関心事は、この状態でボンクル軍が攻めてくるのかどうかです。草もある程度は排除され、内側から呼応するボンクル軍の味方も居ない。そうなれば普通の町攻めをせねばならず、死傷者が多数に上るのは間違いの無い事です。
「それをボンクル軍が許容できるのかどうかもあるだろうけど、それ以前に向こうは草が居なくなったり、雇った傭兵が駆逐されてるのを知ってるのかねえ。あたしとしたら、知らずに来る可能性が高いと思うよ?」
「既に入れているから問題無いって思い込んでそうね。来てみたら雇った傭兵は潰されていて、草とも連絡がとれない。なんて事になってる可能性が高いでしょうし、何より不審な連絡なんてしたら即座に草だってバレるしね」
「そうですよ。流石にそこまで愚かな事はしないと思いますし、連絡が無ければ攻めないのではないでしょうか?」
「甘いねえ。軍を使うってのは、そんな簡単な事じゃないんだよ。何ヶ月も前から決まってるし、その為に食料や馬車や武具なども集めてる。十分に集まった段階で止めるっていうのは簡単な事じゃないのさ」
「ですが、情報が不明瞭なんですよ? それでも攻めるんですか?」
「そうさ。それで負ければ現場の指揮官が悪いとなる。そういうものでもあるんだよ、戦争っていうのはね。食料も何もかもにお金が掛かっている以上、今さらやりませんは通用しないんだ。だから行きたくもないのに行かされるっていうのはあるんだよ」
「そんな事が……」
「実際あたしだってあるし、他の将軍連中にもあった。軍を発するっていうのはそういう事なんだ、だからこそ慎重に決めなきゃいけない。負ける可能性が高いっていう情報が入ってきたら止める可能性もある、でもそんな情報が無いんじゃやるよ。絶対に」
「言い切るほどなんだ……。って事は、やっぱやーめたって言うのは相当にマズい?」
「相当マズいね。何の為に準備をしたのか、掛かった費用はどうするんだとか、そういう意見が噴出するよ。最終的に何故王は許可したんだという話になる。だから王が許可するのは慎重にするんだ。やっぱやーめた、じゃ済まされないからねえ」
「王の責任問題にまで発展するんじゃ、簡単には止められないわね。言い換えれば勝てる可能性が高いから許可するって事だから、余計に情報が入らないっていう程度じゃ攻めて来るでしょ」
「負ければ指揮官の所為にされますけどね。こっちの軍制が分からないので一番上が将軍なのかどうかも不明ですし、仮に将軍が居ても出てくるかは分かりません。そもそも前の戦争は総指揮官だったのですよね?」
「このデジム王国では下級、中級、上級騎士と居るらしい。で、前の戦争で全権を持ってたのは上級騎士ってヤツだったみたいだよ。途中で首を獲られたけど」
「敵の奇襲も見抜けず、首まで獲られるなんてマヌケもいいところね。結果としたら相手を追い返せたけど、何の価値も無いじゃない。勝ったのは他の騎士や兵士の頑張りとミク達でしょ?」
「まあ、そう……何か外が五月蝿いね?」
私の耳にも聞こえてきましたので窓を開けると、何やらボンクルという言葉が聞こえます。その事から北の国が攻めてきた可能性が高いのでしょう。
「………どうやらボンクル軍が近くまで来てるらしい。傭兵は参戦するならこっちへ来いって言ってる。名簿を作るんだろうから、私達も行こうか。このまま推移するなら、今回は領都防衛戦だね」
「となると、私とミクはまた弓を撃つお仕事ね。できるだけ敵の指揮官を狙わないと損かしら?」
「それ以前に、最初に攻めて来るのは傭兵だと思うよ? だから狙うなら傭兵団の団長だね」
「ああ、そういえばボク達の時も先鋒を任されたのは傭兵団の方々でした。成り上がりを目指してでしょうけど、大変ですね」
「戦国乱世なら命は安いものさ。こんな事が各地で起きてるのが、こっちの大陸なんだ。そう正しく認識するべきだね」
私達は宿を出て傭兵を募集している人の所へと進みます。ミクが私達の名前を言い、参加証となる木札を受け取っていますね。戦争後にこれを返却すれば褒賞が貰えるそうです。
前回は懐に入れた者達が居て、安値しか貰えなかったそうですが、今回は大丈夫でしょうか?。




