0710・戦闘訓練
Side:ミク
町に戻り、門番に登録証を見せて中に入る。マハルに聞いて真っ直ぐ狩人ギルドに進み、解体所で鼠を出す。1匹で中銅貨2枚だったが、それはマハルの倒し方が悪かったからだった。綺麗に倒せば値段が上がると聞いて、俄然やる気になるマハル。
私やロフェルからすれば当たり前の事だけど、初めて獲物が獲れたマハルからすれば新鮮な事だったのだろう。次はもっと頑張ろうという意欲が感じられる。それは悪い事じゃ無いからそのままにしておき、ギルドの建物に入って精算させよう。
受付に行って木札を渡し、初めての報酬である中銅貨6枚を得た。喜んでいるマハルを連れて外に出たら、そのまま食堂へと移動する。中に入って大麦粥を頼み、小銅貨25枚を払って席に着く。やっと落ち着いて話が出来るね。
「あの、ボクもお金が稼げましたし自分で……」
「お金はとっとけば良いよ。正直に言うと腐るほどあるから、奢ったところで何の痛手にもならない。だから気にしなくてもいいよ。それと昼からは戦闘訓練で、魔境には行かないからそのつもりで」
「マハルの実力じゃ、まずは練習から始めないと話にならないからねえ。魔境の方を調べるのはゆっくりすればいいし、そんなに急いでる訳でもない。まあ、危険な物だから時間を掛けた方が良いって事もあるけどね」
「はい……でも本当なら誰がそんな酷い事をしているのでしょう? アレはかつてのアルラウネの国でも猛威を振るい、一時は関わった者の全てが処刑されたほどだったそうです。そんな危険な物を……」
「そういえばだけど、古い時代のアルラウネの国は絶滅させようとしなかったの? 危険なんだからさ、それをしなかったというのが不思議で仕方がないけどね。そこまで危険なら徹底的に掃除すればいい」
「それは出来なかったと書物にありました。理由は魔境だった筈です。あれは魔境の濃い魔素を吸収して育つらしく、他の所ではそこまでの危険な物ではなく治療用の薬草なんだそうです」
「は? ……薬草?」
「はい。それが濃い魔素を浴びて変質し、その治癒効果が危険な効果に変わってしまうそうで……。シュエルトと暗号めいた言葉で示されるのですが、実はよくある薬草らしいのです」
「……マハルは知ってたの?」
「ボクはそこまでしか知りません。それと、この情報は侯爵家の蔵書の中のものです。あまり言っていい事ではありませんので……」
「ああ。私達に伝えていいか迷ってた訳ね。私達こそがその植物を使って悪さをする可能性がある訳だし、確かに疑われても仕方ないんだけど」
「すみません」
「いや、それに関しては仕方ないでしょ。そもそも私達に情報を与えて良いかも分からないんだしさ。それはそうと、ありふれた薬草だと確かに絶滅させるのは無理だね。何処かから鳥が種なんかを運んだらそれだけでアウトだし、モンスターも薬草は食べるから如何にもならない」
「鳥に何の関係があるんですか?」
「知らなかったか。鳥は草とか実とか食べるんだけど、食べた際にお腹の中に種が残るんだよ。そして空を飛んで移動して他所の場所で糞をする。その糞の中に種があって遠い場所で芽吹くってわけ。だから魔境の植物も、元は遠い所の物かもしれない」
「「へー……」」
「そうやって色々な物が関わって、今の環境は作られている訳だ。だから仮に魔境の中のを絶滅させても、何処かから鳥が運んでくる可能性がある事を考えると……」
「現実的じゃないか。実際、モンスターが怪我を治す為に薬草を食べるって事はあるしねー。効いてるのかは知らないけど」
「それでも薬草ですし、効くのでは?」
「どうかな? それはともかくとして、昼からは戦闘訓練だからね。そろそろ食べ終わろうか? 残ってるのはマハルだけだよ」
「す、すみません。すぐに食べます」
植物っぽいマンドレイクが植物である大麦粥を食べる。一応人間種っぽいので、消化器官とかも含めて似通ってるんだと思う。今までマンドレイクもアルラウネも食べた事が無いんだよねえ。だから体の構造を知らないんだけどさ。
それはそれとして、マハルが食べ終わったら私達は一旦宿へと行く。そしてとった2人部屋をキャンセルして3人部屋に変更。中銀貨3枚を追加しておいた。これでマハルも泊まれるだろう。
「いや、幾らなんでもそこまでは……」
「大した額でも無いし気にしなくていいよ。それに死にかけた者が言う台詞じゃないから、ここは大人しく受けておいた方が良い。戦闘訓練を本格的に始めると、収入が無い場合もあるから」
「そうそう。1日中訓練って場合もあるから、ここは奢られてなさい。マハルはランク1でしょ? 私達は2人ともランク6で止めてるくらいだもの。実力があるから、お金もあるのよ」
「は、はあ……ありがとうございます」
「新人の頃っていうのは、だいたい誰かに助けてもらうものよ。私は誰にも手を借りずに頑張ったけどね。でもそれは体を売って稼いだお金があったからで、無いヤツは必死に生きていたわ」
「ま、とりあえず外に出て練習を始めよう。町中で練習する場所があるか知らないし、あっても誰かに見られたら面倒だしね」
私達は入り口まで進み、門番に登録証を見せて外に出る。町から少し離れて人目につかなくなったら、マハルにククリナイフを持たせて振らせる。やはり適当に振っているので、まずは振り方と足運びや体重移動から教えていこう。
「マハルは全身弱いけど、素人によくある下半身の弱さがハッキリ出てるね。戦う際に重要なのは、大地に根が張ったと言われるような下半身だ。その為には歩法を学ぶ必要もあるんだけど、それを含めて基本から教える」
私はそう宣言し、1つ1つ順番にマハルに教えていく。思った通りに余計な知識や経験が無いので、その分だけ教えやすく吸収させやすい。1日や2日で覚えるなんて事はあり得ないが、それでも矯正しなくて済む分マシだろう。
短剣の振り方、刺し方、流し方、投げ方。1つ1つ教えていき、その際の足腰の動かし方、体重の移動のさせ方も教えていく。聞いた事も無かったのか目を白黒させているが、その事に構わず教える。
「そこ違う。足もそうだけど、全身は柔らかく保つ。もちろん硬く引き締めなきゃいけない時もあるんだけど、それは回避の時には必要ない。自然体とも言われるけど、力みの無い状態で立つ事が大事」
「力みの無い……」
「そう。体に力が入るという事は、体が硬くなっているという事。それでは全力が出せないの。体が全力を出すにはリラックスしている必要がある。だから緊張してはいけないし、硬くなってもいけない」
「柔らかくしなやかにって感じかしら。ガチガチになっていても体が動かしづらいだけよ。だから柔らかくしておく訳ね。今のマハルは緊張と初めての動きで硬くなってるってわけ」
「成る程。柔らかく、柔らかく……」
意識しながら振り始めたね。刃物を力強く振る必要は無い。叩きつける武器ならばともかく、切り裂く武器では速さの方が重要だ。もちろん力が要らない訳じゃないけど、それ以上にスピードの方が大事となる。
硬くなった体じゃ全力の速度は出せないんだよ。力は篭めすぎても篭めなさ過ぎても駄目であり、そしてその感覚は自分で身につけるしかない。残念ながら簡単ではないし、常に最高の斬撃を繰り出すのは難しい事だ。
その一歩を踏み出した訳なんだけど、先は長そうだね。マハルの横でロフェルも練習してるけど、ロフェルでさえも全然だから仕方ないとも言えるかな。長く狩人をしてきているロフェルでも正しい武器の使い方は知らなかった。
おそらくこの星では戦闘技術が継がれていないんだろうね。流派とかも聞いた事が無いし、誰かが編み出しても自分だけの技として抱えたまま死ぬんだろう。勿体ない。




