0784・北の辺境伯領都
Side:シャルティア
あたし達が王都を出発して3日。あっさりと北の辺境伯の町に着いた。中に入って確認してるけど、どうやら敵国に攻められたとか奪われたって気配は無いね。もし奪われてたら民が町中を歩いていたりなんてしないんだけど、まだ普通に出歩いてる。
これなら奪われた後って感じじゃない。ただしピリピリしたものは感じるから、敵が攻めてくるのが近いのかも。とはいえ来ていない以上は憶測だし、対策は現在必死になって各組織が立ててるだろう。どんなのかは知らないけど。
「この感じ、町の方も攻められる可能性が高いので気を張っているのでしょうね。辺境はどうしたって攻められる可能性の高い所です。仕方がないとはいえ、国の支援が届き難い場所でもありますから……」
「その分だけ覚悟をしなければいけない場所ですか。やはり厳しいですね。それでも生きている方が沢山居るんですし、その方々がせめて敵国に連れて行かれたりしないようにしないと」
「戦国乱世では敵国の国民を奴隷にして売り払う事もあるっていうし、確かにガイアの漫画とか読んでたらそういう描写があるのよねー。乱世というか、そういう部分ってどの星も変わらないみたいなのよ」
「ま、そういうのは負けた後の話だ。敵を追い返せば問題ないんだから、そっちを考えるのが先さ。ミクが言ってた不死玉ってのがちょいと厄介だとは思うけど、そこはそれ、先に魔法で爆破してやれば済むだろう」
「そういうのも含めて、まずは宿をとりましょう。宿の位置は聞いたんだし、何処かに泊まれる宿があるでしょ」
どうも北から攻められるってんで、一攫千金に駆けつけた傭兵どもが多いみたいだ。その所為で宿に泊まれない可能性がある。ま、あたし達はエアーマットとか色々持ってるから、屋根と壁さえあれば何処でもいいんだけどね。
それすら無いかもしれないんだから、成り上がりたい奴等は多いんだろう。平民から準男爵に上がった事がある身としては何とも言えない部分はある。確かに名誉や金が転がってくるのは間違い無い。
その代わりとも言うべきものが色々とあるんだけど、そんなのは成ってみないと分からないんだよ。悲しい話だけどさ。今は分かってるから成るかと聞かれたら、絶対にお断りだけどね。2度と貴族なんてやらないよ。
「駄目だ。聞いた場所は全部埋まってる。これは困ったね。まさか傭兵でさえスラムに泊まってる奴等が居るなんて思わなかったよ。そこまでして戦争に参加したいのかと言うべきか、そこまでして成り上がりたいかと言うべきか……」
「スラムに泊まってまで成り上がりたいって凄いわよね。気持ちはよく分かるけどさ。とはいえわたし達もこのままだとスラムに泊まるしかないんだけど?」
「ミクが居るから安全面は問題ないし、食べ物は持ってる。お酒も甘い物も持ってる以上、雨風が凌げる場所なら何の問題も無いんじゃないの? エアーマットを敷いて寝ればいいだけだし、宿のベッドより快適でしょ」
「それはそうでしょうけど、清潔かどうかを考えると……。ミクに綺麗にしてもらえばいいだけですか。【浄滅】というトンデモ魔法がありますし」
「対外的には宿に泊まった方が良いだろうけど、あたし達にとってみれば苦労はしない部分だね。本来ならスラムで寝泊りは厳しいものがあるけど、今は仕方ないし悪人は今日の夜に居なくなるしさ」
「ミクとファーダが動くから当たり前だけどね。それよりどうしようも無いんだから、食事に行きましょうか。夕方前に着いたとはいえ、もうそろそろ夕食の時間だからさ」
アレッサが言ったのをキッカケに、あたし達は酒場へと言って飲み食いを始めた。時間的にギリギリだったんだろう、もう少し遅かったら店で食事も出来なかったところだ。
本当に傭兵が沢山集まってるんだろうけど、その所為で喧嘩なんかも起きてるらしく面倒な事になってるね。さっきも店に入れなかったヤツが騒いでいた。騒いでも入れないものは入れないんだから大人しくしてろってんだよ、まったく。
あたしは口直しの酒を飲みつつ、食事は終わってるものの既に怪しいロフェルを見て溜息を吐く。思ってる以上に酒に弱いねえ、本当に鬼の系譜なのか疑問があるよ。
鬼ってのは日本の漫画で見たけど、「ガハハ!」って言いながらガバガバ酒を飲んでるイメージだよ? なんでこんなに弱いんだろうね? ミクはゴブリン族の時から弱いって言ってたけど、ゴブリンが鬼の系譜なのもイマイチよく分からない。
まあ言ったって始まらないし、疑問を持ってもあたしには分からないから考えても無駄なんだけどさ。どうにもしっくり来ない感じかな。ま、気にする必要も無いか。
……酒も食事も終わり酒場を出たあたし達は、その足でスラムへと向かう。そして適当に誰もいない家屋に入り、そこをミクが綺麗にして寝床とした。本当にすぐに綺麗になるんだから凄いよ。儀式魔法なんて使える気もしない。
「近くの奴等は悪意を持ってないっていうか、私達がここに居るのも分かってないみたい。近くの連中から喰らっていくから、時間が経つほどに安全になっていくよ。一応3人には見せておくね。これがファーダ」
そういってミクの隣から現れたのは、いわゆる精悍な顔つきの20代半ばに見える男性だった。どうやらファーダという第2の分体はああいう顔にしたらしい。好きに変えられるとはいえ、ワイルドな感じのイイ男じゃないか。
ミクじゃなきゃ普通にそう思うけど、本体の分体だからね。そこは見て見ぬフリは出来ないかな?。
「ファーダだ、宜しくな。ガイアでも外に出ていたが、姿が決まっているという事は無かった。今はこの姿を基準としている」
「まあ、ミクは好きに姿を変えられますものね。確かに基準となる姿を作っておかなければなりませんか……。それは自分で?」
「そう。こんな感じなら怪しまれないだろうなと思って。一応基準はこれだけど、それぞれの国においてバレにくい種族の見た目に変えてるよ? 姿を現す事があればだけど」
「殆どにおいて透明ムカデの姿で喰らうだけだからな、あの姿で居る事が一番多い。が、人前に出る必要がある場合は、疑問を持たれない程度の変化はさせている。例えばマハルを助けに行った時にはオークっぽい感じの姿をしていた」
「そうなんですか。といっても、ボクは死に掛けていたので見た事はありませんが」
「それ以前に俺が本体空間に転送したから、見ること自体が出来なかったがな。そういった変化をさせて違和感を持たれにくくはしているという事だ。じゃあ、俺はそろそろ行く」
そう言ってファーダは消えた後、何処かへ行った。恐らくは透明な小さなムカデになって、悪人を食い荒らしに行ったんだろう。あたし達の居る建物の周辺から精神を感じるから、おそらくスラムの住民が居るんだろう。
こっちから何かをする気は無いけど、向こうから何かをしてくる可能性はある。それだけは留意しておかなきゃいけないね。ま、その辺りも含めてミクがどうにでもするだろうけどさ。
とにかくあたしはさっさとエアーマットを敷いて寝るかね。起きてても仕方ないし、今の時季はどうやら寒い時季じゃないらしい。なのでエアーマットだけで寝られる。
スラムなのに問題もなく寝られるんだから、ありがたいもんだね。寒ければ寝袋で眠れば済むし、ガイア様々ってところさ。ここまで外で過ごすのに快適になる道具なんて、普通は考えもしないし作らないよ。
外で過ごすアウトドアってのが趣味って、全くもって意味は分からないけど、こういう物を作ってくれるなら良い趣味に思えるねえ。
それじゃ、そろそろ寝るか。おやすみ。




