0765・行軍中
Side:ロフェル
「あんた達、随分と上から目線だけど有名な傭兵団なの? ああ、私達は有名な傭兵団とか知らないから、言われても分かんないけどね。ただ、偉そうに言ってる割には足運びとか大した事ないから聞きたいのよ」
「大した事がないから聞きたいってどういう事よ!」
「え? それは簡単でしょ。あんた達が有名なら、その程度の実力でも有名になれるって事じゃない。なら有名になるのも簡単で済むなと思っただけよ。無駄な力入れて、無駄に体力を消費する歩き方してるでしょ」
「………つまり僕達の歩き方は、キミ達からすればなってないと?」
「私も偉そうに言える立場でもないけど、そんな私よりもなってないのは確実よ。そうでしょ?」
私は名前を語らずに隣のミクに話しかける。ここで名乗っても良い事が無い気がするので、さっきからマハルも含めて名前は名乗ってないのよね。あんまり良い事とは思えないけど、でも名が知られると悪用されたりするかもしれない。
ここは知らない大陸なんだから、警戒し過ぎるくらいでちょうど良い筈よ。こっちの常識すらよく分かってないんだし。
「なってないねえ。初めて会った時の2人と同じくらいかな。こういう行軍時っていうのは体力をなるべく温存する歩き方をしなきゃいけない。にも関わらず出来てるヤツは殆どいないんだよね。ま、私からすれば歩き方、つまり歩法すら大して知らない連中って事になる」
「歩法、走術、身体操作。ボク達はそんな単純な事から教えられましたしね。最初はひたすらに反復する日々でしたよ。駄目ならペシペシ叩かれるんですけど、それが終わらないんですよね。一歩踏み出した瞬間叩かれるんですから、何が悪いか全く分かりませんでした」
「今思い出すと、間違いばかりで下手過ぎて、話にならないのがよく分かるんだけど……あの頃は何が悪いか意味不明だったのよねえ。体の傾き、視線の向き、踏み出した際の体重の掛け方、関節の使い方。踏み出す一歩でさえ、そこには技術が山ほど詰まってる」
「でも、そんなことすら考えた事のない素人に分かる筈も無いんですけどね。必死になってあーでもない、こーでもないと繰り返すしかありません。叩かれなくなった時は、ちょっと感動しましたよ。そして同時に理解もしましたけど」
「分かる。出来るようになったからこそ、はっきりと今までの自分とは違うというのが分かるのよねえ。負担の掛からない歩き方、足音のしない走り方、最大のパワーを使う為の体の動かし方。全部しっかりと技術なのよ」
「教えられた事が理解出来るようになる度に、周りの傭兵などは何も考えてないんだなというのが分かりますからね。惰性で動いても絶対に強くなれないのが分かるだけに、自分も強くなったんだと分かります」
「そりゃそうでしょ。その為に散々教えてきたんだし、そうじゃなきゃ2人はまだ修練が続いてたよ」
「それは勘弁してほしいわね。ま、まだまだ足りてないとは言われてるんだけどさ」
「「………」」
さっきから口を挟んでいた2人が黙ったわね。ま、理由は簡単で徐々に疲れてきたからよ。私達のようにミクの肉を与えられているならともかく、普通の人間種じゃどれだけ鍛えても限度がある。
それに装備を背負っていて更に背嚢に雑貨なども背負ってる。普通の連中がアイテムバッグなんて持ってないんだし、それだけの重量を加算しての行軍なのよ。前に居る騎士はともかく、兵士の息は確定で上がってきてるでしょうね。
まだ歩けるでしょうけど、そこまで長い時間は保たないかもしれないわ。もう1時間ほど歩いたら休憩かしら。戦場に着くまでに、いったいどれだけ掛かるのやら?。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
Side:マハル
今日の行軍も終了となった。結構だだっ広い所だけど、ここで今日は野営をするみたい。早速とばかりに騎士達がテントのような物を立てているけど、兵士達にそんな者は無く、傭兵にもそんな物を持って来ている者は居ない。
これは大きな傭兵団でもそうらしく、どこの傭兵団も食事の用意を始めている。昼食は歩きながら摂るらしく、ボク達も適当に歩きながらパンを食べたり干し蛸を食べたりしていた。思っているよりも美味しいんだよね、アレ。
ついでに船の中でボクを助けてくれた物でもあるし、食べているとちょっと落ち着くんだ。とはいえ夜はしっかり食べた方が良いので、ミクさんが料理をしてボクとロフェルさんは手伝いだ。
今日は魚とチャパティを焼き、後は具沢山のスープだ。野菜も肉もいっぱい入っている。いつもの竜の干し肉も入っているので、さっきから良い匂いがしていて待ち遠しい。外でもなければボク達でも竜の干し肉は食べられないんだ。
貴重な物だし、欲しいとも言い辛いからなんだけど、何より追加で手に入らないんだよね。実際にボクは戦った事も無いし、出会った事も無い。そんな状態では流石に言えないんだ、ボクもロフェルさんも。
「んー、良い匂い。本当に良い匂いなんだけど……」
そう、匂いが流れている所の傭兵から物凄く見られてるんだ。こっちの方を凝視してるんじゃないかってレベルで見られてる。良い匂いだから気持ちは分かるんだけど、傭兵は全て自分で用意するっていう決まりがあるんだよ。
言い換えれば、美味しい物を用意しないのが悪い。この一言に尽きる。ミクさんも言ってたけど、食事は士気に関わる重要なものだ。そこに拘らない連中の士気は上がらないし、そこを考えない軍は強くないって言ってた。
もちろん軍である以上は予算が決まっているので難しいんだけど、傭兵は違うからね。色々な物を用意する為に、普段からお金を稼いでおかなきゃ駄目に決まってる。にも関わらず、モンスターを狩る人達を下に見てるんだから話にならない。
真面目に戦争に参加する気があるのか? ミクさんは【念話】で行軍中にそう言ってた。ここでは秘密の話なんてし辛いから、ボク達は【念話】を使って会話をしている。口で喋るのは対外用だ。
おっと、料理が出来たみたいだから早速食べよう。こういう所ではさっさと食べてしまうのが一番良いらしい。いちいち声を掛けられる前に、さっさとお腹の中に入れてしまえば良いって事だね。
………急いで食べたけど、それでも竜肉の旨味は大きかった。むしろ早食いになっちゃったかもしれない。今でも竜の肉を口にすると、ちょっと持っていかれる部分はあって、冷静な筈なんだけど何処かが違ってる。
今は早食いした方が良いから構わないだろうけど、早く食べると味わえないから普段は抑えながら食べないといけないね。
「さーて、美味しい食事も終わったし、後はゆっくり寝るだけよ。この中で私達だけでしょうね、熟睡できるのなんて」
「周りの傭兵達に対して随分と警戒してるみたいだし、襲ってきた奴等は殺していいとまで言われてるからね。楽で助かるよ」
「殺していいと言われるって事は、それほどまでに夜中に襲ってくる者が多いって事ですもんね。ボクにはまだ分かりませんけど、こっちに対して悪意を向けている人達が居るんですか?」
「結構居るね。ま、今夜中に消えてもらう事になるだろうけど」
「向こうから来るんだから、こっちは悪くないでしょ。ついでに消えるだけだし」
「死体が残らなければ、証拠も残りませんからね。ミクさんが本気を出せば一瞬で消えますし」
「そうだね。コンディションは良くしておかなきゃいけないから、2人はしっかりと寝るようにね」
ミクさんが居る限り、警戒しなくても良いんだけど……本当にそれで良いんだろうか? 対外的にはしっかり見せておいた方がいいんじゃ?。
もしかしてワザと無用心に見せて襲わせるのかな? どのみちミクさんの予定もあるんだし、従う以外は無いんだけどね。




