0757・オーガの国の港
Side:ロフェル
他の大陸の傭兵団を潰してから5日、私達は自由国家バンダルの1つ目の領都サンブムに居る。昨日着いたばかりだけど、早速ミクとファーダがスラムの掃除をしたらしい。ある程度の間引きは出来たが、ここの領都は思っているよりも数が多いみたいね。
その所為で時間が掛かるかもと言っている。更には町で見かける兵士も悪人の者が多く、そっちも含めると結構な時間が掛かるようだ。まあ、それに関しては仕方ないと思おう。
「元々からして治安の悪い国なんだし、それを売りにしているところもあるわよね? 何と言うか、何処の国にも居られなくなった者達は居るし、そういうのを集めた国って感じ」
「ゴロツキの多い国っていうのもどうかと思いますけど、元々そういう国だと分かっていれば逞しく生きていくんでしょうね。スラムにも色々とルールがあるらしいですし、それを無視したら叩き出されるそうですから」
「それは仕方ないわよ。単に表のルールと違うだけで、裏には裏のルールがちゃんとあるわ。表でも酒場なんて微妙なものよ? 裏と似たようなルールの部分はあるし、裏からお金を稼ぎに来る者も居たしね」
「そうなんですか……。ところでボク達はする事が無いんですが、何かありませんか?」
「町の外で戦闘の練習する? それとも本体空間で練習? どのみち2人ともまだまだ頑張らないといけないし、練習は必要だよ」
「「………」」
仕方ない。逃げていても始まらないし、暇を解消するには一番良いか。それに私達の戦闘能力で出来る事も変わってくるしね。必要な事だからちゃんとしておこう。
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Side:ミク
最初の領都に着いてから30日、ついにオーガの国に入った。自由国家バンダルは余りにも酷い場所だらけで、大掃除のような形になった所為で結構な時間が掛かった。
特に厄介だったのが町中の掃除だ。私達がそれをしているとはバレていないからいいが、悪人が多すぎて全てを処理するのに結構な労力をとられた。おかげで2人のストレスも溜まって訓練が雑になるし、碌でもなかったね。
その鬱憤は盗賊団にぶつけたりなどしていたが、あれから他の大陸の傭兵団に遭遇する事は無かった。最初に会ったあいつらだけだったらしい。仕方がないと言うべきか、それとも偶然が2度起きたりはしないと言うべきか。
判断に悩むところではあるが、非常に珍しい存在だったのだろう。向こうの大陸からこちらの大陸へと傭兵団ごと逃げてくるんだ、余ほどの何かがあったのだと分かる。そこは私達にとってどうでもいい部分だけどね。
それはともかく、オーガの国はそこまで大きな国ではないが、その大部分が山になっている国だ。私達が目指している港は東の端にあり、オーガの国の王都は山の頂点にある。いわゆる山城だ。
何故そんな面倒な場所にしたのかは知らないが、この国の王都まで行く気は無いので興味は無い。何故ならオーガの国は猛烈に法が厳しいからだ。
「元々オーガって怪力だけど頭が宜しくないのよ。だから一部の頭の良いオーガが国を建国して運営してきたの。で、そのオーガが作った法を、頭の悪いオーガは律儀に守っている。そういう不思議な国として有名なのよね」
「ボクも聞いた事があります。何でも頭の宜しくないオーガの方は考えるのが面倒臭いらしく、決まりがあったら従うそうなんです。だからオーガの国は非常に治安が良い事で有名なんですよ」
「バカだから治安が良いって凄いよね。跳ねっ返りは居るだろうけど、そんなのが出ても他のヤツが抑えるだろうし、さっさと牢に入れて終わりなんだろう。考えるのが面倒だから、決まっている刑をさっさと執行して終わりって感じかな?」
「多分だけどそんな感じよね。杓子定規で柔軟性とか無さそう。代わりに決まっている法は確実に執行されるだろうけど」
「でもそれってよく考えたら当たり前ですよね。その当たり前が、「面倒だから」という理由で成立するんですから……。呆れるべきでしょうか?」
「言いたい事は分かるけど、何がどう転ぶかなんて誰にも分からないものよ。怠惰だから秩序が整うっていう、訳が分からない事もあるんでしょ。現実に成立してるんだし」
「まあ、いいじゃん。王都とかには行かないし、ここからだと港の方が遥かに近いしさ。さっさと行って船に乗れる日を待とう」
そこまで時間も掛からず到着するだろうけど、果たして船に乗れるのはいつになるのやら。運が悪いと数ヶ月待つ事になるかも。
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Side:マハル
「えっ? 出発は明日!? すぐにお金を払うから明日乗船出来るようにならない?」
「まあ、東に行くもんば少ねえから、船長に言えば乗せてもらえるけんど……あんたら、でえじょうぶか? 長えぞ、船に乗るの」
「気にしない、気にしない。で、船長はどこ?」
「ちょっと待ってろ、今呼んでくっから。………かしらー! かしらー、どこだべやー?」
「ここに居るから、でけえ声出すでねや!」
「今は居っただけど、いつもは何処かさ行っとるでねか?」
「今日ば居るから、居る言うとろうが! それでなんば用じゃき、大声あげとんじゃ!」
「客が来とるだよ! 明日ば船ぇ乗せてけれ言うちょる」
「分かった。今そっちさ行ぐ! ………おめえさんらが客か? 船賃ば1人小金貨2枚だべが、払えっか?」
「………小金貨10枚ね。私、ロフェル、マハル、セリオ、レティー。これで5名の10枚。これで明日の船に乗っていいね?」
「………こら本物だ。ようもまあ、あんなトコに行きたいって高い金ば払うの? まあ、なんばしに行くかは知らんが、金ば払った以上は届けっさしてやる。明日の朝早くば出るから、日の出前には船んトコ来い」
「了解、了解。確実に遅れずに行くよ。それじゃ」
どうやら纏まったようですが、1人小金貨2枚というのは高いですね。仕方がないんでしょうが、船の上にどれだけ居なければいけないかを考えたら、今から憂鬱です。逃げられない場所というのは、嫌なものですからね。
今日の宿は決まっていますし、後は明日まで待つだけですか……。海の上で放り出される事だけは無い事を願いますが、仮にそうなっても本体空間に逃がしてもらえますし、ボク達は死なずに済むでしょう。他の方は……難しいでしょうね。
どうやって届ければいいか分かりませんし、助かった言い訳が無理そうです。っと、酒場に着いたので下らない考えは止めましょう。「そんな事を考えていたから船が転覆した」とか言われても困りますしね。
ミクさんが支払った後、ボク達はカウンター席に座って待つ。お酒が先に来たので飲みつつ、周りの声に耳を傾けてみる。
……あまり気になる話も無いので、この辺りは上手くいっているらしい。まあ、オーガの国だしね。
「それにしてもタイミングがギリギリで助かったわね。今回を逃したら、次は二ヵ月後だそうよ。笑っちゃうわ、本当」
「二ヶ月も待たされるなら、他の所に行っていた方がマシですからね。出港する前に戻ってくればいいだけですし」
「ま、明日から船旅なんだから、細かい事は気にしないでいいよ。問題は向こうの大陸に着くのにどれぐらい掛かるかだけど、二ヵ月後って事は20日ぐらい掛かるのかも」
「「20日……」」
船の上にその日数は流石に嫌だなーとは思うけど、行かないという選択肢は無いし。仕方ないんだろうなぁ……。ロフェルさんも嫌そうな顔をしてるけど、諦めたのかガックリしている。
ボクも諦めるしかないし、何とか20日間の船旅を頑張ろう。暇で耐えられないかもしれないけど。




