0712・思い出と魔法
Side:ファーダ
スラムの路上生活者が終わり、次は建物内に居る連中だ。しかしアルラウネは全く居なかったな? 路上生活者の全てがマンドレイクか他の種族だった。ゴブリンやコボルトだけじゃなくオークも居たのは驚きではある。
ゴブリンやコボルトに関しては、この国では底辺扱いなので仕方ないのだが、オークであればアルラウネが主流の町で路上生活者に落ちる事はまず無いと思うんだがな……?。
ああ、そういう事か。どうやら先ほど喰らったヤツは、何がしかの影響を精神に受けているらしい。レティーが言うには魅了系の何かを受けたような記憶があるとの事。可能性としては魅了されて搾取されたというところだろう。
それはともかくとして、建物内にはアルラウネが居たので喰らっていく。どうやらスラムでも女性の方が上らしく、マンドレイクは下に置かれているらしい。それらを等しく喰らいながら移動し、終わったら次へと向かう。
未だに売人関係は発見出来ていないが、やはりスラムは関係が無いのだろうか? 仮に侯爵家がしっかりしているのなら、スラムには密売組織が無い可能性が高い。一番目に付きやすい場所だと思うしな。
最悪の可能性を考えるなら、密売組織は別の町にあるっていうパターンだ。その場合は、この町を幾ら探しても見つからない事になる。密売人と密猟者が別々というパターンも考えられるな。
そういう分業制の場合、追いかけるのが大変になるので止めてほしいんだが、そういった密売組織からすればリスク分散としてやっているかもしれん。厄介なことだと思うが、俺達は一歩一歩進めていくしかない。
ある程度は終わったので、今日のところはこれで終わりだな。それにしても、あの1人だけ居たオークは何だったんだ? レティーは魅了されていたっていうし、それ以外におかしなヤツは居なかった。
ちょっと気になるな……。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
Side:ロフェル
朝になって起こされた私は、遅れないように準備を終えて宿の部屋を出る。どうやら私が一番遅かったようだが、マハルもあまり変わらなかったみたい。昨日あれだけ運動したのが響いているのか、体中が痛いらしい。
「それは超回復とか呼ばれてるヤツだね。まあ、筋肉痛の事なんだけど、それが起きると体は強く回復しようとするんだよ。で、回復が終わると今までより筋肉は強くなるわけ。そうやって体は鍛えられていく」
「へー……じゃあ、体を酷使すればする程、その超回復ってヤツで強くなるのね?」
「いいや? 体を鍛えるにも限度があってね。酷使し過ぎると壊れて逆に痩せ細っていくよ。だから適度に体を動かすのが一番良いんだ。体を鍛えたくて倒れるまでやり続けてたら、体が細く筋肉が無くなったという者もいるからね」
「何だか難しいのねえ。ただ、疲れ果てるほど運動しろと言われないだけマシかな? 流石に毎日そんなのは耐えられないし」
「それは明らかにやり過ぎ。とはいえ大事なのは体力だから、ある程度の体力はマハルにもつけてもらう。何故なら、逃げられなくなったら死ぬしかないから。だからこそ1にも2にも体力が重要になってくる」
食堂に着いた私達は中へと入り、ミクが大麦粥の注文と小銅貨25枚を支払う。マハルは不思議な顔をしつつミクに聞いているけど、疑問には思うわよねえ。
「昨日もそうでしたけど、何で大麦粥なんですか? 他にも食べる物はありますよ?」
「それはね、大麦が体に良いからなんだよ。小麦は大麦ほど体に良くないから避けてるというか、1日1回でいいってところかな。食べる物に気をつけないと病気の可能性が高くなるから、体に良い物を食べてるんだよ」
「ミクが前に言ってたけど、美味しくない物ほど体に良い物が多いんだって。もちろん全部じゃないんだろうけど、毎日小麦のパンを食べて死ぬ貴族とか居るじゃない? ああいうのも同じなんだってさ」
「という事は、小麦って危険なんですか?」
「違う違う。小麦のパンばかり食べるのが問題であって、小麦は特に問題の無い食べ物だよ。ただ大麦よりは美味しい反面、体に良い物は少ないってだけ。だから体に良い物が多い大麦粥を食べるんだよ」
「へー、そうだったんですね」
「大量に食べたいなら追加で頼んでもいいよ。大麦の粥なら、おかわりしたところで太ったりはしないだろうしね」
「お願いします」
ミクは小銅貨5枚を払って追加で大麦粥を頼んだ。15歳とはいえ男の子だもんね、そりゃ沢山食べたいか。その分だけ練習で動くんだし、ここで沢山食べても然したる問題は無いでしょ。それに元々太り難い食べ物なんだし。
朝食を終えた私達は町を出ると離れ、人目が無い所まで来たら練習を開始する。私は矛を使いながら魔法を使う練習をしており、それをチラチラとマハルが見てくる。魔法に憧れでもあるのかしら。
「マハル、余所見しないで集中! ロフェルが使ってる魔法が気になるんでしょうけど、集中してやらないと身につかないよ!」
「は、はい!」
ミクに一喝されて自分の練習に戻ったみたいね。魔法が使えない者からしたら憧れるんでしょうけど、私からしたら<詠唱魔法>って使い難いのよね。圧倒的に【根源魔法】の方が使いやすいから何とも言えない。
とはいえ、あまり不特定多数に見せたくないから、こうやって<詠唱魔法>も練習してるんだけど……段々これに意味があるのか疑問に思えてくるのよ。わざわざ不便な魔法を使ってどうするの? ってしか思えないし。
でも【根源魔法】は同じ魔力なら確実に勝てるほど強度が強い。となると無闇に見せる訳にはいかない訳で、結局は<詠唱魔法>の練習をしておいた方が良いとなる。んだけど……。
「面倒なら【根源魔法】だけ使えば? バレたところで魔力の放出から練習しなきゃならないし、均一に密度の高い魔力を放出するのは訓練しないと難しいしね。結局はそういうコツを知らなきゃ大した腕にはならないよ」
「それなら大丈夫かしら。流石に弱い魔法を使う為にわざわざ練習してると、何の為にやってるんだろう? っていう疑問しか湧いてこないのよね。空しいというか、バカバカしくなるというか」
昔、結構なお金を払って教えてもらったんだけどねー……。それを忘れるというか使わない事に思うところが無い訳じゃない。でも面倒かつ弱い魔法を練習するのも嫌だし、使わない魔法を練習しても空しくてやる気にならないし。
うん! もうすっぱり忘れましょう! 悩んでも仕方ないし、未練がましく覚えてても使わないんじゃ意味も無い。たまに使う事はあるだろうけど、思い出す程度でいいじゃない。狩人にとって大事なのは狩る事であって、拘る必要なんてないわ。
改めて【根源魔法】の【火弾】を使ってみるけど、本当に簡単に使える。ただ、ここから精度を上げたり威力の調整をしたりが難しいんだけど、それも含めての練習をすればいいだけ。
「何だか吹っ切れたみたいだね。何か<詠唱魔法>に拘りでもあった?」
「昔ね、結構なお金を出して教えてもらったのよ。その時にとっては結構な大金でさ、どうしても勿体ないという思いが出てきてしまってたの。使わないならやがて忘れていくから練習してたんだけど、もういいかなって思って」
「使わないなら覚えてても仕方ないし、やがて使わなくなるのは分かりきってるからか」
「そういう事。結局は勿体ないっていうだけなのよね。忘れたくないのってさ。それって、そこまでして拘る事じゃないし」
そう思うと多少は気が楽になったかな。何とかして上を目指そうとしていた時に結構な金額を払ったから、余計に記憶に残っているのでしょうね。




