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0709・獲物とモンスターテイマー




 Side:ミク



 マハルは基礎も何も無い状態だから、下手な事が身についていない分だけ教えやすいとは言える。しかし基本中の基本から教えないといけない為、相当程度の面倒な状況が続くだろうね。



 「ほら、あそこだ。ゆっくり見ろ、見る事に集中するな。音を立てない事に集中しろ。そして周りに常に気を配れ、獲物を襲う時が一番無防備だ。そういう時こそ襲われる。隙を晒すな、常に警戒しろ」


 「はい」


 「目標を確認したか? 確認したら音を立てないように準備しろ。ナイフは右手で軽く握り、緊張しないようにしろ。緊張すると手首が硬くなり上手く投げられなくなる。回転打法で大事なのは手首のスナップを利かせる事だ」


 「………!」



 マハルが投げたナイフは上手く飛んだが、兎に当たる事はなかった。そこまで大きく外れている訳じゃないから、指導されて初めてにしては上出来なんじゃないかな。後はひたすら練習するだけだろう。



 「練習ですか……。そもそも兎を発見する事が出来ません。たまたま上手く見つけた時に近付こうとしてみたんですが、上手くいかずに……」


 「そもそも兎って耳が良いしね、そうそう近付くなんて無理よ。普通はそんな事はしないし、別の獲物を狙うわね。もしかして書物か何かで見て、兎なら狩れそうと思った?」


 「は、はい。兎は魔境で一番弱いらしいので、それならボクでも狩れるだろうと思いまして。なので狩ろうと頑張っていたのですが……」


 「何と言うか、本をよく読むから失敗したのかしら? 狩人にとって一番大事なのは狩れるかどうかよ、何故なら収入がないと困るんだもの。その収入を得るには獲物を狩るしかない。なら、どうする?」


 「どう……するんでしょう?」


 「答えは「狩れる獲物を狩る」よ。「兎が弱いから狩る」じゃないの、「狩れる奴を狩る」。これが狩人の鉄則。収入が必要な以上、狩れない奴に時間を割くのは無駄なのよ。今の自分に狩れないモンスターは狩れないの。諦めなさい」


 「そう、ですね。確かに言われる通り、ボクは兎を狩らなきゃいけないと思ってました。それが一番弱いと本に書かれていたので。でも狩れなければ意味がないし、お金も稼げない。なら強い弱いは関係なく、狩れる獲物を狩ってお金を稼ぐ」


 「そうよ。手に入らない獲物を幾ら追いかけても、幻を掴もうとするような事でしかない。新人の陥りやすい失敗ね。先輩などからアレコレ教えてもらうんだけど、自分はその先輩じゃないのよ。だから狩れない。つまり実力が無い事を認識しないで狩りに行き、そして失敗する」


 「実力を身につけてから狙うべき獲物と、早急にお金が欲しい今。そう考えると倒せない兎を追いかける意味が無い事に気付くでしょう? 狩人は狩りをする者であって、狩れなければ価値は無いのよ」



 随分と凹んだ顔をしているけど、今までの自分を思い出してるんだろうね。上手く行かないと視野が狭くなるし、そうなると更に意固地になる。そうやって固まると兎を狩る事しか考えられなくなったんだろう。



 「そうかもしれません。ならばボクはどの魔物と戦えばいいのでしょうか?」


 「さあ? 自分が倒せる相手と戦うしかないんじゃない? それがどのモンスターかは知らないけど、戦ってみないと始まらない。という事で、戦ってみましょうか?」



 私は自分の腰にあったククリナイフを渡してマハルに持たせる。マハルは少々驚いたもののククリナイフを受け取り、その重量にもちょっと驚いているみたい。見ているよりも重量があったからでしょうね。


 色々と厄介なモンスターに狙われても困るので、最初の魔物は鼠にしてみた。一応ガイアでいうところのカピバラサイズはあるので、十分に儲けは出るだろう。この星じゃ鼠肉も普通に食べるしね。


 鼠が足下に来てビックリしたマハルはククリナイフで攻撃せずに蹴飛ばしてしまった。逃げられたかと思ったけど、怒った鼠は更に突っ込んで来る。どう対処しようか困ったマハルは、その時ようやく自分がククリナイフを持っている事を思い出したみたいだ。


 叩きつけるように鼠に振り下ろすと、その一撃だけで胴体にメリ込み、その傷が元で勝利した。本人はびっくりしているが、まあ切れ味で勝ったようなものだ。とはいえ、お金が無いんじゃ新しい武器も買えないだろうし、今は慣れるしかないね。



 「私のククリナイフだから良く切れるだろうけど、今はそれに慣れてもらうしかないね。流石に刃渡り15センチのナイフでモンスターを殺すのは難しい。冗談でも何でもなくね。それよりレティー、血抜きをお願い」


 「分かりました。それにしても胴体に直撃ですね。内臓も傷つけているでしょうし、高値では売れなさそうです」


 「………! し、喋った!!」


 「静かに。レティーは喋るくらいするよ。そもそもセリオだって喋るし、別に驚くような事じゃない。それよりこの鼠の血抜きが終わったら、更に次のヤツと戦うよ。危ない相手だったら私達が始末するから気にしなくていい」



 ちょっと納得いかないという顔をしたけど受け入れた。プライドを持つのはいいけど、自分の実力を把握しないとね。今はそんな事を言える実力も無いんだし、大人しく勝てる相手と戦うのが正しい。


 そう言って鼠2匹と戦わせ、終わったらテフィーの町へと戻る。鼠3匹を入れたらマハルの背嚢はいのうがいっぱいになったので、戻るしかなくなったのだ。仲間ならアイテムバッグを渡すんだけど、マハルは会ったばかりだからね。渡したりはしない。


 マハルの歩く速度に合わせて歩いているけど遅い。これだと昼からは練習に切り替えた方がいいね。基礎的な技術も含めて何もかもが足りていないから、流石に話にもならないし。



 「そんなにですか……」


 「仕方ないと言えば仕方ないんだけど、背の低さも相まって厳しいと言わざるを得ないね。今は基礎を何とかするしかないよ。それも無いから私達に会うまでに苦労したんでしょ? 大事なのは生きていくだけの実力だ」


 「そうね。現状は私達に助けられて何とかという状況である以上は、早急に力をつけるしかない。知識然り、技術然り。そういったものを身につけないと、狩人としてやっていけないし大成しないわ。バカではその程度にしかなれないのが狩人よ」


 「バカでは大成しない……」


 「それはそうよ。強いモンスターであればある程に賢いもの。当然それらを倒すには、こちらもそれだけの賢さが要る。でないと相手に勝つ事は無理よ。モンスターは殺しの賢さを持つわ、ならそれを引っ繰り返すだけの賢さは要るでしょう?」


 「虎型とか熊型のモンスターはパワーもスピードも高い。そんな相手に鈍重なヤツが近付いても喰い殺されるだけ。勝つ為には相手の力を封じ込めたり避けたりと、色々な賢さが要るって事よ」


 「そういうモンスターをテイムできたら、ボクだって……」


 「モンスターテイマーだったの? まあ、仮にそうであっても意味は無いけどね」


 「えっ?」


 「あのさ、モンスターが自分より弱い奴に従う筈が無いでしょ。自分より実力が上だから従うのであって、弱いヤツに従う義理が無いし鼻で笑われるだけだよ? ギリギリでも対等でしょ。それ以外ではあり得ないよ。そもそもマハルは弱いヤツに従うの?」


 「そ、それは……」


 「そういう事。自分だって弱いヤツには従わないんだから、モンスターだって弱いヤツには従わないね。だから実力をつけなきゃいけないし、その為には練習をするしかない」


 「はい。確かにそうですね」



 目標が見えたからか、ちょっと元気になったね。ま、鼠とはいえ獲物が獲れた事も理由にあるんだろうけど。


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