0764・戦場へ
Side:マハル
今日は戦争に出発する日だ。昨日の夜にスラムの掃除は完了したらしいし、ついでに表の悪人も掃除したらしい。何でもスラムの連中と繋がっている連中が居たらしく、表で悪さをさせて嫌がらせを斡旋していたそうだ。
食堂や武具屋に雑貨屋などでもそうだけど、店同士の売り上げ競争は熾烈だ。だからこそ相手の店に嫌がらせをする商売が成立するんだろう。そんな事を表でしていた連中を根こそぎ潰したらしい。
ボクが考えても碌でもない連中だし、その人達を潰したのは当然だと思う。売り上げ競争が熾烈なのは分かるけど、内容で勝負すればいいのにさ、何で嫌がらせなんて頼むんだろう。
「それは正規の方法じゃ勝てないからでしょうね。だからそんな卑怯な方法に頼るのよ。でもね、王都の人達が知らないと思う? とある店が嫌がらせをされているとして、それで得する店は? と考えたら分かるものよ。特に地元の人はね」
「それでも店にはお客が来るでしょうし、嫌がらせでも勝ってしまえば勝ちなんだけどね。ただ、そんな事を繰り返していると最後には潰されるだろうけど」
「バカじゃないのよねえ、傭兵も地元の人も。そんな所には買いに行かなくなっていくし、噂が出回れば客足は遠のく。全ての店を潰せば1人勝ちでしょうけど、そうなる前に兵士が介入してくるわね」
「兵士を抱き込んだらどうでしょう?」
「際限なくお金が出て行く元よ、それは。そもそも体制側の者なんて欲深いもの。自分達の立場で甘い汁が吸えるとなったら、とことんまで毟り取りに来るわ。流石にそこは店側だって知ってるでしょう」
準備が出来たので部屋を出て食堂に向かう。流石にさっきの話は外で出来ないので止めるけど、嫌がらせを仕事にする連中が居るなんて思わなかった。でも、もしかしたらテフィの町にもそんなのが居たのかもしれない。
ボクが知らなかっただけで世の中には色々な人が居るし、案外見ていなかっただけかも。これからはもうちょっと視野を広くして見た方が良いかな?。
食堂で大麦粥を食べたら、ボク達は王都の入り口へと行く。まだ王都から出ないのは、王都の内側だった場合に税を払う必要が出てくるからだ。流石に無駄なお金を払う気は無い。
すると案の定、門の近くの王都側で木札を持っている者は集まるようにと聞こえてくる。外に出ていたら手続きだけで、また税を払う羽目になっていたよ。
「木札ってこれでいいんでしょ? 私達3人ね」
「お前達の名は?」
「私がミク、こっちがロフェル。そしてマハルね」
「3人だけか。役に立つかは知らんが、邪魔はするなよ」
「了解、了解」
サラッとミクさんが流したからか、紙に名前を書いている人はムッとしたらしい。とはいえ邪魔するなって喧嘩を売ってきたのは向こうが先だ。文句を言われる筋合いじゃないね。狩人は居ないけど、舐められたら負けなのは変わらないらしいし。
ミクさんが持っている木札にも何やら書き込まれて返された。その後に傭兵が集まる場所に集合させられる。それは王都の外だった。さっきムッとしてたのでワザとかと思ったけど、そうではないらしい。
集まっている傭兵が五月蝿く喋っているけど、ボク達はそれをスルーしてゆっくりする。周りの話を聞いていると、どうやら騎士や兵士が出発した後、その後ろについていく形で進軍するようだ。
正規の軍人でも何でもないから仕方ないんだろうけど、何か捨て駒にされそうな気がする。
そんな事を考えていると、大きなラッパの音と共に軍が王都を出て進軍して行く。多くの人が歓声を送っているし、騎士や兵士は誇らしそうだ。それらが過ぎた後、ボク達も歩いてついて行く。
言葉は悪いけど、その速度はとても遅く少しイライラしてきた。仕方がないとはいえ、こんなにも遅いんだね。気付いたらボクもミクさんの側に入り込んでいたらしい。
「おっそいわねえ。こんなにダラダラと歩いていくんじゃ、戦場に着くのはいつ頃かしら? まさか着く前に疲れきって戦闘にならないとか無いわよねえ」
「可能性としては在るだろうけど、いきなり戦うんじゃなくて睨み合いだから時間が掛かるんじゃない? 相手の援軍が到着したのに、その相手が疲れてるからっていきなり襲う? 人数が増えてるのに?」
「あー……それは確かにそうね。確かに疲れているところを襲撃すれば有利に戦えるだろうけど、元々にらみ合いをしているところに増援なのよね。となると簡単には攻めて来ないか」
「まあ、それもこれも突破されてないっていう前提だけどね。国境か辺境伯領が突破されてたら、とっくに奪われて橋頭堡を作られてるよ。そうなると取り戻すのは難しいね」
「もしそうなってたら、どうするんだい?」
ボク達は殿のように1番後ろに居たんだけど、その前に居た傭兵団の人が話し掛けてきた。どうやらそれなりの規模の傭兵団らしい。
「さてね。色々な方法があるけど、確実なのは暗殺かな。敵の首魁を潰せば多少なりとも命令系統を潰せる。もしくは現場で指揮を執る連中の始末で弱体化するだろう」
「それは奪われた町に潜入しなきゃいけないんだけど、キミ達はそれが出来ると?」
「出来なければ言わないよ。私達はそういう事も出来る傭兵だからね。少人数って事は小回りが利くんだよ」
「成る程。それは確かにそうだ」
どうやらミクさんの事を話半分も聞いていないようだ。となると大した人じゃないな。魔力なんかは大した事ないのが分かってる。それ以外も……そこまで何だろうね。
「本当に潜入出来るのなら立候補すればいいわよ。もし本当に出来たなら褒美も沢山出るんじゃない?」
横から話し掛けてきた女性も、こっちの実力はまるで分かってないみたいだ。若干だけど嘲るような言い方をしてる。とはいえ、傭兵同士の争いってそんなものなのかな?。
「やだね。向こうは正規の軍であり、こっちの手柄なんて好き勝手に出来る。なんで連中に奪われるって分かってる手柄を立てなきゃならないのか、意味が分からないね」
「ふーん、それなりには傭兵稼業をしてきてるみたいね。それでも3人なんて少なすぎるけど」
「数だけ多ければ良い訳じゃない。数が増えると必ずはみ出す奴が出てくる。それは邪魔にしかならないんだよ。それに仲間の危機に引き摺られて死ぬ気なんて無いんでね」
「成る程。言いたい事はよく分かるし、実際にそういう事はある。仲間が大事なのは分かるんだけど、その身を呈そうとしているキミも仲間なんだと理解してほしいよ」
「私達はそういうのが面倒臭いのよ。だから3人で居るわけ。それに3人だと役割分担もしっかり出来るし、モンスターも普通に狩れるしね」
そういえば、こっちの大陸ではモンスター買い取り所というのがあって、誰でも狩ったら持っていって構わない。だからモンスターだけ狩って生活している傭兵も多く居るそうだ。
ただし町にしか買い取り所は無いので、村なんかでは専属の傭兵を雇って買い取っている。だから町には多くの人が集まるんだろう。持って行けばさえ、お金になるんだし。
「モンスター狩りが専門かい? 戦争は全然違うから気をつけた方がいいよ」
「数回なら戦争に参加した事もあるから大丈夫よ。流石に全くの素人じゃないからね」
「それじゃ、多少は期待できそうね」
ボクは全く参加した事がないんだけど……スルーされてるっぽいから、そのままにしておこう。それにしても面倒臭いなー、こういうどっちが強いかっていう無駄なやりとり。
最強の怪物たるミクさんに言ってる時点で、マヌケとしか思えないんだよね。知ってると。




