0067・ヴェスに報告
喰い荒らした翌日。ヴェスの屋敷にいるので、呼びに来るまで待つ事に。いつもなら朝日が昇った時間には既に起きて食堂に行くのだが、ここはヴェスの屋敷なので勝手は出来ない。
段々と使用人が起きて動き始めているのを感じながら、ミクは起き上がって服を着た後、部屋にある椅子に座ってゆっくりと待つのだった。
メイドがミクの部屋を訪れ、朝食の準備が出来た事を伝えてきたので、メイドの先導に従ってミクは食堂へと移動する。
どれだけの人数で食事をするのかと思うような、長いテーブルが鎮座している食堂だが、ミクは案内されたヴェスの横の席に座った。「貴族というのも面倒だね」と思いながら、ミクは運ばれてくる朝食を食べ始める。
「昨日の夜に言っていた事だけど、どんな感じだい? 上手くいったなら良いんだけどねえ……」
「大丈夫だったよ。まあ特に問題は無かったし、これといって何も無かったから」
ミクはそう言いながらも、レティーと同じく【念送】を自らの力で使ってヴェスに伝える。そもそもスキルを再現する事は、ミクにとっても当たり前に出来る事である。
『昨夜、聞いていた伯爵と次男、三男家族を全員喰った。次男はスラムの連中と、三男は兵士と結託して密輸をさせてたね』
「っ、そうかい。何も無かったのなら何よりさ。そこまで心配はしてなかったけどねえ」
『その後、次男と三男に伯爵の脳をレティーに喰わせ、裏で手を貸していたスラムの連中と兵士を喰ってきた。更にスラム繋がりでレットバニン男爵というのも喰ってきたよ』
「特に何も問題は無かったし、それが一番いいよ」
「………そ、そうだねえ。それが……一番、良いさ」
自分の情報網に入っていなかった人物まで喰われたと聞いて、動揺を隠せないヴェス。いきなりレットバニンという木っ端な法衣貴族の名前が出てきたからだろう、言いたい事をグッと堪えている。
おそらくミクに聞きたいのだろうが、周りには執事やメイドが居る。その者達には聞かせられないので堪えるしかないのだった。
朝食を終えたミクを執務室に連れ込んだヴェスは、衝撃の内容について聞かせるようにミクに迫った。いきなりの事でよく分かっておらず、ミクに聞くしか情報を得る手段が無いのだ。
「それで、レットバニン男爵ってどういう事だい? 法衣貴族だったのは覚えてるけど、それ以外はピンと来ない木っ端な貴族だった筈だけどね?」
「一応最初から話していこうか。まずは昨日言われた通りターモノア伯爵家に行き、三男家族と次男家族を喰った。その後、伯爵夫婦を喰ってターモノア伯爵家は終わり」
「そこまでは依頼の通りだ。で、その後はどうなったんだい?」
「まず次男からはスラムの組織が作ったトンネルを使っての密輸の記憶を、三男からは兵士達を使った抜け荷の記憶をレティーが読み取った。ちなみに伯爵はその取り纏めを行っていたよ」
「……抜け荷の方は何となく掴めてたんだけど、まさかトンネルなんて物がスラムにあったとはね。抜け荷は囮かい、やってくれる……!」
「次に私は兵士の宿舎に行って、抜け荷に関わっていた連中を全員喰ってきた。喰う奴等の記憶をレティーに読み取らせ、その仲間も喰ってきたから、抜けはあるかもしれないけど大半は喰った筈」
「………アレだね、怪物からは色んな意味で逃げられないんだろう。死んでも逃げられず、ブラッドスライム……いや、レティーに頭を喰われたら終わりか。逃げるには頭部をグチャグチャにするしかないね」
「まあ、そうなんだけど……それはともかく、その後は北東区画のスラムに行ってトンネルを発見。そこの建物を強襲して裏組織の連中を全員喰った。ついでに外の森と繋がってるのも確認して、石で出来てた蓋も外しておいたよ」
「ほぅ……北東区画からって事は東の森だねぇ。あんな所に石の蓋なんて物があったと。まあ、上に土でも被せときゃ分からないか。で、今は無いんだろ?」
「無いよ、私が外したままにしたし、その周りに糞尿を撒いておいたから。その臭いで魔物が近付いてるかもしれないけど仕方ないよね。場合によっては魔物がトンネルに入るかもしれないけど、仕方ない、仕方ない」
「………そうやって発見しろって事かい? 見つけ方は一応色々考えておくけど、何故に糞尿を?」
「私は人間種を喰うけど、糞尿なんて食べないよ。だからいつも何処かに捨てるんだけど、たまたま森側のトンネルの入り口に捨てただけだね。ついでに発見されないかなぁ、とは思ったけど」
「ああ、そりゃそうだろうさ。肉は喰うけど糞尿なんて要らないのは当たり前か、考えても無かったよ。それでスラムは終わったとして、レットバニン男爵は? 結局出てこないんだけど?」
「スラムのボスの記憶をレティーが読み取って分かったの。元々スラムのトンネルはレットバニン男爵がお金を出して作らせた物。にも関わらず、スラムのボスがターモノア伯爵に近付いて使わせてた」
「うん? ……つまりトンネルは元々レットバニン男爵であり、ターモノア伯爵じゃなかったと。だけどスラムのボスが金欲しさに、ターモノアにも使わせてたって事かい?」
「だいたい合ってる。もう少し言うと、ターモノア伯爵がトンネルを使ってる事を、レットバニン男爵は知らなかった。知ってたら止めさせてた筈。使う者が増えるとバレやすくなる」
「確かに。とはいえミクに隠し通す事は不可能だし、こうやって暴かれてる。皮肉なのがターモノアから順にバレていって喰われたってトコかね?」
「まあね。ターモノアってヤツがヴェスに睨まれてなかったら、レットバニン男爵は喰われなくて済んだかもしれない。とはいえ結局どこかで喰われてただろうけど」
「悪徳貴族が1つしか悪行をしていない、なんて事はあり得ないしねえ。他の犯罪から結局喰われてたか……。ま、とにかく昨夜はそれで終わりなんだね?」
「そう。それが終わって帰ってきた。昨日一日で全部終わる事でもないし、これから時間はある訳だし、急ぐ必要もないかなーって」
「急ぐ必要は無いけど、気をつけてほしい。実はね、王専用の裏組織があるんだよ。<王の影>と呼ばれる連中だけど、こいつらに関してはあたしも知らない。どんなスキルを持つかも含めて謎に包まれてるんだ」
「そいつらが私を監視か暗殺かしてくるって事?」
「いきなり暗殺は無いだろうけど、どんなスキルを持つか分からないからね。もしかしたらミクが夜中に動いていたのがバレてるかもしれない。だから気をつけてほしいんだよ」
「成る程ね。夜中に動く時は、なるべく関わりを薄めて動くとしようか。それじゃ話す事も無くなったし、私はそろそろダンジョンに行くよ」
「ああ、了解。そっちの攻略も頼むよ。ソロでどんどん突き進めば良いし、何か鬱陶しいのが絡んできたらあたしの名前を出していいよ。それで退かなきゃ叩き潰すだけさ」
「了解。それじゃ行ってくる」
そう言って執務室から出たミクは、近くに居たメイドに玄関まで案内してもらうと屋敷を出た。
貴族街である中央区画を離れ町中に出たミクは、平民に話を聞き探索者ギルドへ。ギルドは南東にあるのでそちらへ行き、中に入って情報収集をする。
見慣れないミクに不審な目を向ける者が多いが、ミクはガン無視しながら確認。1階~51階までの階段の場所を記憶したら、ミクは探索者ギルドを出た。
面倒な連中に絡まれても困るので、さっさと出て王都の門へ。王都を出たミクは、一路南東にあるダンジョンへと歩いて移動するのだった。




