0744・いつもの掃除
Side:マハル
閑散とした酒場で食事をとり、ボク達は宿の部屋へと戻る。今回も後ろをつけてくる者達が居るけど、それでも襲って来ない。今までと同じように襲ってくるのは夜中なんだろう。栄える町にはスラムがあり、そこは必ず悪人の巣窟になる。
それは仕方がない事であり、誰も彼もに仕事がある訳じゃなく、誰も彼もに行き渡るほど食料がある訳でもない。沢山獲り過ぎたら安くでしか売れないし、全員が漁師をしても需要が無ければ捨てるしかなくなる。
海というものがあり、多くの売れる物や食料が獲れる町でもこれなんだから、他の町でスラムを無くすのは無理なんだろうね。それこそ完全に閉め出してしまうしか道は無く、それしかスラムを無くす方法が無い。
宿の部屋についてから、その事をミクさんとロフェルさんに言ってみたところ、当然だろうと返される。
「当たり前でしょ。そもそも人間種って増えるのよ。そして一定の数を超えたら、何もかもが足りなくなっていく。それでも子供は出来て増えていくとなると……。ここから先は言わなくても分かるでしょ?」
「それは、まあ分かります。既に限界を超えたからこそ足りなくなっていて、だから犯罪をしないと生き残れない。そういう子供がスラムには多いのですし、大人もそんな感じです」
「そもそも生産出来る食料に限度があり、消費する民の数にも限度がある。子供を増やしまくったら限界を超えるというのは誰にでも分かる事。そこまで作った民が悪いのか、それとも食料を増やせない為政者が悪いのか。果たしてどっちだろうね?」
「それは……」
「どっちもでしょ。片方だけが悪い何てあり得ないんだし、無計画に増やすのも問題よ。それに食料の増産や仕事を増やす事が出来ない為政者にも問題がある。そういう意味では、人間種がやり難い事をミクはやってるのよね。数を間引くって事をさ」
「間引き……」
「悪人だけとはいえ、私がやっている事は間引きそのものと言えるでしょ。そうやって数を減らしてるんだしさ。それでも増えすぎた分を減らしてるようなものだから、あんまり効果は無いけどね。減らし過ぎると今度は国が傾くし」
「そうですね。減らしすぎても問題だし、減らさないのも問題ですか。そう考えると、色々な意味で厄介な事なんでしょう。簡単に助けようと思い助けたら、それが元で更に増えてしまう。そうすると余計に食料が足りなくなり……」
「私達が安易に助けるなという意味が分かった? 局所的ならまだしも、町1つの時点で既に許容出来る人数を超えてる。それらを生かそうとするなら、他所から食料を持ってくるしかない」
「でも、それをすると絶対に恨まれるわよねえ。だって他所だって足りてないんだしさ。それに助けても仕事が無いから意味が無い。もちろん悪人は真面目に働かないけど、仕事が無くてスラムに居るしかない者も居る。それをどうするのかって事も考えなきゃいけない」
「そうなると掃除されるのは必然ですね。どのみちミクさんが掃除しなくても、何処かのタイミングで抗争などが起きて死んでいくんでしょうし」
「そうなるでしょうね。結局は悪人なんだもの、どうにもならないわよ」
納得せざるを得ないというか、現状を深く考えると安易に手を出さない方が良いのがよく分かる。
ボク程度が考えて解決するなら、とっくに解決している問題なんだろう。それが解決していないって事は、簡単な事じゃないって事だ。
ならボクが悩んだってしょうがない。それに何の権限も持ってないしね。
さて、そろそろ寝ようかな。それじゃ、おやすみなさい。
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Side:ファーダ
ミクはまだ宿の部屋に居るが、俺は宿に入る前に外に出ている。後ろをつけていた連中をつけていき、今はスラムの奥にある建物に入ったところだ。どうもこの中にボスが居るらしいが、どんなヤツなのやら。
「おう、帰ってきたか! それでどんな感じだ?」
「よく分かんねえ種族のメスが2にオスが1でさぁ! ヒョロヒョロの優男みたいなガキに背の高いのが2人。オレ達なら簡単に殺せますぜ!」
「まあ、落ち着け。少なくともシーサーペントを倒したのは間違いねえんだ。モンスターとは違うっつっても簡単に倒せたりはしねえ。だからこそ連中の寝込みを襲うんだよ」
「ガハハハハ、そりゃいい。あそこの宿のバカは脅せばすぐに日和るヤツだ、金を使わなくてもすぐに開けるでしょうや」
「おう! 夜中に襲撃するからな。それまでにはしっかり寝とけ。起きねえヤツは連れて行かねえし、分け前も無しだ。分かったな!」
「「「「「おうっ!」」」」」
しょうもない連中だな。所詮はスラムのチンピラなんだが、それにしても酷い。シーサペントを倒すというのは簡単じゃないんだが、人数の多い連中の方には何もしようとしていないように見える。同じ町の云々というのは関係なく、唯の根性無しだな。こいつら。
俺は寝静まるまで待ち、その間に<眠りの香り>を薄く撒いていく。特に昏睡するような物ではなく、自然に眠たくなるタイプの香りだ。これを撒き散らす事で、このアジトの奴等を眠らせてから喰らう。
匂いに関しては全て無くして効果だけを発揮させているので、今回の物に関しては無味無臭となっている。これは遊んで使っていて判明したのだが、俺達は肉塊なので香りを付けようとしなければ匂いが無い事が分かったのだ。
わざわざ最初から香り付きではあるものの、それは自分の花の香りの延長らしいのだ。もちろん花を再現すれば香りは付くのだが、今は解析も終えているので花が無くても直接それぞれの香りを出せる。
そうやって出すと匂いが全くしないという事を発見したわけだ。当たり前だが香りが無い方が格段に使い勝手が良い。匂いで疑問を持たれずに使えるのは、非常に有利な事だ。そもそも食い荒らす時ぐらいにしか香りなど使わんのだしな。
そろそろアジトの連中は全員寝たか。では……宿の部屋の近くに人が集まってる? そっちはバカな狩人か。仕方ない、こいつらは置いておいて先にそちらを皆殺しだな。仲間をやらせる訳にはいかん。
俺は情報を受けてからすぐに戻り、宿の周りに集まっていた狩人を殲滅していく。といっても<麻痺の香り>を撒いて動けなくし、一瞬で本体空間に転送する。それを繰り返しているだけだ。
数の多いのは後回しにし、少ないのから先に転送していくと、どうやら周りの仲間が減っている事に気付いたようだ。誰か【気配察知】を持っているのだろう、「消えている」と小声で仲間に知らせている。
それを受けた連中の仲間が悩んでいるが、そいつらを纏めて麻痺させたミクは、さっさと本体空間に転送した。狩人どもの頭の中を調べておいた方がいいな。流石にちょっと大掛かりだ。もしかしたらだが、裏にギルドが絡んでいるかもしれん。
そういう危惧もあったのだが、レティーによればシーサーペントが狩れずに集まったザコどもが動いただけらしい。本来なら町の近くの林や森に行って狩りをすれば良いのだが、シーサーペントの売値を聞いて襲うのを決意したんだと。
実力が無いなら、自分が稼げるだけの金を稼げばいいものを……手っ取り早く襲って奪おうなどと考えるからこうなるのだ。悪人の末路など国が変わろうともこんなものだがな。
さっさと始末した俺はすぐに眠らせた奴等のアジトに戻り、どんどんと食い荒らしていく。ミクはスラムの屋外で寝ている連中から始末しているようだ。アジトの連中を食い荒らして金銭を強奪した俺は、ミクと同じく屋外の連中を喰う。
それにしても、この町のスラムは数が少ないな。やはり冬場が寒すぎる所為だろうか?。




