0732・これまでの事
Side:ミク
「はいはい、静かにしてね。まずは部屋を一室借りられる? そこで話をするからさ。私達も飛んできたところなんだよね」
「ええ、分かったわ。それにしても見た事も無い人達っていうか、オークとアルラウネ達ね」
「へー、これがオーク族とアルラウネ族かー……。初めて見たけど、想像してたのと特に変わらないわねえ。っと、ストレーナが動き始めたから行こっか?」
ストレーナとエリザヴェートが歩きだしたので、私達もついていく。それから少し歩き、応接室のような部屋に案内された。前に貨幣を沢山出した部屋だけど、テーブルは新しくなっていたので買ったらしい。
「新しいテーブルになってるけど、前にミシミシいってたテーブルは捨てたの?」
「いったい誰なのかと思ってたけど、貴女はロフェルなのね? また姿が変わってるけど、いったいどうなってるのよ。それに何か色々とアレな男性まで連れてるし」
「まあまあ。色々とあり過ぎて何とも言えないのよ。ちょっと座ってゆっくりしながら話を始めましょう。とはいえ話すとしても何処からかしら?」
「最初からよ、最初から。つまり私達の前から居なくなってから!」
「そこから話すの? ……ミク、話してあげて」
「どうせ忘れてるんだろうけど、私はまだ覚えてるからいいよ。まずはここを出た後、私達は辺境伯領に行ったの。その理由はもう1つの魔境ね。で、そこはアンデッドばっかりの魔境だった」
「アンデッドばかりの魔境なんてあるの? ゴブルン王国って恐ろしい所ね」
「別に恐ろしくないわよ、西の辺境伯領の魔境がそういう場所なだけ。それより貴女達はいったい誰?」
「ああ、紹介の方が先か。そっちがオルトリー・ラ・オーレクトで、こっちがセルウェーヌ・ラ・オーレクト。オーレクト帝国第2皇女と第3皇女ね。元だけど」
「「オーレクト帝国!?」」
「そうだけど……いったい何なのかしら?」
「オーレクト帝国の影の連中が、ゴブルン王国で暗躍してたんだよ。色々とね」
「それは……私達に言われても困るわね。だって私達は政に一切関わってないもの。もちろん帝王学や統治学に商業や軍事など様々な事を習ったけれど、実権なんて何も無いし命令も何も出来ないわ」
「そもそも何の権力も持ってない、第2皇女と第3皇女よ。私とお姉様はね。勉強は沢山してきたけど、実際に何かをやった事なんて無いのよ。あるのは皇太子殿下だけじゃないかしら」
「そう、ね。いくら皇女殿下とはいえ、簡単には政に関わらせてもらえないでしょう。それはともかく、何故皇女様が居るのよ?」
「それは後でね。で、辺境伯領で私達は悪人の掃除と魔境の掃除をしてたの。魔境の方はアンデッドと瘴気の掃除ね。で、それをしてたらドラゴンが怪獣大決戦をしてた」
「「「「「は?」」」」」
「それ本当なのよ。なんでも恋に敗れたドラゴンが一方的に逆恨みして強襲して負け、自分をゾンビに変えたんだって。そしたら辺境伯領まで飛んできて瘴気を吸収、更に強くなろうとしたらしいのよ」
「ドラゴンゾンビが目の前のレッドドラゴンじゃなく私達を狙ってきたから、魔法で浄化してやったらレッドドラゴンから話しかけられてね。で、どんなドラゴンがゾンビになったか発覚したわけ。ようするに下らない喧嘩だったのよ」
「傍迷惑な事をしてくれるわね……」
そんな話をしているとメイドがお茶を運んできたんだけど、オルトリーのメイドとセルウェーヌのメイドがすぐにソファーから立ちあがり、テキパキとお茶を淹れていく。それを見て唖然とするアルダギオン伯爵家のメイド。
「ごめんなさいね。文句がある訳でも、嫌がらせでもないの。ベスは私の身の周りの世話を子供の頃からしてくれてるから……」
「申し訳ありません。しかし、オルトリー様のお世話は私が致します」
「は、はあ……分かりました」
「「セルウェーヌ様、どうぞ」」
「ありがとう。ヘリエル、サリエル」
私達の前にもお茶が並べられたが、これはアルダギオン伯爵家のメイドが淹れてくれたものだ。当然だけど毒は入っていない。一応調べたんだけどね、誰の物にも含まれてはいなかった。ま、これが普通なんだけど。
「で、ドラゴンゾンビを倒した後もアンデッドを浄化してたら、今度は西の草原コボルトの国であるコルクサが攻めて来たの。私達は辺境伯から雇われての輜重運びね」
「戦場はコルクサと辺境伯領の間くらいにある砦。元々は辺境伯が監視の為に建てたものだけど、向こうに占拠されてたわ。ただし10人が常駐する程度の割には、思っている以上に大きい砦だったけど」
「そこで私達は色々とあって作戦なんかをいくつか提言し、そのうちの1つが採用されて矢を使い切らせる事にしたみたい。大盾の兵士が近付くと矢を射ってくるから、それを繰り返して消耗させる形ね」
「コルクサといえば、強力な弓矢を使う相手の筈。矢を無為に消費させるのは間違った戦術ではありませんね。心許なくなっていくのは、それだけで相手の兵に動揺を与えられるわ」
「一応は軍事機密だから言えないんだけど、ゴブルン王国は新型の武器を持ってた。で、それを知っているコルクサ側に潜入してたオーレクト帝国の間者は、砦に篭もっての戦いを主張してたね」
「「「「「「「は?」」」」」」」
「コルクサ軍を指揮してたのは、オーレクト帝国の工作員だったって事。贈り物とかを繰り返して覚えを良くしてたみたい。それで取り入って軍権を手に入れたんだろうね。最後には現場の戦士長に反発されてブン殴られてたよ」
「何やってんの、そいつ? バカじゃない?」
「絵空事は描けるんだけど、実戦は全くした事が無かったんだろうね。下っ端を従えるって事を全くしてなかったよ。ただ命令したら従うとでも思ってたみたい」
「バッカじゃないの? それじゃ何も知らない素人と一緒じゃない」
「だって元々はオーレクト帝国の孤児院のヤツだよ? 戦争の勉強なんてさせられてる筈ないじゃん。口が上手いだけで取り入ったやつだし、オーレクト帝国ではゴブリンとコボルトは見下されてるから仕方ない」
「「はあ?」」
「意図的に下層階級をつくってるんだよ。オーレクト帝国にとって併合したアルラウネの国とケンタウロスの国は大事にしなきゃいけない。優遇するって事は、何かを冷遇しないと釣り合いがとれないからね。だから意図的にゴブリンとコボルトは下に見られてるわけ」
「納得できないけど、そういう統治法ってわけね。意図的に差別される者達を生み出し、それを見下し差別する事で国民の不満を下層の者に押し付ける。どっかの赤い国がやってる事じゃない」
「そうだね。エリザヴェートは分かってるだろうけど、これって高い確率で失敗するんだよ。安易に下層民を作るから、下層民という捌け口で治まらなくなった時に打つ手が無い。そしてそれは必ず政府への不満になる」
「それで国が傾くって訳じゃないんでしょうけど、国内はどんどん疲弊していくのよね。あの赤い国も必死に誤魔化してたけど、何処まで保つのかっていうチキンレースみたいになってたし」
「オーレクト帝国は意図的にゴブリンとコボルトなどの孤児院を作り、そこで優秀そうなヤツを選別、それぞれの国の工作員として教育し送り込んでる。その内の1人が砦で指揮してたコボルトってわけ」
「オーレクト勢が驚いているところ申し訳ないんだけど、これって唯の事実なのよ。なんでも皇帝を決める争いに自分達のような下層民が参戦して、ゴブルン王国を切り崩したっていう功績を元に、孤児院の待遇改善を図る気だったみたい」
「「「「「「………」」」」」」
自分達にとっては当たり前すぎて、ゴブリンやコボルトを見下しているって感覚すら無かったんだろうね。〝当たり前〟だから。




