0745・スラムに潜んでいた連中
Side:ミク
ファーダが残りの屋外のヤツを始末しに行くので、私は建物内の者どもを処理しに行く。このクシェーロの町のスラムは数が少ないものの、代わりに狩人くずれのような連中が居る。簡単に言うと、お金があるのにスラムに居ると考えれば分かりやすいだろう。
普通は実力のあるヤツなら裏の組織なりなんなりに居る筈が、一匹狼でスラムを根城にしている。そういう珍しいヤツがここには多い。もしかしたら宿代を浮かせる為にスラムの一部を牛耳ったというか、横取りした可能性がある。
実際レティーからの報告でも似たような話は聞けているので、そういった事をしている者が居るのだろう。ただ普通にスラムに居るような悪党も居るので、混在しているのが正しい。そしてその中には普通の奴等も居るようだ。
とはいえその数は少なく、大半はスラムの連中を脅して金を奪っていたり、反撃されて殺されたリを繰り返している。何と言うか、中途半端な連中が集まっている区画という感じで、あからさまなスラムとは言えないような場所だ。
分かりやすくスラムと言えば下層民か貧民区画の事をスラムという。治安が悪く暴力が支配するような場所だね。しかしここでは中途半端に狩人が入り込んでいる為、一定程度の秩序が存在する。その為、普通のスラムと同じじゃない。
意外ではあるが、まともな狩人が食えない子供を助けてやっている場所もあった。子供も悪党にまではなっていないので、その場所の者達には丸ごと手を出してはいない。この後も狩人が助け続けてやれるのかは知らないけど、それでも狩人が手を出している以上は彼らの責任だ。
私はそれらの場所をスルーしつつ、建物内の悪人どもを食い荒らしていく。ファーダも建物内を駆逐しているようだが、ちょこちょこ普通の連中が居るので面倒な事に1人1人確認しながら喰らっているらしい。
私の方では1つの場所に固まっていたんだけど、ファーダの方は点在する感じらしく少々イラついているみたい。仕方がないとはいえ、スラムなら全員悪人で居ろよと言いたくなる気持ちは分かる。確認で必ず一瞬止まるのが面倒臭いんだよね。
その都度その都度、微妙に止められる為、それらが降り積もると結構なストレスになってるみたい。言葉の端々からもそれが分かる。
よし、こっちの区画は終わったから、ファーダの方を手伝おう。ストレスを感じるほど面倒臭いようだし、そっちを早く終わらせた方が良いでしょ。
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Side:ファーダ
実に面倒なスラムだ。善人は居ないものの普通で止まっている連中が思っているよりも多い。理由はおそらく子供達を助けている事だ。善意でも偽善でもいいが、そういう他者を助ける行動をしているので、そこまで悪に染まっていない。
つまり悪に堕ちきっていない所為で、喰う訳にもいかずスルーするしかない。問題はそんな中にもアウト判定の連中が居る事だ。ボーダー上ギリギリであればスルーしているが、悪の側に傾いているなら喰うのが当たり前だ。その為に俺達は居るんだしな。
しかし悪の側に傾いているとはいえ、それもギリギリであるようなヤツも居て非常に面倒臭い。いちいち1人ずつ判定をせねばならず、その度に足を止めて考える必要があるんだ。それでも高速で思考しているので考えている時間そのものは非常に短い。
とはいえ止まって考えなければいけないのが既に腹立たしい。時間的なロスは少なくとも、俺のストレスは溜まる一方である。ミクがこちらに来てくれるようなのでやっとマシにはなるが、おそらくこっちこそが狩人達が奪い取った区画なんだろう。
いちいち居る鬱陶しい連中さえ終われば、後は奥の区画に居るであろう組織の連中を抹殺すれば済む。そうすれば掃除は終了だ。
……ようやく狩人どもというか、面倒な連中の区画が終わった。ミクも若干イライラしていたので、ダブルで本体はストレスを抱えてるな。イライラ防止の為に漫画を読んでいてくれて何よりだ。
多少は俺達のストレスも緩和するので、出来得る限り本体には楽しんでいてもらおう。俺たちはその間にどんどんと移動しては食い荒らしていく。
そして奥の区画の組織が牛耳る場所に乗り込んで、早速アジトへと入って行った。厄介なのは狩人の連中とモンスターテイマーなので、チンピラしか居なければ大した警備でもない。ザルと言ってもいいな。
中に入った俺は殺して喰いながら進み、建物の2階にある1室で話し合いをしているのを発見した。
かなり遅い時間だと思うが、まだ起きているのか。しかしチンピラが? ……少々気になるな。少し聞いてみるか。
「向こうは何と言ってきてる? こちらは新薬の実験としては成功だが、少し強力すぎると返答したが」
「場合によっては我が国の沿岸でもシーサーペントが集まってしまう可能性がありますし、あの薬は危険な物として厳重に管理していただかねばならぬでしょう」
「同じ魚族だから入り込めたが、我が国の砂浜近くの町も警戒せねばな。シーサーペントのメスから採れる物だったか? おいそれと手に入れる事が出来ぬからいいものの、これがこの国にバレたら報復として使ってきかねん。実際にシーサーペントを狩れる者どもが居るからな」
「それだけではありません。新たに町に来た狩人が、僅か3名で狩ってしまいました。金を持っていると情報をバラ撒く事で襲わせましたが、失敗した可能性があります」
「まだそんなのが居たのか、この国も存外にしぶとい。我が国としては怨みと憎しみしかない故にどうしても焦ってしまうが、その所為か? 後少しの状況で面倒な事になっているのは」
「それは関係ないかと思いますが、このマリウェンがしぶといのは事実です。あまり抵抗が続くと他の領地から狩人が更に来るかもしれませんし、そうなるとシーサーペントの数が減らされるやも……」
「なればもう一度薬を撒くだけだ。海にはシーサーペントなど腐るほど居る。そして薬はまだあるのだ。それを使えばいつまでもシーサーペントで苦しみ続けるだろう。その間に我が国は準備を整え、本格的に王都の軍が動いたら攻める」
「ついでにこの国を疲弊させる事も出来ますしな。これで我らが憎き敵国を倒す立役者となれます。マーリナ十字勲章ぐらいは貰えましょう」
「ふっ。我らマーリナ公国こそが本当の魚族の国として君臨するのだ。平和ボケのマリウェンなど最早恐るるに足らず」
東にはマーリナ公国という国があるようだな。ミク達は海産物を食いに来ただけだから、周辺国の事など気にも留めていなかったが……面倒な事だな。どちらも同じ魚族の国という事は、おそらくだが元はマリウェン王国なのだろう。
その後なにかがあって王国から独立したのだろうが、今や骨肉の争いを続ける隣国といったところか。こいつらの話から分かる事はそれだけだが、問題はシーサーペントを呼び寄せるという薬だ。
それの所為で今回の騒動になっているとは思わなかったが、今はこいつらを始末する方が先か。まずは殺しての情報収集をせねばな。
俺は<麻痺の香り>を使って動けなくした後に始末し、脳を本体空間に居るレティーに任せる。その間に家捜しを終わらせ、必要そうな書類や薬品は全て本体空間へと運んだ。薬が解明できれば、こちらでも作れるだろう。
それとも俺達が仕返しをする形で向こうに撒くかだが、それも含めて明日ゆっくりと考えればいい。今は考え事をしている場合じゃなく、スラムを壊滅させる事が先だ。
仮に戦争に巻きこまれるとしても今すぐじゃないし、俺達が薬を向こうの国に撒き散らせばそれどころじゃ無くなるだろうしな。




