0753・自由国家バンダル
Side:ロフェル
あれから5日、ついに私達は自由国家バンダルに入った。
ゴブルン王国の東に森コボルトの国であるモールトがあるけど、ゴブルン王国の南東の辺りは自由国家バンダルと接している。森コボルトは平原の領地を主張していないので、そこはバンダルの領地になっているからだ。
だからモールトに入らずともバンダルに抜ける道はあるのよね。そのおかげでオーレクト帝国に関わる事無く南東に抜けていく事が出来るってわけ。流石に皇女2人を連れて行った以上は、私達の似顔絵が出回っている可能性がある。
そんな面倒な事も、あの皇帝ならやる可能性があるから気を付けておくに越した事は無い。それより自由国家バンダルに入った私達は、国境の村を経由しつつ南下して行く。大事なのはオーガの国に行く事で、バンダルを見回る事じゃないからね。
更に言えば周辺国よりも一段も二段も治安が悪いこの国に長居はしたくない。この国は自由な代わりに治安が悪くて有名だし、盗賊団とかそういうのも居るって聞く。だからこそ……。
「へえ、なら盗賊団を狩っていこうか。盗賊なんだから殺したところで誰も咎めないでしょ。私にとってはちょうど良いし、2人も対人戦を学ぶには都合が良いね。真正面から堂々と始末しに行こうか? 裏はファーダにやらせればいい」
「盗賊を真正面からはともかく、裏ですか?」
「そう。盗賊が逃げないように、ファーダには裏から逃亡者を始末してもらう。たとえそれが盗賊団の頭だろうが逃がすつもりは一切無いよ。レティーに脳を喰ってもらえば裏側に誰か居ても分かるしね」
「裏に誰か居るって……もしかして領主?」
「その可能性はあると思ってる。治安が常に悪いっておかしいからね。普通は治安はある程度の水準を維持するものだよ。盗賊が出るのは仕方ないけど、盗賊団が当たり前に居るのは明らかにおかしい。それは盗賊業が成立している事を意味する」
「盗賊業って……盗賊という仕事って事!?」
「そういう事。そしてそれは捕まらなければ成立する。裏から奪ったものや金を回してるなら、領主はそれを許す可能性が否定出来ない。それこそ、ここの領主は王と変わらないんでしょ?」
「「………」」
正気なの? と思うけど、ミクが言うって事はおそらく他の星にもそういうヤツが居たんでしょうね。それにしても盗賊と繋がってる領主って……。
「ロフェルは驚きすぎでしょ。ある星のとある国では、他国で略奪する事を認めてた国もあるよ? それが他国に対する攻撃になるからね。だから賊の一団に裏で許可を与えてたんだし、その許しを高値で売ってたぐらいだ」
「メチャクチャな事を許すわね。もし他国にバレたら集中攻撃を受けるわよ? 見つかった時の危険が大きすぎない?」
「そんな事は知らないね。その国が許可を出してやらせてたんだし、しかもそれなりの数があったらしいよ? 自分達の懐は痛めずに他国を攻撃させて、許可状というお金まで手に入る。美味しい商売だったんだろうね」
「商売って………。それは国が絶対にしてはいけない商売だと思うのですが?」
「国のトップに悪意があれば許すんじゃない? 他国の民なんて虫ケラ程度に考えている者ならするでしょ。自分達は痛まないし、知らぬ存ぜぬで無視すれば済むだろうしね。問題は無視しても許される程の力を持たないと駄目だし、怨みや憎しみは何百年と続く事を忘れちゃいけないけど」
「それもどうなのかしら!? ……急に止まってどうしたの?」
「向こうの方、それなりの数の反応が固まってる。もしかしたら盗賊団かも?」
ミクがそう言って走って行くので、私達も追っていく。森の中に入っていったけど、こんな国の端に盗賊団が居るのかしら? まだ町にも辿り着けてないんだけどね。少なくとも盗賊団って町と町の間に居るものじゃないの?。
ミクが反応が固まっているっていうぐらいだし、怪しいから見に行ってるんでしょうけども。
……ん? 止まった?。
「どうかしたの?」
「この向こうに反応が固まってる。ゆっくりと慎重に進むよ。あまり音をさせないようにね」
そう言ってなるべく音をさせないように進むミクについていく。目の前の音のしそうな枝葉はミクが喰らっているので、音も無く消えていく。流石と言うかしないわね。見てても意味が分からない。
大量に繁茂している枝葉を排除しつつ、私達が進んだ先には確かに大量に固まっていた。ゴブリンやコボルトにオーク、それに見た事も無い種族も居るわね? 殆どが毛の生えた種族だけど何処の者かしら?。
「こんな所まで逃げてくる事になったが、これからどうすればいい? 我々にとっては最早帰る事も出来ないのだ。で、ある以上はそちらに聞くしかない。次は何処で襲う?」
「少しの間はこの近くで暮らすしかない。我々は荒らしすぎた。流石に領主も表向き我らを討伐しようとするだろう。ある程度は期間を空けてから活動を再開しなければならん」
「でなければ、我々は表向きだけではなく本気で領主軍に滅ぼされてしまう。向こうとは持ちつ持たれ、つ……?」
「!? 貴様!! 狂った、か?」
「クソ! こんなところで我らに手を出すだと!? この大陸ではお前達は目立ち過ぎる! 我らを殺したらおま……!」
妙な毛の生えた種族が次々とゴブリンやコボルトやオークを殺していく。予想以上にあいつら強い? 何ていうか、殺す事に手慣れた連中ね。盗賊だから慣れてるのか、それとも……。
「そこに居る3名、さっさと出てこい。我らが気付いていないとでも思っているのか? 見られた以上はここで殺す。逃げてもいいが、逃げ切れると思うなよ」
相手は私達の位置を把握してる!? 今までの敵とは違うようね。私も今の内に武器の準備をしておかなくちゃ。とりあえずは矛でいいわね。マハルもメイスと盾の準備ができたみたい。それを合図にミクが前に出た。
「逃げる逃げない以前に、私達はここに固まってる反応があるから来たんだよ。盗賊だったらいいなと思ってね?」
「盗賊ならいいだと?」
「当然。盗賊なら殺しても何ら問題無い。私達のような善良な狩人からすれば、盗賊なんて金も毟り取れる都合のいい獲物だよ。逃がさないと言いたいのはこっちさ。金も装備も全部貰っていくよ」
「ははははは……高が3名でどうするつもりだ? 我らは60名も居るのだ、その我らに勝つとは随分と豪気な事だが……お前は阿呆か?」
「心配するな、お前達ほど阿呆ではない。私達を前にして余裕で居られるという事は、私達の実力を全く見抜けていないという事だ。そんなザコを怖れる必要があるとでも?」
「ほう、なかなか言うではないか。蛮勇に逸る者は簡単に死ぬという事も知らんらしい。頭の悪い事だ」
「お前達ほどじゃないよ。別の大陸に来て無意味に屍を晒すマヌケさを思えば、お前達よりも私達の方がよっぽど賢いね。マヌケは他人を計れない、だから相手が自分達より下だと思い込む。その時点でマヌケだと理解しない。何故って? 愚かだからだよ」
「……成る程、この阿呆3名は余ほど死にたいらしい。ならばさっさと殺してやれ」
「「「「「「「「「「おうっ!!」」」」」」」」」」
ミクの挑発に対して額に青筋を浮かべてるけど、随分と煽り耐性の無いヤツねえ。怒りに塗れていたら力が正しく使えないに決まってるじゃない。冷静にリラックスしてないと全力は出せないっていうのに。
そういう意味でもこいつらはマヌケね。




