0724・馬車再び
Side:ミク
セヌリテスの町で一泊し、次の日の朝。私達は南にあるというオーレクト帝国の帝都へと出発。南西へと進む道を進んでいると、またもや道の真ん中で立ち往生している馬車を発見した。前に見た光景にそっくりなんだけど、気のせいだろうか?。
遠くからでも私の目には見えているが、外に居るケンタウロスの騎士の顔もそっくりだ。つまりオーレクト帝国に来た当初に遭った、あの馬車で間違い無いだろう。どうしたものかと立ち止まったまま考える。
「ミク、あれどうする? どう考えても嫌な予感しかしないんだけど……」
「馬車が傾いてますから、ほぼ間違いなく車軸が折れたか車輪が壊れたのだろうと思います。ただ、ボク達がわざわざ助けなければならない事でもありませんし、普通は護衛や御者達で直す筈です。側を無言で通れば声を掛けられない気はしますけど……」
「本当に? あのケンタウロスが前に遭ったケンタウロスなら、きっと碌な事を言ってこないと思うわよ? だって「平民の助力なぞ要らぬ」とか言ってたしさ。今度は「何としても助けろ」とか言われる可能性があるし」
「ロフェルが言ったケンタウロスで間違い無いよ、私の目にはハッキリと見えてるからね。こっちとしては関わりたく無いし、どうやったらスルー出来るかな? そこが難しい」
「マハルが言った通り、無言で横を通り抜けるのが一番マシじゃない? 何か言われても「無理です」って言ってゴリ押ししましょうよ。実際に馬車を直す物なんて持ってないんだしさ」
「そうだね。ここで迷ってても仕方ないし、そうしようか。それにしても邪魔をしてくれるよ、本当」
方針が決まったので、私達は歩きに切り替えて進む。馬車は未だに傾いたままであり、その周りを色々な者が囲んでいる。私達はなるべく見つからないようにしつつ、無言で足早に馬車から離れた道上を歩いていく。
そもそも道の真ん中で馬車が動かなくなっているなど邪魔でしかない。そんな状態の馬車になんて近付きたくもないし、誰だって避ける。特に平民にとったら碌な事にならないのは確実だ。
ちょうど馬車の真横に来た段階で、私達に声を掛けてくる阿呆が居た。それも前のケンタウロスだ。
「貴様ら、ちょっと待て! 何を通り過ぎようとしておる! 馬車が立ち往生しておるのだから、さっさと手伝わんか!!」
「えーっと、無理なので失礼しまーす」
そう言ってさっさと離れようと思ったのだが、馬車の中から女性の声が聞こえてきて止められた。
「その物言いは何ですか、お止めなさいと申した筈ですよ。……すみません。馬車の車軸が折れてしまったのです、交換の手伝いをお願いできませんか?」
「……はい、分かりました」
私は悪人を喰らうので、なるべくなら面倒そうなのに顔を覚えられたくはなかったんだけどね。ファーダは見られてないので、最悪はファーダに任せるしかないだろう。なるべくなら2人でさっさと終わらせたいんだけどね。
そう思いつつ私とロフェルとマハルで馬車を持ち上げるのだが、とりあえず馬車の中の女性達に外に出てもらう。
「なんだと!? このような場所に出ろとは、貴様切り殺されたいか!!」
「馬車の中に居られても重いんだから、出てくれと言うのは当たり前でしょうに。なに怒ってんの? っていうか、私達じゃなくて騎士が持ち上げれば良いでしょ」
「なに!?」
「お止めなさい! 少しでも軽くする為に出てほしいというのは当たり前でしょう。少々待ってください、準備が出来次第すぐに外に出ます」
「「「「………」」」」
護衛のケンタウロス4名がこっちを睨んでくるが、怖くとも何ともない。それよりも、ここまでピリピリしているという事は、おそらく皇女の1人だろうね。碌でもない奴と出会ったなというのが正直な気持ちかな。
皇女と2人のメイドが中から出てきたので、私とロフェルが馬車の左右から持ち上げる。そしてマハルには車軸の交換をしてもらった。そっちの方が手っ取り早いからね。どうせ2人で持ち上がるし。
「まあ! 凄い力持ちですね。それに比べて……五月蝿いだけで役にも立たないとは。貴方達にはガッカリです」
「皇女様! 我々は役立たずなどではありませんぞ! ケンタウロスとしてしゃがむのは少々難しいというだけ!!」
「ならせめて静かになさい。いちいち大声で喚くとは……。蛮族ではないのですから、大声で喚き散らさずとも聞こえています。そんな品の無い事をしているのに、皇女の護衛とでも言う気ですか」
「グッ……」
「いい加減、多少は品格というものを身につけなさい。だからこそ騎士団の中で評価が低いのでしょうに。実力だけあれば良いは、己を蛮族だと言っているようなものですよ」
「「「「………」」」」
随分と不貞腐れてるねえ、ケンタウロスども。そもそもデカい声を出すのは種族特性なのかね? <珍走団>の連中も大きな声だった気もするけど、こいつらは<珍走団>以上に大きな声を出している。
戦場なら分かるけど、普段の声量としては大き過ぎるね。それが不快だと言われれば、そりゃそうだろうとしか思わない。大きな声を出している本人は気にならないんだろうけどね。
「よし! これで大丈夫です。もう下ろしても構いませんよ」
「やれやれ、やっと終わった。持ち上げてジッとしてるのも面倒臭いね。何だか妙に力が入るというか、変に力を入れちゃうからだろうけどさ」
「ま、終わったから良いじゃん。さっさと行こう。無駄な時間を取られた分だけ、行程が狂ってるからね。今日は村の中で野宿の可能性がある」
「それはやーねー。早く行きましょ」
「そうですね。小さくとも宿で寝たいですし」
私達は皇女やメイドが乗り込んでいる隙に馬車の前に出ると、【身体強化】を使って一気に走ろうとした。すると、皇女が今思い出したかのように話し掛けてくる。
「すみません。皆さんは狩人ですね? 護衛を頼みたいのですがいいかしら?」
「………依頼内容によるとしか言えませんね。流石に内容が内容ならお断りします」
「なにっ!? 貴様ら平民は黙って従っておればよいのだ!!」
「私はいい加減にしなさいと言いませんでしたか? これ以上下らない事を言うのであれば、騎士団長には然るべき報告をしておきましょう」
「………」
「はぁ……。たとえ伯爵家の者であろうが、騎士になった以上は身分として騎士なのです。伯爵家の者として偉そうにしたいのであれば、さっさと騎士を止めて実家に帰りなさい」
「………」
「都合が悪くなると黙るとは……貴方はどうやら子供と変わらないようですね。その不貞腐れた顔も含めて騎士団長には報告しておきましょう。それより帝都までの護衛をお願いします。〝この者達〟は信用なりませんので」
「「「「なっ!?」」」」
「あー……どうする?」
「私としてはどっちでも。面倒臭いのは確実だし、妙な事に巻き込まれそうではあるけどね。最悪は帝都に届けて、さっさと逃げればいい。既に皇太子が決まった以上、皇族は戦争状態だしね」
「ボクとしてはなるべく関わりたくないのが本音です。関わったって碌な事にならないですし、正直に言って暗殺合戦や報復合戦に巻き込まれるのはちょっと……」
「幾らなんでも、私達にそれをしろとは言わないでしょう。依頼内容は帝都までの護衛だし、そこで解散とさようならで終わるわよ」
「ま、とりあえず、この紙に契約内容を書いて。それの内容次第で受けるかどうかを決めるから。狩人にとって契約内容は大事なもの。ここを適当にしたり罠を書くようなのは信用されない」
「分かりました」
ケンタウロスどもが睨む中、皇女の契約内容を読んだ私達は内容を受諾。先に小金貨2枚を貰って契約は完了となった。後は護衛として皇女を帝都まで連れて行くだけだ。
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