0703・愚かという事
Side:ファーダ
スラムの中もそろそろ終わりという頃、やっと娼館を発見した。スラムの中だから分かり難くなっているが、間違いなく娼館だ。しかも何軒かが並んでいるらしい。まずは順番に近い方の店から処理していく。
金銭も強奪していくんだが、それらを調べる為にも時間が掛かるんだよ。いつもの事ながら大変で、その分だけ喰うのが遅れたりもする。仕方がないけど残していっても誰かに奪われるだけで意味が無い。
だから俺達が持って行くんだが、それにしても酷いな。当たり前だが娼館の中にも薬が蔓延している。片っ端から喰らっていき、客も娼婦も分け隔てなく肉として処理する。もはや薬で狂っている以上はどうにもならない。
むしろ喰って殺してやる事の方が救いになっている。……霊水? なんでこんな奴等に使ってやらなくちゃいけないんだって話だ。そもそも薬物から逃げれば良かっただけであり、無理矢理に使われたのなら御愁傷様としか思わん。
そんな事を考えつつも素早く動いて処理して行き、金銭を強奪して次の店へ。そうする事4軒目、ついに伯爵家の三男を発見した。どうやらVIPルームに居たらしいが、他の部屋に比べてちょっと広くて調度品が良いだけ。
スラムの娼館だからこんなものだろう。それはいいとして、さっさと麻痺毒を注入したら女3人を喰らう。その後は三男に【善なる呪い】を刻み、これで終わりだ。後はこの娼館の奴等を食い荒らして金銭を強奪したらスラムは完全に終了。
外で薬を焼いたら俺も本体空間へ戻れるんだが……。ミクは既に牢に戻ってるのに手伝う気は無しか。
……え? 孤児院に行くから手伝いは無理? それなら仕方ない。後も俺1人で終わらせるか。奪ってきた金銭も多かったからバラ撒く必要もあるし、子供達は助けた方が良い。そいつらの中から真っ当な者も出てくるだろう。
駄目そうなガキは書き換えるのか? まあ、それが一番良い方法か。子供の頃から腐ってたら、どうにもならんからな。……よし、終わり。後は薬を焼くだけだ。さっさと終わらせて本体空間に戻ろう。
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Side:ミク
色々な事が終わった次の日。暢気に牢屋でゴロゴロしつつロフェルと雑談していると、急に牢屋に誰かが来たみたい。誰かと思ったら黒い紋様の浮き出た伯爵家の次女、つまり狩人ギルドのサブマスターだった。
「これをやったのは貴女でしょ!! さっさと綺麗に取りなさいよ!!」
「は? なに言ってんの?」
「あんたがこの訳の分からない黒いのを私達に付けたんでしょうが! さっさと取りなさい!! 私が命令してるんだから、さっさとしなさいよ!!!」
「意味が分からないね。いったい何の事を言ってるのさ」
そう言いながら私はニヤニヤしてやる。そのニヤニヤ顔で私がやったと思ったのだろう、次女は怒りに塗れた顔をした瞬間、激痛にのた打ち回った。何か下らない悪事でも考えたのだろう、バカなヤツだ。
「申し訳無い。君達への罪は取り消すから、何とか御嬢様のを消してもらえないだろうか?」
「なに言ってるの? 今さら遅いに決まってるでしょ。もう取り返しは付かないんだよ。伯爵家の権力がいつまであると思ってるの? あんた達はまず伯爵家に行く事をお薦めするよ。その結果、どうなるかは知らないけどねえ」
「な、何が……」
「私を知っている者は、私を最強の怪物と呼ぶ。その怪物に喧嘩を売ったんだ、全てが崩壊するのは当たり前だろう? さっさと伯爵家に行ってこい。そして真実を理解しろ」
私がそう言うと、激痛が治まった次女が急いで牢屋の区画を出て行った。慌てて男の方もついて行ったが、既にもう遅い。後は崩壊した伯爵家を見る事になるだけだ。
再び牢の中に座った私は、ロフェルと雑談をしたりセリオやレティーと遊んだりして時間を潰す。だいたい1時間ほど経った後、憔悴した顔で次女と男オークが戻ってきた。どうやら真実を見てきたらしい。
「お願いよ、私の家族を返して。……私の家族を返してよ!!!」
「散々他の者を甚振り無実の罪を押し付けてきておいて、今さら何を言うのかと思ったら………下らん。薬に塗れたお前には、アレが素晴らしい家族にでも見えたのか?」
「おまっ ギャァァァァァァァァァ!!!」
「また激痛にのた打ち回ってるの? バカは理解出来ないのかしら。最初からミクに喧嘩を売らなきゃ、こうはなってないっていうのに……随分と無様な事ねえ。世の中には権威や権力ではどうにもならない怪物が居るのよ。理解した?」
ロフェルも声を掛けているが、激痛にのた打ち回っている次女は聞いてもいない。よほど痛いのだろうが、私達の知った事じゃないからね。
「で、私達はいつまで無実の罪でここへ入れられておけばいい? そんな事をしている奴等が下らない事をよくもホザくものだ」
「も、申し訳無い。すぐに釈放させる!!」
男オークの方が慌てて兵士達に言いに行ったみたいだが、詰め所の兵士にはまだ悪人が残ってるんだよねえ。ま、それでも釈放はされるだろうけどさ。そもそも私達を無実の罪で捕まえてる時点で、説得力など全く無い。
ましてや悲劇のヒロインぶられてもねえ……バカじゃないの? っていう一言で終わる話なんだよ。寝言は寝てから言えって感じ。
「本当にねー。いったいどれだけの者を薬や無実の罪で破滅に追いやってきたのかしら。更には<爆走団>とかいうクズどもも居たわね。そいつらも含めて伯爵家なんて唯の犯罪者一族じゃない。その一員がよくも偉そうに家族を返せなんて言えたものよ。虫唾が走るわ」
「悲劇のヒロインを気取りたい駄馬なんでしょ。昨夜あの男オークをブタとか罵ってたけど、お前の一族が一番醜いだろうに。いったい何様のつもりだ? 他者を舐めきっているから、こんな結末になった。私は言ったよね? 最悪の結果を選んだのは、お前だと」
「あ、ああ………」
「今ごろ薬が抜けたか? それとも冷静に考えられるようになったか? お前の思っていた家族など存在しない。あったのは薬物中毒者の一族だ。お前の家族は薬が見せていたような素晴らしいものだったか?」
「い、いや……。聞きたく無い! ………聞きたく無い!!!」
「絶望したような顔をするな、ゴミが。貴様がどれだけの者を同じ目に遭わせてきたと思っている、次はお前の一族の番だったというだけだ。それにお前達に出してもらう必要などない。善なる者に書き換えた長男夫婦が私達を出すからな、急いではいないのだよ」
「書き換えた?」
「そうだ。頭の中身を書き換えてな、善なる事しか考えず、善なる行動しかしない者とした。お前の兄か弟かは知らんが、姿形は同じでも中身は別の者に変わっている。良かったな? これからは素晴らしい領都になるぞ」
「あああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
「全て壊れたとようやく悟ったか? この最強の怪物と呼ばれし私に喧嘩を売ったのだから、こうなるのは当たり前だ。それを行ったお前が悪い」
「とはいえ、こうなってからじゃないと分からないでしょうけどね。でも真面目に生きている者は何もされていないんだもの、仕方ないわよねえ。最強の怪物は悪徳な者しか潰さないからさ」
男オークが鎮痛な面持ちで牢の鍵を開けるが、私達の心には何も無い。バカがバカな事をしたから破滅したのだ。ただそれだけである。
ま、本当の事を言うと、こんな事が無くても破滅してるんだけどね。わざわざ連中に説明してやる義理は無い。
アイテムバッグの事を聞くと、伯爵家にあるという事で私達は取りに行く。実際に何処にあるかは知っているけど、一応の建前で聞いておかなくちゃいけない。
伯爵邸に着くと動き回っているメイドが居たので、私達のアイテムバッグの場所を聞くと、すぐに長男夫婦の下へと行った。
その後は長男夫婦が出てきて謝罪され、お詫びとして金銭を渡そうとされたが固辞。代わりに悪徳な連中には相応しい罰を下してほしいと言って出る。金は残しておいたし、何とかここから立て直せるだろう。
何だか穏やかな笑みを浮かべていたが、タケルの父親そっくりに見えたのは何故だろう? 人間とケンタウロスでは顔が全く違う筈なんだけど……。




