0730・疑惑
Side:ロフェル
私達が皇女宮に寝泊りするようになってから10日が過ぎた。日中にファーダが買い物に行ってくれるので、私達は食事の問題が全くない。そのうえ皇女宮の料理人はファーダが全員善人に書き換えたんだそうだ。
どうやら悪人に片足以上を突っ込んでいたので問題なかったらしく、さっさと善人に書き換えて安全を図ったらしい。だからか料理に問題はなく、出されるお茶や菓子にも毒などは入ってないんだって。
毒入りかどうかを判別出来るのはミクだけなので私には分からないけど、ミクが入ってないって言う以上は入っていないのは間違い無い。未だに皇族の誰も死んでいないけど、それと同時に皇族籍からの離脱も認められていない。
おかげで第2皇女は毎日こちらへ来る始末よ。相当に現状が堪えてるんでしょうけど、それの癒しとしてマハルに会いに来るのはどうなのかしら? イケメンを観賞して眼福なのか知らないけど、そういう態度が嫌われると理解していないみたいね。
そこまでおかしな行動や言動はしないからいいけど、毎日だと色々と面倒臭いのよねえ。いちいち相手するのもアレだし、喋る内容も碌に残ってない。後は喋る事が出来ないような内容ばかりだから、絶対に話せないしね。
「失礼します。第2皇女殿下と第3皇女殿下に、エイシャーダ第1皇女殿下からお誘いが来ておりますが」
「断っておいて」
「私も断っておいて」
「かしこまりました」
また第1皇女から誘いが来たのね。最近あからさまに誘い出そうとしてきてるみたい。余程に妹達が目障りになったのか、それとも殺した実績でも挙げようとしているのか……。どちらにしても、まともな精神状態ではないのでしょう。
普通はここまで露骨な事なんてしないでしょうに、余程の何かがあって誘わざるを得ない状況に追い込まれてる? 例えば弱みを握られたとか、もしくは自分の命の代わりに誰かを殺さなくちゃならなくなった?。
「難しいところね。エイシャーダ姉上の実家は公爵家だから相当強いし組織もしっかりしてる。わざわざ弱みを見せたりしないでしょうし、命の危険を感じるほど守りが弱いとは思えないわ」
「そうね。私達みたいに実家が頼りなくて最初から逃げる事を考えていた訳でも無いと思うわ。十分な準備期間があったし、実家の公爵家からも色々と言われてる筈。私達を始末しようとする理由が分からないわね」
確かに。第2皇女と第3皇女自体は既に何度も狙われている。暗殺者が来たのは一度や二度じゃない。ほぼ毎日というくらい来てるけど、ミクとファーダが鉄壁の守りを敷いているので2人の命は大丈夫。
ただ、その状況に焦り始めたのかもしれない。もしくは未だに皇族籍からの離脱が認められない以上は、皇帝が指示を出している? 第2皇女と第3皇女を暗殺しろって。
………可能性が無い訳じゃないところが何とも言えないわ。簡単な第2皇女と第3皇女を殺させて、それを機に泥沼の争いをさせる。そう絵を描いていたとしたら、未だに皇族籍からの離脱を認めない理由は分かるのよねえ。
「皇帝陛下がそんな事を? ………確かに言われれば変ですからね、貴女の言いたい事も分からなくはないわ。最初から私達は死なせる前提だったという事……」
「そうやって皇族が死ぬ事をアピールし、皇帝の座を巡る争いが開幕したと知らしめる。死ぬのはどっちでもいい、もしくは両方殺す気だった」
「策士気取りの皇帝を先に殺した方が早そうだね。誰でも殺せる以上、私は皇帝からでもいいと思うけど?」
「「「「「「「………」」」」」」」
ミクは寝ていても起きて暗殺者を叩き潰し、そいつらを廊下に放り捨ててるものねえ。丁寧に両手足を圧し折った形で。御蔭で皇女宮で暗殺者が毎日見つかるという騒ぎが起きてる。
流石に3日目辺りから慣れてきたのか、〝いつもの事〟で終わるようになってきたけど、それでも暗殺者が来る頻度が高すぎるのよ。しかもその背後は分からないまま。
ミクが生かしたまま放置してるから、脳から情報が得られてないのよ。いつもならさっさとレティーに脳を食べさせるんだけど、ここは帝城の皇女宮だからね。暗殺者を表に出した方が都合が良いから、今は情報収集をしていない。
今のところは問題になっていないのと、その暗殺者は皇帝の命令で牢に入れられて尋問されてるのよ。皇帝の命令で。
こうなってくると皇帝の関与を疑いたくなるわよ、誰であっても。歴代の皇帝もそうしてきたのかは知らないけれど、少なくとも今代の皇帝は裏で動いてるでしょう。どう考えても怪し過ぎる。
「皇帝が帝位争いを引っ掻き回す役目の可能性もあるね。流石にちょっと時間が掛かり過ぎだし、あからさま過ぎるじゃない? 仮に裏で絵を描いているのが皇帝だとしたら、あまりにも下手くそ過ぎるでしょ」
「ミクが策士気取りと言うのも分かるほどの下手さよね。ハッキリ言って情けないとしか思わないわ。皇帝が言えば暗殺者も好きに解放できるもの。ミク、もしかして暗殺者は解放されてるんじゃないの?」
「今のところは解放されてないね。とはいえ気配は同じところにあるから牢には入れられてるんじゃない? もしかしたら牢じゃないのかもしれないけど」
「牢じゃない?」
「場所は分かるけど、帝城の中を知らないからね。私にはどういう場所に居るかは不明なんだよ。一応向こうに居るのは間違い無いし、今までの暗殺者全員がそっちの方向に居る。気配がする以上は殺されてはいないね」
「全員が居るならしっかり捕まえているのかしらね。それとも、ほとぼりが冷めるまで入れたままにしておく? 手足も折られてるし。尋問していると言いながら、治療目的で入れてるのかも」
「その可能性はありそうですね。幾らなんでも怪しいですし、ここまで時間が掛かるなんておかしいですよ。どう考えても変です」
そんな話を私達がしているとドアがノックされ、初めて見る人物が入ってきた。
「侍従長? 何故貴方がこちらへ?」
「陛下より第2皇女殿下と第3皇女殿下へ通達でございます。明日、陛下の執務室へと来られるようにとの事であり、御用件は皇族籍の離脱についてとの事でございます」
「かしこまりました。明日、陛下の執務室へお伺いさせていただきます」
「私もかしこまりました。明日、お伺いさせていただきます」
「それでは私はこれで、失礼いたします」
そう言って侍従長とやらは帰っていったけど、怪しい事このうえないわね。第2皇女でさえ喜んでいないのが答えよ。皇帝が直接的に殺しに来たとしか思えないわ。いったいどうするのかは知らないけども。
「一番可能性が高いのは毒杯でしょうね。これしか無いわ。わざわざ皇帝陛下がそのような事をする理由が分からないけれど、皇太子殿下が頼んだとして有利にするのかもしれない」
「皇太子殿下が?」
「皇太子殿下なら、皇帝陛下に頼む事は出来る筈よ。他の者は無理でも皇太子殿下ならね。そもそも皇太子殿下に長子をと望んだのは皇帝陛下なんでしょ? なら手助けする可能性は十分にあるわよ。皇妃殿下が頼んでいるかも」
「そっちの方の可能性は高そうだね。そうなると毒杯で殺しておいて皇太子の手柄にかー。使える物は何でも使えって事でアピールするのかな?」
「そんな感じだと思うわよ。そもそも皇太子って時点で相当に有利だもの」
「なら2人も使えるものは何でも使えばいいよ。〝なんでも〟、ね?」
「「え?」」




