0734・これまでの事 その3
Side:ミク
「テルケー侯爵領で危険な薬物の元を探すついでにマハルを鍛えてたんだけどね、そのついでにテルケー侯爵家の中も調べてたんだよ。そしたら老人の執事が<秘密の花園>の構成員で、そいつから情報を得たら、<秘密の花園>が危険な薬物を売ってた連中だと分かった」
「で、私とミクはマハルに戦い方を教えつつ、夜はファーダが魔境の中を調べ上げて薬物の元を抜いて燃やす形で進めていったの。特に群生地を中心にして潰していったみたい。その過程で採取していた奴等も目星を付けて潰していったのよ」
「昼間は私達が魔境に入ってるから、群生地に近付いた奴は魂魄反応を覚えておけばいい。そして悪人だったら問答無用、それを繰り返して大半の採取人を消していった。そしたら来なくなったから人員が枯渇したとして、私達は本拠であるウェンの町に移動」
「そこが<秘密の花園>の本拠地がある所ですが、行ったその日に襲われましたよね。ただし相手がアレを狙ってるなんて、ボクは全く思っていませんでしたけど」
「どういう事?」
「マハルはマンドレイクで、アルラウネやマンドレイクは頭の花から香りを出せるんだけど、マハルの香りは自己陶酔の香り。つまり香りを嗅いだ自分自身に魅了されるという香りなんだよ」
「まるでナルキッソスみたいね?」
「え? 何で貴女がナルキッソスをご存知なんですか?」
「私ね、前世の記憶があるのよ。つまり産まれる前の記憶がね。その記憶では、この星とは全く違う所に住んでたわけ。で、その前世の星の私の故郷とは別の国の神話に、そういう話があるのよ。そしてミクはその前世の星を知ってるってわけ」
「そうなんですね。まさか他の星というものを知っている方が居るとは思いませんでした」
「ちなみにナルキッソスは自分に恋をしたけど、元々はそんな人物じゃないからね。アプロディーテーという神の贈り物を侮辱した事で、ナルキッソスを愛する者は誰も所有できないという罰を与えた。更にヘーラーの所為で相手の言葉を繰り返す事しかできなくなったエーコーを「退屈だ」と見捨てたんだよ。それを見たネメシスという神が、他人を愛せないナルキッソスに自分だけを愛するという罰を与えたんだ」
「あれって、そういう話だったんだ……。神話なんて詳しくないから細部まで知らなかったわ」
「ちなみに自分しか愛せないようになったナルキッソスは、その後ムーサの山にある泉に呼び寄せられ、水面に映る自分に一目惚れし、最後は離れられなくなって餓死する。またはキスしようとして溺死したと言われてる」
「ナルシズム的に自分が好きで仕方がないのかと思ってたら、神様の罰でそうなってたのねえ。ネメシスって復讐の神様だっけ?」
「違う、違う。よく間違えられるらしいけど、正しくは義憤の女神だね。神に対する侮辱を罰する女神だと言われてる。復讐とか言われるようになったのは、死者の恨みを鎮める祭りがネメシスの祭りだったからじゃないかとか読んだよ。確かネメセイアという祭りだった筈」
「その辺りは詳しく知らないけど、あそこの神話ってややこしいのが多すぎるのと、とにかく頭のおかしい最高神が居るから何とも言えない微妙さがあるのよ。とにかく女神を追いかけてヤりまくるのは、どうにかならないのかしら」
「……ゴホン! よく分からないけど、話を戻して貰ってもいい?」
「ああ、そうだね。マハルの香りは自己陶酔の香りであり、それを<秘密の花園>のトップは求めてた。何故ならそれは建国王と同じ香りだったから。かつて建国王はその自己陶酔の香りを使い、敵軍を破って建国したみたい。当然、王だからマンドレイクね」
「「「「「「「えっ?」」」」」」」
「それがどうやら正しいみたいです。愚王の時代に正妃が自分の娘を女王にし、その後に国を乗っ取ってアルラウネの国にしたらしいんです。そしてテルケー侯爵家はアルラウネの国では公爵家であり、建国王の血筋に連なるそうで……」
「それでマハルは建国王と同じ香りを持って生まれたと……。でも何故マハルを狙ったの?」
「血筋が関わりあるのかは知らないけど、マハルの頭の花を引っこ抜いて、その蜜を飲んでたね。それで香りは自分の物だとか、オーレクト帝国を支配して自分が女王になるとか言ってたよ。私には全く効かないのにね?」
「まあ、ミク殿には効かないでしょう。何だか凄い香りらしいですけど、効くなんて事はあり得ないんですし無意味ですよ。バカな方も居たものです」
「叩き潰して終了。そして花を抜かれて死に掛けていたマハルに色々として復活。何故か神話のナルキッソスみたいに美しさが非常に上がったけど、後はまあ……それなりかな? その後にロフェルにも追加する羽目になり、気付いたら種族が変わってた?」
「ああ、うん。訳が分からない部分は聞いてもしょうがないからスルーね。その後は?」
「終わったから、次は帝都にでも行こうかって話して出発。で、その道の最中にセルウェーヌに会って雇われたの。帝都までだと思ってたら、安全になるまでっていう契約で、村に泊まったらケンタウロスの護衛騎士に暗殺されかかってるしさー」
「それは私の所為じゃないわ。あれはカンガスに命じられていた、あの騎士どもが悪いのよ。そもそも貴女達を雇ったからか即座に本性を晒してきたわ。それまで何も無かったのに」
「もしかしたらセルウェーヌ様が公務を行っていたからかもしれません。だから連中は手を出さなかったのではないでしょうか? 公務の途中で亡くなったとなれば、貴族としても自分の家に疑いを向ける気かとなりますので」
「つまり公務が全て終わって帰る時にならなければ、あの騎士どもは襲ってこなかったという訳ね。それか、途中で一度帝都に帰っているけど、その時に命令を受けたかでしょう」
「騎士が暗殺に来るって冗談じゃないわね。オーレクト帝国では皇族が殺し合いをするって聞くけど、流石に酷すぎない? 何故そこまでするのかしら?」
「さあ。あそこでは国民でさえ、誰が勝ち残るのか賭けをしているくらいだしね。完全に娯楽扱いだよ。そんな国に酷いって言っても……」
「娯楽って……それは流石に、あまりにも命をバカにしていませんか? 皇族であろうが平民であろうが、命は命でしょうに!」
「言いたい事は分かるけど、おそらく不満の捌け口なんじゃないかな? 皇族が死んだ事で国民の溜飲が下がるというか、その為の生贄だと思うわよ。っていうか、それしかないんじゃないかな?」
「だから皇帝陛下は執拗に私達を殺そうとしたのかしらね? 継承権放棄と皇族籍からの離脱をしようとしたのに、なかなか許可が下りなかったし、あろう事か最後は目の前で毒杯を飲め、だもの」
「「うわぁ……」」
「最早あんな肥え太った者を父だなどとは思いませんよ。醜いったらない!」
「あれ、オーク基準でも太りすぎだから、おそらく寿命は長くないと思うよ? 誰かが早死にさせたくて太らせてるのか、それとも心労を食べることで解消してるのか。そこは分からないけど、あのままだと何れ不摂生からの病気で死ぬ」
「そこまで太ってたら高い確率で成人病だろうし、若くして死亡となるでしょうね。案外今の帝位争いが激化すれば、ゴブルン王国にとって都合が良い形になるかも」
その可能性もあるんだよねえ。帝位争いがどういう結果になろうとも、その後は荒れるだろうしさ。次の皇帝に決まった者は基盤が脆弱なまま皇帝に即位する羽目になるでしょ。




