0068・ダンジョン40階突破
ダンジョンの周りは堀と柵で覆われ、簡易的な砦のようになっていた。ミクはその砦の門のような場所で、探索者の登録証を提示し中へと入る。
中は活気に包まれており、様々な物売りなどが大声で商品をアピールしている。主に食べ物だが、探索者は手軽に食べられる物を好む為、こういう場所で買っていくのだろう。ゴールダームには無い風景である。
町中というか王都内にダンジョンがあるゴールダームでは、ダンジョン近くは人が多い為、出店が禁止されている。それにそもそも探索者は馴染みの店で購入してくるので、露店の商品などは買わないだろう。
そういう事も相まってゴールダームでは見られない景色なのだ。そんな中を歩いて行くと、ダンジョンに入る為の魔法陣が中心にあり、三角の頂点上にショートカット魔法陣があるのが見えた。
つまり中央に対して上、右下、左下という風に配置されている。21階からが右下で、41階からが左下だそうだ。つまり上のショートカット魔法陣は誰も使った事が無いのである。
ミクは中央の魔法陣に乗り、王都フィラー近くのダンジョンに入った。
このダンジョンは周囲5キロほどで構成されており、そこまで広いダンジョンではない。とはいえ、世界最大のゴールダームのダンジョンと比べれば、何処のダンジョンも絶対に小さいと言える。
そんな小さなダンジョンをミクは駆け抜けていく。正直に言って浅い階層など、戦う事すらミクにとっては無駄なのだ。だから【身体強化】を使い一気に走り抜け、周りの探索者を無視して階段を下りる。
どんどんと追い抜かしていき20階。ボス部屋前でミクは順番待ちをする事に。ここのボスも生か死か、そのどちらかしかないものの、挑戦する者は多くいるらしい。
保険の為なのか、ここで多くの者と組んで安全を図ろうとする者もおり、いったい何十人で攻略する気だとミクも呆れている。それほどの人数を使っても難易度は変わらないのがボス戦だ。
出来る限りの安全策をとるのは当たり前とも言える。そんな中、何度誘われても拒否する者が居る。そう、ミクだ。
「出来るだけ沢山の人数で攻略した方が良いわよ。だから一緒にボス戦に挑みましょう?」
「必要ない。そもそも20階程度でいちいち組む理由が無いし、人数ばかり居ても邪魔で面倒臭い。私は一人で問題なく突破できる。それよりそろそろ順番が回ってきそうだから行ったら?」
「私が声を掛けてあげてるのに、何ていい草よ!! 大して強くもない癖に! 調子に乗るんじゃないっての!!」
ミクを誘っていた女性が激しく怒りながらも、仲間達が入っていくのを見て、慌ててその後を追っていった。周囲の連中はミクをジロジロと見てくるが、声までは掛けてこない。
そんな微妙な空気の中、一人の少年が意を決して声を掛けてきた。
「あの、本当に良かったんですか? あの方々は人数が多そうでしたけど?」
「問題ない。そもそもあの女は明らかに私に対して悪意を向けていた。あんなのに近寄ったら命が幾つあっても足りない。更に言えば、私はゴールダームの第4エリアまでは行っている。ここのダンジョンの20階程度では苦戦もしない」
「えっ!? ゴールダームのダンジョン!?」
「そう。私は依頼されてここを攻略に来てるけど、元々はゴールダームの探索者」
「へー……ゴールダームの探索者の方なんて初めて見ました。凄いです」
「いや、凄いも何も同じ探索者でしょうに。何処に居るかで変わったりはしないよ」
「「「「「「「「「「ハハハハハハ!!」」」」」」」」」」
少年が田舎者みたいに見えたのか周囲の探索者は笑っているが、それでもゴールダームの探索者だと言った途端、様々な悪意がミクに対して向けられた。当然それはミクも理解しており、期待に胸を膨らませている。
(流石に大勢が見ている中で襲ってはこないだろうけど、闇討ちとか普通にありそうだね? これは期待して良い感じだし楽しみに待っていよう)
肉塊に悪意を向けたところで、「肉が喰える!」と喜ばれるだけである。世の中には<頭の悪い者から死ぬ>という言葉があるが、真、その通りとしか言えない光景であろう。
そんな中、ミクの番が回ってきたので中に入る。一応規則は守られており、中に乱入してくる者はいなかった。魔法陣が地面に広がり、現れたのはゴブリン5体にコボルト5体だ。
ミクにとっては話にならない相手であり、右手に持ったウォーハンマーと、左手に持った槍が唸りを上げる。右手でコボルトの頭を叩き潰しながら、別の生き物のように左手の槍がゴブリンの首を貫いていく。
敵陣の中で舞っているように動き、気付けば3分持たずに全滅したボス。ミクは詰まらないとさえ思う事も無く、武器に【清潔】を使ってからアイテムバッグに仕舞い、奥の魔法陣から脱出した。
終始淡々としているのは、いちいちこの程度で何かを思う事すら無いからだ。外に出たミクは適当に屋台の食べ物を買い、大銅貨3枚分の食事をしたら、右下の魔法陣から進んで行く。
ここからは難易度が上がり、死亡する可能性も上がるらしいが、ミクにとってはどうでもい指標でしかない。再び【身体強化】で走っていき、どんどんと先へと進んで行く。
そして到着した40階。待っている者は誰も居なかったのでボス戦へ。出てきたのはオーク10体。結局、相手にもならない小物なので全て喰らい、糞尿はボス部屋に捨てて脱出。これで左下の魔法陣も使えるようになった。
外に出たミクはダンジョンを後にし、王都フィラーへと戻る。何故か20階のボス前で声を掛けてきた女達が後ろからついてくるが、ミクは無視して王都フィラーの中へ。
(さて、どうしようかな? 何処かへ誘い込んで殺すか、それとも奴等が手を出すように仕向けるか。でも喰えなきゃ意味ないしねぇ……私にとっても他人の目は邪魔なんだよ。困ったな)
ミクはどうしようかと思いながらもゆっくりと歩く。とはいえ、後ろの連中も仕掛けては来ない。どうもミクの泊まっている宿を調べようとしているようである。それに気付いたミクは食べる事を諦めた。
(流石に適当な宿に泊まる事は出来ない、それをするとヴェスの面目丸潰れだからね。ヴェスの所が悪くて、町の宿に泊まったって思われてしまうのは……色々な意味で面倒臭い事になる。仕方ないな、夜に会えれば食べられるでしょ)
そう思いながらミクは中央区画への門に行き、門番にヴェスから貰ってる通行証を見せる。ミクがあっさり通過したのを見たからだろう、後ろからつけていた連中は慌てて退散していった。
喰えたかもしれない連中が喰えなかったのを残念に思いつつ、ミクはヴェスの屋敷へと帰っていく。門番に話して中へと連絡してもらい、中から出てきたメイドに案内されて屋敷の中へ。
どうやら今日は出かけてなかったヴェスに呼ばれ、ミクは再び執務室へと入った。
「疲れてるところ悪いね。思っているより早く帰ってきたから、何かあったのかと思って呼んだんだよ。で、何かあったのかい?」
「特に何も? 強いて言うなら、20階のボス前で話し掛けてきた連中が、帰りに後ろをつけてきたぐらいかな? チャンスだったんだけど、私が中央区画に入るのを見て、慌てて逃げて行ったよ。残念」
「そりゃあ、まあ………ミクにとったら残念だろうねえ。という事は20階は突破できたのかい?」
「ううん、40階を突破してきたよ」
「ぶっ!!」
流石の<雪原の餓狼>も、1日で40階まで突破してきたと聞くと、驚いて飲み物を噴き出してしまうようである。




