0731・皇帝と近衛
Side:ミク
皇帝の執務室へ行く日が来た。昨夜の暗殺者は特に多かったけど、全員いつもと変わらず手足を圧し折って放置。いつも通りの結果かとメイド達が呆れていたのが印象的だった。
彼女達の中では暗殺者という者達は、単なるやられ役に成り下がったようだ。毎日手足を折られた姿を見ていれば、流石に飽きるというものだろう。既に暗殺者を前にして緊張感すら無くなっている。
私達は昨日のうちに作戦を練っているので、今日の失敗はあり得ないだろう。皇帝が執務室に呼んで物理的な実力行使はあり得ない。あるとしたら病気を装った殺人だけだ。そしてそれは毒が最も可能性が高い。
どのみち2人にとっては皇帝の命令だ、執務室へ行かないという理由が無い。つまり毒杯を飲めと言われれば飲むしかないのだ。しかしだからと言って死ぬ訳にはいかないし、死んでやるものかという気持ちに溢れている。
だからか割と堂々と前を歩いているね。ある意味で覚悟がガンギマリ状態だと言えるかな? 殺すなら殺してみろと言わんばかりだ。
さて、豪華な扉の前に来たので私達は扉の前で待つかな。
「貴女達もどうぞ中へ。陛下は貴女達もお呼びです」
「私達も? ……分かりました」
いったい何の用なのかね? それとも毒杯飲ませて私達の所為にする気かな? どっちでもいいけどチンケな策だ。第2皇女も第3皇女も呆れてるじゃないか、その稚拙な策にさ。
豪華な扉の中に入った私達は、異様に太ったオークが執務室の机で書き物をしている姿を目撃する。これはオークでも肥満だろうというレベルだし、明らかに不摂生の塊だ。運動不足でもあるし、こいつの寿命は長くない。
そんな事を考えている間に第2皇女と第3皇女はソファーに座り、皇帝の言葉を待つ。私達は立ったままだし、部屋の中には10人の近衛が居る。……随分と警戒している割には私達を入れたね?。
外からメイドが入ってきて2人の前に紅茶を置くけど、2人は一瞥もせずにスルーした。毒杯の可能性を考えたら飲む訳が無い。
そのまま時間が過ぎた後、皇帝がチラリと2人を見て溜息を吐く。おそらく自分から飲ませたかったのだが、上手くいかなかったからだろう。そもそも暗殺者に狙われてる奴が警戒しない筈がない。
皇帝は2枚の紙を取り出し近衛に渡すと、その近衛は2枚の紙を2人の皇女の前に置いた。
「それは皇族籍から、そなた達2人が離脱した事を証明する物だ。これでお前達の願いは叶ったろう。とはいえマナーが無いのは宜しくないのではないか? 出された物に一切口をつけんのはな?」
「では、この茶を飲み干せば私達は出て行ってよいのですね?」
「……構わん」
その言質をとった第2皇女と第3皇女は互いに頷き、即座に目の前の紅茶を全て飲み干した。そして毒が効く前に、私が2人に霊水を飲ませる。2人はそれを飲んだ後すぐに紙を手に取って一礼し、皇帝の執務室から出て行く。
毒が遅効性だろうと即効性だろうと問題ない。霊水を飲んだ以上は毒など一切効かないのだ。ズンズンと歩いていく2人の後ろを私達は歩き、皇女宮へと戻ってくると、すぐに2人は精力的に動き出す。
貰った贈り物などを私があげたアイテムバッグに突っ込み、全てを持って行くと言わんばかりに詰め込んでいく。かなりの価値の宝石が付いた指環やネックレスなど、とにかくお金になる物は全て入れている。
その姿は鬼気迫るものであり、まるで悪鬼羅刹の如き顔をしていた。オークがそういう顔だと結構な迫力があるね。ちょっとした発見だよ。
「ミク、さっきの紅茶の中に毒は入ってたの?」
「入ってたよ。それも死亡確実な毒がね。遅効性なのか即効性なのかは分からなかったけど、毒である事は間違い無い。ただ、その後で霊水を飲ませてるから意味は無いけど」
「まあ、死亡以外の全てを治す薬だものねえ。たとえ強力な毒であろうと効く訳ないし、今ごろ当てが外れたと嘆いているかも。遅効性の毒なら分かってないかな?」
「どちらにしても気付かれる前に脱出だね。2人も凄い顔してたし」
「実の父親から毒杯を与えられたら、ああなって当然よ。むしろならない方がおかしいわ。一切の愛情も何もかもが無くなったでしょう。2人なら元から無いとか言いそうだけど」
「そういう親子の関係になるんでしょうね、皇族の方々だと……」
そんな話をしていると2人とも準備が整ったらしい。動きやすい質素なドレスに着替え、第2皇女はメイド1人、第3皇女はメイド2人と出て行くようだ。それでもついて来てくれる者が居て何よりだね。
全ての準備が整った私達はさっさと帝城を移動し、城の前の門へとやってきた。門番は止めようとしたものの、第3皇女が皇族籍からの離脱証明書を見せ、自分は皇族ではなくなったのだから居られないと言い切る。
流石に門番では判断がつかない為、悩んでいる隙に強引に押し通った2人は、そのまま歩いて行き貴族街への門も突破。後は宝石関係をお金に変えて馬車を買い移動するだけであった。
「2人とも、帝城から何者かがこっちに来てる。このまま素早く帝都から出るよ。じゃないと何をしてくるか分からない」
「分かったわ。私達を連れ戻す気は無いでしょうけど、確実に殺害する為かしら。どこまでも自分の思い通りにならないから実力行使に出たのかしらね」
「とにかく逃げるわよ、セルウェーヌ。こんなところで死んで堪るものですか!」
2人の皇女とメイドは早歩きで進んでいき、私達はその後ろを半円状に囲む。そして帝都への門に着き、即座に抜けていく。貴族用の門なら止められたかもしれないが、平民用の門なら出る際には止められたりなどしない。
外に出た私達はなるべく遠くへ離れようとするけど、帝都を出て少し進んだ所で追いつかれた。どうやら追ってきたのは近衛騎士らしい。
「近衛騎士という事は皇太子殿下の後ろ盾だけど、そこまで私達を殺したくて仕方ないのかしら? それとも皇帝陛下の命令? どのみちここまで殺せなかったのだから諦めればいいものを」
「今さらながらに思うけれども、随分と浅ましいものね。私達を殺そうとあんなに必死だったのに、最後はコレとは……」
「陛下への不敬はそこまでにしてもらおうか! 既に平民に成り下がっているのだぞ!!」
「近衛如きが勝てると考えている方がおかしいのよ。だから笑っているのだけれど、理解していないようねえ。近衛騎士団長?」
「さっさと平民どもの首を刎ねろ、いちいち喋らせるな」
「ロフェル、マハル、殺すな。こいつらには呪いを刻んで返す。セリオ、レティー、適当に気絶させてしまえ」
「「「了解」」」 『分かったー』
セリオが背中のアイテムバッグから降りて巨大化し、第2皇女ことオルトリーと、第3皇女ことセルウェーヌの前に立つ。唖然としている近衛どもに一斉に襲いかかった私達は、近衛どもをボコボコにしていく。
顎を狙っての攻撃、もしくは金的への攻撃により、屈強とも言われるオークが倒れたり悶絶したりしている。もはや近衛の威厳はそこには無く、在るのは無様にやられた敗北者だけだ。
私は素早く呪いを掛けていき、10人居た近衛全員に【善なる呪い】を刻み終わる。
「後はここからさっさと逃げるだけなんだけど、ちょうど良いからこいつらに見せてあげようか。皆、私の近くに寄ってくれる?」
「よく分からないけど、皆もミクの近くに集まって」
ロフェルの呼びかけもあって皆が集まったので、最後に近衛に一言を言ってお別れとしよう。
「お前達と今代の皇帝は、皇女に逃げられた役立たずとして記録に残るだろうね。まさか皇帝が権力を使って皇女を殺そうとしたのに、あっさりと逃げられるんだからさ。史上最低の皇帝と近衛じゃないかな?」
「なんだと!?」
「もう捕まえる事も出来ないんだよ。恨むならバカな自分達を恨むんだね。【転移】」
魔法陣が私達の足下に広がり、そして帝都の前から私達は消えた。近衛のバカどもが驚く顔が見られなかったのは残念だが仕方ない。
「え? ……あれ? ここはどこかし、ら?」
「ここはゴブルン王国のアルダギオン伯爵家の庭だよ。そしてそこに居るのが、ストレーナとエリザヴェートだね」
「「「「「「「ゴブルン王国!?」」」」」」」
「ミク殿!?」 「ミク!?」
いちいち大声を出さなくても、これから説明するよ。




