0723・セヌリテスの町
Side:ロフェル
私達はテフィの町を出発し、セヌリテスの町へと戻った。マハルも【身体強化】を使って走る事は出来るようになっているので、自分で走らせて感覚を身につけさせる。やがてはそれが当たり前になっていく。
ミクが言うには何でもそうらしい。難しい事も繰り返していれば当たり前に出来る様になる。重要なのは何度も繰り返す事であり、それを怠る奴はいつまでも上達しない。そう言われるとその通りなんだろうと思う。ただ、やる事の難易度が猛烈に高い気はするけど。
「なに言ってるの? 【身体強化】で走るなんて大した事じゃないよ。戦闘中に自在に強化率を変えながら戦う。ここまで出来てやっと一人前なんだから、ロフェルだってもっと練習しないとね」
私でも足りていないらしい。そもそも戦闘中に適切な強化率に変えて戦うって必要な事? 一気に強化して敵を潰す方が早いと思うんだけど違うのかしら。わざわざ手加減みたいな事をする必要があるとは思えないけど……。
「手加減じゃないよ、無駄な【身体強化】はしない方が良いって事。敵が本当に目の前の連中だけとは限ってない。新たに増援が現れる可能性はあるんだから、無駄に消費する必要なんて何処にも無いんだよ。常に全力で戦うって阿呆の子だし」
いや阿呆の子って……。言いたい事は分かるけど、結構酷いと思うのは私だけかしらね。でもミクの言ってる事は正しい。確かに言われてみればそうだけど、目の前の敵が全てとは限ってないし、増援が現れても戦えませんじゃ話にならない。
確実に勝つには無駄をなるべく減らさないといけないし、そうなると【身体強化】を全力で使うのは決して良くないって事になる。でも、自在に強化率を変えるのは簡単じゃないわよ。
「そうですね。目の前の戦いに集中していると、どうしても強化率の事なんて考えませんし、目の前の戦いに集中しないと殺されてしまいますしね。どう考えても大変ですし、何をもって適切とするかも不明です。色々考えられますけど、本当に大変ですよ」
歩いて宿に行き1日だけ宿をとったら、すぐに酒場に行ってお酒と食事を頼む。宿は小銀貨1枚と大銅貨2枚で、食事は大銅貨7枚。そこまでお金が掛かってる訳じゃないけど、私は相変わらず払っていない。それはマハルも変わらないけど、理由を知って納得していた。
「それはそうですよ。社会に還元しなきゃいけないっていうのも納得ですし、ミクさんのやらなきゃいけない事も聞けば納得です。ついでにお金が貯まる理由にも納得しましたし」
「まあねえ。貯まって当然だけど、なかなか減らないのよ。どんどん追加で貯まっていくから。それでもテフィの町の孤児院には寄付してきたんでしょ?」
「してきたよ。悪人にはアレをしてきたから、今ごろ穏やかな顔をしてるだろうけどね。院長以下そういう奴等しか居なくなってるけど、それはそれで仕方ない事だと思う。何処でも然して変わらないからねえ」
「テフィの町の孤児院の院長も駄目な方だったんですか……。何回か表敬訪問という形で行った事がありますけど、悪い方には見えませんでした。まさか見る目が無かっただけだなんて……」
「それは仕方ないんじゃない? そもそも当主とかその周辺も分かってないみたいだし、そうなったら騙されてたのはマハルだけじゃないでしょ。むしろ見抜かなきゃいけない当主まで騙されてるんじゃ、院長の方が上手だったと言うしかないわ」
「そう、ですね……。御当主様や母も騙されていた訳ですから、僕のような教育も受けてない者じゃ難しいですか」
「まあ、継がせる子供には政を教えるでしょうけど、庶子で家を出す事が決まっている子には教えないわよねえ。その家の特別な教えだってあるかもしれないんだし」
「秘伝とか、そんな感じの教えはありそうだよね。その家その家で統治方法は違うだろうし、考え方も違って当然。そうなると方針からして全く違うんだし、長年の蓄積したデータもまた違う。そこからの気付きや閃きもまた違ってくる」
「そうなると各貴族家で随分と教育内容が違ってるのかもしれないわねー……って、お酒飲みながらする話じゃなかったわ。他の話をしましょうよ」
「他の話ねえ……帝都に一度行ってみるのは確定してるけど、その道筋を聞き込むのは明日だし。何かあったかな?」
「この町に<氷結の躯>の本拠があるって事ぐらいですかね? 御当主様が仰ってましたけど、<氷結の躯>って公爵家の三男の方が作った狩人チームだった筈です」
「「えっ?」」
「あれ? ご存知なかったんですか? オグレンド公爵家の……ドミトス様だったと思います。その方が要衝のセヌリテスで監視をしているとか聞きました。御当主様は、おそらくあそこで邪魔者を消しているのだろうと言っておられましたし」
「成る程ね、そんな事をしてたのか。それで私達に声を掛けてきたと。変だと思ってたのよねえ、この町を見て回ってたら急に声を掛けてくるしさ。アレは私達が何処かの間者とかじゃないかと疑ってたのね」
「とはいえ堂々と声を掛けてきたって事は、そこまで疑ってはいなかったんだと思うよ。本当に疑いを持ってたら声なんて掛けないしさ。だって疑ってますよと教える事にしかならない」
「疑われたら困る者なら、すぐにピーンと来るでしょうね。そういうヤツは遠くから見張ったりするだけにして、そこまで怪しくないのからは話を聞くって感じ?」
「だと思う。ま、そこまで疑われてないなら構わないし、疑われてても疑いだけで終わるでしょ。そもそも私達は何かする気も無いんだし、何もする気が無い以上は探しても見つからないしね」
「証拠以前に何もする気が無いんだから、疑惑止まりで終わるわよねえ。そもそも疑われても困るんだけど、疑う側に言っても止める事は無いし。少々面倒臭いって思うくらいかしら?」
「そうですね。公爵家の為にされているのか、それとも皇帝陛下から何か言われておられるのか……。その辺りは分かりませんし、それこそ探る意味もありません。近付かなければ良いのですから、明日までの辛抱ですね」
「明日には帝都に向けて移動するからねえ。それにしてもオーレクト帝国の帝都ってどんな所かしら? 随分と違ってると思ってるんだけど、案外ゴブルン王国の王都と変わらなかったりして……」
「そこまで大きくは変わらないんじゃない? 気候や風土が変われば建物からして変わるんだろうけど、ゴブルン王国とオーレクト帝国って気候の変化があんまり無いんだよね。極端に暑い寒いという違いがある訳じゃないし、乾燥か湿気てるかの違いも無い。ハッキリ言って変わる理由が無いって感じ」
「という事は大した違いも無いって事ね。何だか行く気が萎えてきたわ……」
「それでも一度は行かなきゃいけないんだし、行って納得したら次の国へと向かおうよ。今度は戻って北の国かな? それとも更に南の国へと行く?」
「北は寒そうなイメージだけど、今の季節なら大丈夫かな? 今の内に北に行って、寒くなってきたら南の暖かい方に行くとか?」
「何だか凄く贅沢な事を言っているような気がするんですが……」
「良いじゃん、贅沢でも。北の寒い所に行ったら美味しいものとかありそうじゃない?」
「まあ、ありそうだなと思いますし、行ってみたいなとも思いますけど……」
「じゃあ、決まり。次は北に行きましょう」
ガイアっていう星では北の寒い海って所で、美味しい物が獲れるらしいのよねえ。そんな話は聞いてたから、ちょっと楽しみ。




