0758・船の中にて
Side:マハル
次の日。朝日も昇らぬ内に起こされたボク達は、急いで船のある港へと移動する。小金貨10枚も払っておいて乗り遅れたなんて事になったら、シャレにもならない。たとえ奪ったお金であり、自分達で稼いでいないといっても無駄にするのは駄目だ。
ついでに今日乗れなければ、次に乗れるのは二ヵ月後になってしまう。1度でも東の大陸に行けば【転移】で移動できるんだけど、1度は現地に行く必要がある。これが陸続きなら好きなタイミングで行けるんだけど、海で隔てられてる限りそうはいかない。
港に船があったので近寄り、ボク達は昨日会った船長さんに会う事が出来た。早めに船に乗りに来たと言うと、日の出と共に出港するから早く乗ってくれと急かされる。とにかく日の出ている内に少しでも進みたいらしい。
昨日見た時には思っているよりも大きな船で驚いていたが、中に入ると本当に大きくて驚く。ミクさんは「キャラック船?」と言っていたが、ボクにはどういう船なのかは分からない。何となく別の星にある船に似ているんだろう。
そんな船に乗り込んで船室へ。ボク達が泊まる部屋に着いたので入ると、中にはベッドなんて無くて何やら網みたいなのがあった。
「ハンモックだよ。船の中は揺れるから、寝ている最中にベッドから落ちるって聞いた事がある。ハンモックだと揺れても水平を保つから、ハンモックが使われている事もあるらしい。そういう話は読んだ事があるね」
「へー……これだと傾いても大丈夫な訳ね。なんだか寝にくいけど、一度上手くいったら大丈夫そう。………いてっ! これ上手く上がれないんだけど?」
「見事に「くるんっ」てなりましたね。もしかして思っているよりも難しいのか、な!? ……ああ、出発か。ビックリした」
いきなりガタンッって揺れたので何事かと思ったけど、どうやら船が出港したらしい。ボク達はそのまま船室でゆっくりする事にしたんだけど、早々に飽きてきてしまった。更に左右に揺れているので微妙におかしな感じになっている。
「暇なら魔法の練習でもすればいいよ。体を動かすのは無理でも魔法なら問題なく出来るからね。こういう環境でも使えるようになっておくのは悪い事じゃない。上手く出来ない環境ほど練習には最適だからさ」
そんな事を言われて練習を開始する。確かに揺れているだけで魔法陣が上手く描けずに魔法が発動しない。【清潔】という簡単な魔法であるにも関わらず、揺れているだけで認識とズレてしまっている。
驚くけど、左右に揺れているというだけで、ここまで厄介だとは思わなかった。横に居るロフェルさんも必死に魔法陣を描いているけど、ズレてて発動しないのでイライラしてきたらしい。意外に短気なのかな?。
「違うわよ。当たり前に出来ていた事が出来ない事に腹を立ててるだけ。それにしても予想以上に難しいというか、揺れている状態で描くのって普通は無理じゃない?」
「そんな事は無いよ。ほらね、簡単に出来る。2人みたいに時間が掛かるとズレるから、一瞬で構築すれば良いんだよ。結果として普段の使い方も早くなるし、何ら悪い事は無い。重要なのは魔法陣の形を考えて、体から魔力を押し出すこと」
「魔力を先に魔法陣の形にするってこと?」
「そしたら体の中で炸裂するよ? そんな危険な事は止めた方がいいと思う。そうじゃなくて、魔力を魔法陣の形に放出する。つまり放出段階で魔法陣の形にするんだよ。魔力〝で〟魔法陣を作るんじゃなくて、魔力〝を〟魔法陣の形になるように放出する」
「それって今までより遥かに難易度が高いような……」
「難易度が高いし危険性も高いね。でもこれが出来る様になったら、魔法に割く意識は大分減る。即座に使われるなら、今までよりも集中しなくて済むからね。今までは放出した魔力を操って使ってたけど、これからは放出したら発動するし」
「それはいいんだけど、代わりに体の中で暴発する恐れがあるのがねえ。それに、この方法じゃ難しい魔法は無理でしょ」
「いいや、出来るよ? 結局はどこまで使い慣れるかという事でしかないからね。難易度の高い上級なんかでも、使い慣れれば即座に使えよ。要はどれを使えるようにしておくかだね。そこは自分で考えるといい」
まずは【清潔】の魔法という事で、ボクとロフェルさんは頑張って使えるように練習する。練習するんだけど、段々と気分が悪くなってきた。これっていったい何だろう? 何でボクはこんなに……。
「ああ、これは駄目だね。マハルはハンモックで寝てるといいよ。どうやら船酔いになったらしい。ずっと揺れてると気分が悪くなって吐き気が止まらなくなるんだ。残念ながら船酔いの薬は持ってないから頑張るしかないね」
「霊水でも治らないの?」
「治るだろうけど、効果が無くなったら戻るよ? そもそも原因は揺れなんだしね。正直に言って苦しんででも体を慣らした方が良いと思う。慣れるとその気持ち悪さも治まってくるよ」
「わ、わかりました……。あの、ミクさんはともかくロフェルさんは何故大丈夫なんですか?」
「それはね、先天的に強い人が居るからだよ。揺さぶられようとも揺れようとも、全く堪えない人って居るから仕方ないね。こればっかりはどうしようもない。それにセリオの背は平気だったんだから、マハルもそこまで弱い訳じゃないと思う」
「その言い方だと、セリオの背でもマハルみたいに酔う者が居るって事ね。大変だと思うけど、暇で魔法の練習しかする事が無いよりマシじゃない? 強制的に寝るしかないんだし」
「最悪は私が香りを使って強制的に眠らせるから心配しなくていいよ。オーレクト帝国で喰ったアルラウネとマンドレイクの香りは入手してるし」
「知らなかったけど、もしかして香りって3つじゃないの?」
「ちょっと違うかな。<眠りの香り>1つとっても、昏睡するものもあれば深く眠るだけのもある。それだけじゃなくリラックスして回復を早める快眠の眠りもあった。<麻痺の香り>も<魅了の香り>もそれぞれで違うんだよ」
「へー、そんなに違うものなのねえ。不思議だけど、快眠の香りなんて商売にもなりそうなのに、何故利用しなかったのかしら?」
「持っていたのがマンドレイクだったからもあるんだろうけど、それ以上にアルラウネもマンドレイクもおそらく理解していないと思う。香りが微妙に違ってるのは分かってるみたいだけど、効果の方向性が違ってるのは分かってないっぽい。多分だけど、わざわざ調べないんだろうね」
「そうなの? マハル」
「そう、です、ね。あんまり、聞いた事、はないです。眠りなら、眠り。麻痺、なら麻痺と、いう感じでしょうか」
「ありがと。流石に辛そうだからもう聞かないわ。ゆっくり休んでちょうだい」
「すみ、ません……」
本当に気分が悪いし吐き気が酷い。これに当たり前に耐えているロフェルさんは、凄いというか羨ましい。ボクも揺れに強い方が良かったよ。今だけは切実にそう思う。
でも朝早くから起きてるから眠れないんだよね。気分が悪いまま眠れないというのもキツい。あー……気分悪い。何とか
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Side:ロフェル
「寝た?」
「快眠の香りを使ったからね。すぐに寝たよ。香りを撒くとロフェルにも効果が及ぶから、触手で突き刺して注入したけど」
「それって……目を覚ましたら怒るわよ?」
「大丈夫、大丈夫。私の触手の針は極細にも出来るから、今は刺さった感触すらしないものだよ。それで注入したから傷は見えないし、刺さったという意識も無い。起きても、気付いたら寝てたとしか覚えてないだろうね」
「どんどん恐ろしくなっていくわね?」
「そういう痛みを与えない針は、前の星であるガイアにあったんだよ。私はそれを模倣しただけ」
「そうなんだ……」
よく聞くけど、ガイアってどんな星なの? ……そもそも痛みを与えない針なんて、いったい何の為に作ったのやら。




