0760・港町に到着
Side:マハル
ようやく今日が20日目だ。確実に今日到着する筈だし、やっと船の中に居る生活も終わる。結局ボクが船酔いを克服する事は出来なかった。今でも気分が悪いけど、少なくとも気分が悪い状況には慣れたと思う。
文句を言っても何をしていても気分が上向く事は無いし、いつまでも気持ち悪い状況が続く。吐きそうになるものの、吐いたら食べ物が勿体ないという思いもあって必死に我慢する日々。それがようやく終わる。
長かったよ、本当に。今日のいつ着くのかは知らないけど、着いてくれるだけで十分だ。途中で出たという蛸の干物を貰ったけど、適当に噛んでいると揺れているのを忘れるので助かった。何故かアレって噛むのに集中しちゃうんだよね。
御蔭で味を楽しみながら揺れて気分が悪いのも、多少はマシになったというか忘れられた。ま、すぐに思い出す事になるんだけど。
「ん? ………遠くに陸が見える。後もうちょっとで東の大陸の港に到着だよ」
「甲板の方も慌ただしく動いてるわね。大きな声で叫んでるみたいだし、やっとマハルも船酔いから解放されるわよ。良かったじゃない」
「本当に良かったですよ。最長で20日って聞いてたのに、きっちり20日掛かるってどういう事なんだと腹立たしかったですけど、それもようやく終わります。本当に長かった……」
「気分が悪くても話す事が出来るくらいには慣れたわね。結局、私は一度もならなかったから、船酔いがよく分からないけど」
「まあ、それは個人の能力だからねえ。何かに強いと何かに弱いとかあるし、あまり言っても仕方ないよ。ガイアじゃ3D酔いとかもあるしさ」
ミクさんが何を言っているのか分からないけど、多分他にも酔うものがあるという事だろう。恐ろしいものが他にもあるとか勘弁してほしいけど、とりあえず早く陸地に上がりたい。1分1秒でも早く!。
「港に着いたぞー! お客さんも、降りてけれー!」
「やった! 着いた!!」
ボクは喜び勇んで部屋を出ると、すぐに甲板に出た。船旅の途中で3日は雨に降られて出られなかったけど、それでも殆ど毎日甲板に上がってたんだ。道順なんて覚えてる。
甲板に出ると既に木板のような物が架けられていて、そこから港に渡れるようだった。ボクはすぐに陸地へと渡り、邪魔にならない所に座って一息吐く。気分が悪いのは変わらず、未だに揺れている気がするのは何故?。
「船酔いは陸地に上がったからって、すぐに良くなったりはしないよ。今日1日くらいは休まないとね。それでも段々と楽になっていくから、今までに比べたら遥かにマシでしょ」
「そうですか。それでも明日になれば治ってるなら十分です。それにやっと船を降りられましたし」
「そうね。本当に船に乗っている間ずっと気分が悪そうだったものね。これでようやく回復するというか、元に戻れるわ」
「そろそろ立ち上がろうか? まずは情報収集をしなきゃならないし、こっちで向こうの大陸の貨幣が使えるかも謎だしね。そこら辺も調べなきゃいけない」
「分かりました」
ボクは立ち上がるものの、それでも揺れていない地面に居るだけで気分がマシになってくる気がする。とりあえずは御二人の後ろについていく形で歩こう。今のボクじゃ周りを気にする事が難しい。
港を出て町中に入ると、まずは雑貨屋のような店に寄った。どうやら貨幣の価値と交換できるかを聞いているようだ。大銀貨1枚をミクさんは出したけど、こっちの中銀貨1枚と交換だと言われる。
ミクさんはすぐに拒否し、さっさと別の店に行く。店主が慌てて引き止めようとするも、ミクさんは一切聞く様子が無い。バカな人が居たものだと思うも、こっちの大陸では乱世だって言ってたし、ああいう人が当たり前に居るんだろう。
別の店に行くと大銀貨1枚で中銀貨4枚だと言われた。こちらは先ほどよりはマシだけど……。ミクさんはそれでいいと交換したみたい。どうやらその程度の手数料は仕方ないんだろうね。
大銀貨10枚を中銀貨40枚に交換。これである程度の期間は過ごせるだろう。ミクさんは店の人に宿の場所を聞くと、そちらの方へとさっさと移動していく。
宿に着くと3人部屋を3日とり、中銀貨を1枚渡して小銀貨2枚のお釣りを貰っていた。どうやら3人部屋を1泊で小銀貨1枚らしい。高い訳じゃないけど、乱世と聞いていた割には普通の値段なんだね。
その後、すぐに部屋に入って【浄滅】を使ったミクさんは、ベッドに腰掛けてこれからの事を話し始めた。
「今日は宿でゆっくり休もう。対外的にも「船で渡ってきたから疲れてる」で済むだろうしね。今日の夜にこっちのスラムを壊滅させて、根こそぎ金と情報を奪ってくるからさ。動くのは明日からにするよ」
「ミクは今日の夜から動くんだけど、私達は明日からって事ね?」
「基本となる知識も無いんじゃ、騙される可能性が高いんだよ。だから最低限の情報はここのスラムの連中から奪っておかないと危険だし、それが手に入る前に騙される恐れがある以上は迂闊に動けない」
「それはそうでしょうね。こちらの常識も知らないんじゃ、危険すぎます。まだ朝ですけど、ゆっくりしていましょう」
「マハルの船酔いがまだ続いてるし、そういう意味ではミクの言う通り言い訳に使えるわね」
ボクを言い訳にしてもいいので、代わりにちょっと横にならせてもらおう。揺れないベッドは本当にありがたいよ。
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Side:ファーダ
現在時刻は夜。こちらの感じが掴めていないのでミクと共に出てきたが、スラムの場所は何となく分かっている。向こうの大陸でもそうだったが、海に近い場所はやはり町になるんだな。
海産物が獲れるからだろうが、それだけ食い物の恩恵は大きいという事だろう。だからこそスラムは大きいし、その分だけ人数も多い。俺達からすればカモが多いくらいの話だが、人数が多いとそれだけ時間が掛かる。仕方がない事だが。
俺達は淡々と悪人を喰らい、持っている貨幣を奪っていく。向こうの大陸の貨幣は信用されていないのか使えないが、こうして奪っていけば何の問題も無い。最悪は1日だけ2人を本体空間に入れておけば、金は奪って調達できる。
つまり俺達にとってみれば、金なんぞは簡単に用意できる物でしかない。悪人が居れば金は手に入るんだ。これほど楽な商売もあるまい。ま、善人や普通の連中からは奪えないが、<この世に悪の種は尽きまじ>。この一言が答えだろう。
悪人が居る限り俺達の収入が無くなる事は無い。まあ、居なくなっても正当な方法で金を稼げば良いだけでしかないのだがな。
それにしても、向こうの大陸と変わらず悪人ばっかりなので楽だな。喰うだけで済むし、いちいち足止めをされる事も無い。文句なしの悪人ばかりだ。腕っ節だけで世の中が渡っていけると思っている阿呆どもは、この大陸にも多いらしい。
これが魔物を狩る狩人として生きているなら良いのだが、やっているのは暴力での犯罪だからな。生きている価値の無い連中だ。それなりに金を持っているので羽振りは良いのだろうが、所詮は裏でしか生きられない。
今は良くても弱れば喰われるしかないっていうのに、我が世の春かのような顔をしてやがる。まあ、それも今日までだがな。ミクの方もどんどんと処理してるらしいし、ここのスラムは簡単に終わりそうだ。
情報も十分に得ているみたいだし、さっさと終わらせて本体空間に戻るかね。久しぶりの外なんで楽しいが、それも続けば面倒なだけだしな。楽しい内に帰りたいもんだ。




