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0733・これまでの事 その2




 Side:ミク



 「戦争の話に戻るけど、砦内で篭もってた連中はこのままじゃマズいと思い始めていた。理由は手柄が全く無い事。各部族の戦士長は、当然だけど部族長から功を挙げてこいと言われてる。そんな状態で矢だけ消耗してるというのは危機感を煽る事でしかない」


 「確かにそうね。その後の展望があるならまだしも、無いなら無意味に矢が減っていくだけでしかないわ。そしてその言い方をするって事は、そのコボルトは展望が無かったか話してなかったのでしょう?」


 「多分だけど焦れて襲ってくるまで耐えるつもりだったんじゃないかな? 「焦る必要は無い」とか各戦士長に言ってたし。その時点で自軍の事が何も分かってないんだけどね」


 「本当にそうとしか言えないわ。軍事の教本にでさえ、「作戦の大事な部分は教えずとも、概要はしっかり伝えておく事」って書かれてるんだけど……。だってそうしないと何をしていいか分からないしね」


 「そうね。ただ従えと言ったところで従う筈が無いでしょうに。そんな事も分からない……いえ、教えられてないのね。そしてそんな者に工作活動をさせてるなんて、失敗するのも当たり前じゃないかしら。それが分かっていない?」


 「もしくは、そこまで細かい現場の機微を把握していないのかも。それか現場が暴走したかどちらかね。後ろからの命令ばかりだと不満が溜まるのは当然よ? それが欲を優先させる事になったのかもしれないわ」


 「まあ、結局は戦士長の裏切りに遭ってボコボコにされ、戦士長達は次の日に攻めて来た。で、新兵器に驚いて立ち止まり、後続に踏み潰されて死んだよ」


 「「「「「「「………」」」」」」」


 「ここ笑うところなんだけどなぁ……。まあ、それはともかくとして、その後は戦闘でボコボコにして返り討ち、更にはファーダが残っていた相手の食料などの輜重を全部奪ってきた。その結果、相手は自分達の部族の下にも帰れなくなったと思う」


 「いや、思うって何ですか? 何があったか……まさか知らないんじゃ」


 「マハル、正解。私達はどうなるか分からなかったから、さっさとトンズラしたわよ。だって戦争に勝たせた時点で十分でしょ? あのままだと辺境伯がまたぞろ何かこっちに言ってきそうだったから逃げたのよ」


 「都合よく使えると思ったら、いちいちこっちに言ってきて鬱陶しいんだよねえ。だから逃げたんだけどさ。あの後で食料の無いコボルトが辺境伯領を攻めた可能性が高いんだよ。それでも敵じゃないだろうけどね」


 「それはね。辺境伯は軍だけど、コルクサの方は敗残兵でしかないもの。それも食料も武器も碌に無い敗残兵。ただしお腹は空いているから、飢えで恐ろしい事になってるでしょうけども」


 「私達はそんなのに関わる気は無かったから、辺境伯領を出て南西へ。オーレクト帝国を見に行く事にしたの。工作活動を仕掛けて来てたのがどういう国なのか気になったし」


 「そうそう。で交通の要衝のセヌリテスの町まで進んで、その後は魔境に行こうとしたんだけど、微妙に東の方が近いって聞いたから、まずは元ケンタウロスの国へ移動したのよ。セプテンガル伯爵領の領都セプテスの町ね」


 「ここは「シュエルト」っていう危険な薬が大量に出回ってた町でね。多くのスラムの住民や、一部表の住民にまで危険な薬物が出回っていた。それもその筈で、それを売り捌いていたのは何と伯爵家だったんだよ」


 「「「「「「えっ!?」」」」」」


 「実際には薬を使ったか使われたかした伯爵家が狂い、結果的に薬の売人みたいな事をしていたって形だったけどね。おそらく最初に接近して使わせたのは<秘密の花園>という組織だと思う」


 「何かの組織が絡んでいるのかもしれませんが、しかし領主家が危険な薬物を売り捌くなど……」


 「信じられないかもしれないけど事実。しかも伯爵家の者達が狩人チームのトップと狩人ギルドのサブマスターをしていて、完全に牛耳られていた。その所為で私達は無実の罪で牢に入れられたしね」


 「そんな酷い事を……」


 「いやいや、ミクがタダで捕まる筈ないじゃん。絶対に何か企んでるって! そうじゃなきゃ、あり得ないでしょ」


 「ミクは捕まってる間に根こそぎレベルで伯爵家を叩き潰したわよ? そうすれば牢に入っていたミクがやったなんて証明できないし」


 「「「「「「「………」」」」」」」



 複雑な顔をしているけど、その顔を私に向けられても困るんだけどね。そもそも私を敵に回したのが悪いんだし、そんな阿呆は叩き潰されても文句は言えないよ。当たり前の事だね。



 「それが終わった次の日には、【善なる呪い】を受けた伯爵家の次女が牢に来たけど、ミクが伯爵家を見てこいって追い返したわね。見てきた次女は絶望してたけどさ」


 「そんな事は知らないね。そもそも薬でラリってる一族なんてどうでもいいし、【瘴気の苗床】を刻まれても文句は言えないよ」


 「「うわぁ……」」 「「「「「???」」」」」



 分かってないオーレクト帝国の者達に【瘴気の苗床】の説明をすると、完全にドン引きしていた。オークだけど表情でハッキリ分かる。とはいえ、私は敵に容赦するつもりは欠片も無い。



 「その後は長男夫婦に領都を良くさせる為に、善人に書き換えて霊水を飲ませた。それで危険な薬物の影響は無くなったし、善人になったから真面目に励むよ。ま、その後で耐えられなくなった次男、次女、三男も善人に書き換えたけどね」


 「穏やかな顔をした聖人の一家になったけど、色んな意味で怖すぎるのよね。欲が全く無い顔をしていて、常に微笑んでる感じといえば分かる? 何を言われていてもニコニコしてて、全く効かないのよ」


 「ああ、本当に善人に書き換えられるんだ? それってもう元の自我が全く残ってないよね? でないとそうならない筈だし」


 「やだなぁ。神の権能を前にして、たかが一生物の自我が残るとでも?」


 「「「「「「「………」」」」」」」


 「で、無理矢理にセプテンガル伯爵領を良くした私達は、次の魔境であり原因の薬の大元であるテルケー侯爵領に移動。そして領都であるテフィに入ろうとした時に、ここに居るマハルを見たわけ」


 「当時はまだマンドレイクだったけど、5人組が後ろをつけてたから怪しいと思ったのよね。そしたらミクが悪意を持ってつけてたっていうからさ、マズいと思って宿をとった段階で私達も後を追ったのよ」


 「そしたら5人組だけ魔境の森から出てきて、クソガキをボコボコにしてやったとか言ってたから、ロフェルが狩人を襲ったのか指摘したら喧嘩を売ってきたんだよ。ま、ボコボコにして【善なる呪い】を刻んでおいたけどね」


 「その後は聞き取りをして、そっちの方向に行ったらボコボコにされて気絶してたマハルを発見。霊水を飲ませて回復させた後、色々と協力をしてもらう事になったのよ。テルケー侯爵家の事だから」


 「テルケー侯爵家の事だから? それはいったい、どういう事です?」


 「それはボクの名前がマハル・テルケーだからです。今はこの姿ですが、元はテルケー侯爵の庶子のマンドレイクでした」


 「あらら。ヘリエルもサリエルも顔が良いから怪しいって言ってたけど、テルケー侯爵家の者だったなんてね。凄い勘違いをしてたわ」


 「「申し訳ございません」」


 「いえいえ。今はこの姿ですし、所詮は外に出される事が決まっているマンドレイクであり、しかも庶子ですからね。ボク自身は大した事がありませんので……」


 「「マンドレイク?」」


 「アルラウネは女性の種族名で、男性はマンドレイクというんだよ。そしてアルラウネの家は優秀なアルラウネとスペアである妹のみが残って、それ以外は全員外に出されるという文化なんだって」


 「「へー……」」



 ストレーナとエリザヴェートは相槌を打ちながらも、首を傾げてるね。まあ、理解出来ないんだろうけど。


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