0697・魔境の情報
Side:ミク
チンピラ3人に【善なる呪い】を刻んだ私は、奴等を捨て置いて様々な店を見て回る。ロフェルも色々な物を見つつ、「アレは要らない、コレは要らない」と言ってるね。大半の物はあるうえに、そもそも装備は最上級。
そのうえ野外で必要となる物の多くは魔法で代用可能だ。なら私達が持つ必要のある物は多くない。ついでに2人ともアイテムバッグを持つので、そもそも大量の物を持ち運べる。なら、そこまで必要な物は多くない。
そうなると、基本的には要らない物しか売ってないんだ。買いたい物が無いと言うか、買う必要が無い物ばかりで、結局は冷やかしだけで終わってしまう。お金が貯まる一方なのは、こういう理由もあるんだよ。
「本当ね。まさかここまで買う物が無いなんて。ついでにミクはアイテムバッグすら余ってるんでしょ? 裏の組織が幾つか持ってたとか言ってたし。となると本当に買う物が無いわよね」
「そうなんだよ。だからこそ困ってて、どうすれば良いのか悩んでる。買う物が無いのに掃除したら金銭がどんどん貯まって、気付いたらバラ撒くのも難しい。既にそんな状態にまで突入した」
「まあ、悪人は喰わなきゃいけないし、そうすると金銭を放って行く訳にもいかない。でも持って行ったら貯まる一方で、普段使うのは宿代と食事代くらいしか無かったらねえ。貯まるのが当然よ」
「そうなんだけど、それじゃ何時まで経っても減らないっていう悪循環が繰り返されるのよ。でも社会に還元しなければいけないし……。本当に孤児院の者を全員書き換えて、置いていこうかな? それなら悪い事にはならない筈」
「うん。本格的にそれを考えた方が良いと思うわ。孤児院も良くなるだろうし、備品とか建物を修復するのに使えばマシになる筈。今までよりも良くする為には、早めに形の残る物に使うべきね」
「そうしないと取られるから? もしくはお金があると補助が受けられない?」
「受けられないという方が正しいわね。お金があるから良いだろうと言われてしまうそうよ。とはいえ貯めないと修理なんかは出来ないんだから、少しでも貯めていくのは当たり前でしょうにね?」
「出す側は小銅貨1枚でも安くしようとするから仕方ないんだろうけど、ケチ臭い事このうえないね。そういう噂って巡り巡って貴族の醜聞になるのに、どうして下らない事をするんだろうか」
「ミクも言うけど、それが醜聞に繋がるっていう想像力が無いんでしょうね。だから結果が出るまで分からないし理解しない。結果が出てから、自分の行動が失敗だって気付くんじゃないの? 頭が悪いとは思うけどね」
見る店も無かったので狩人ギルドに行き、中に入って魔境の情報を調べる。まずは貼り出してある情報を調べるも、基本的な事ばかりで然して役には立たない。とはいえどういうフィールドかぐらいは分かる。
貼り出してある紙を見ると、そこには草原の地形が書かれており、様々なモンスターが書かれていた。どうやら鳥型のモンスターが居るようだが、大きくて足が速いらしく簡単には狩る事が出来ないらしい。
それと、たまにドラゴンが襲来するので近寄るなと書かれている。どうやらドラゴンも食い物を求めて稀に現れるらしい。基本的に喧嘩を売らなければ何もされないので、余計な事はするなと注意書きが書かれている。
私はロフェルと顔を見合わせ、何だか嫌な予感がしつつも更に読み進める。お薦めのモンスターは、やはり足の速い鳥であるダットーのようだ。草原には沢山生きているようだが、強く厄介なモンスターみたいで、死人も結構出ているらしい事が書かれている。
他にも緑色の蛇とか、毒を持つモグラとか、大きな木を縄張りにしている大きな蜘蛛なども覚えていく。とりあえず必要な情報を得たから十分だろう。ロフェルも確認したので出ようとすると、入り口から数人がゾロゾロと入ってきた。
「おい、<爆走団>の連中だぞ」
「本当だ。あいつらまたダットーを倒したのか。この町でダットーを獲れるのはあいつらしか居ないからなぁ。本当に足の速い奴等だ」
「それだけじゃなく連携も出来るからだろ? じゃないとダットーを倒すのは無理だ。まずは網なんかで足を引っ掛けて転倒させるしかねえが、それでさえ難しいからな」
どうやら<珍走団>がある程度の実力を有しているのは本当らしい。私達にはどうでもいいので無視してギルドを出ると、酒場へと歩いて移動する。ちょうど夕方頃なので都合が良い。
酒場に入って大銅貨5枚を支払い、酒と食事を注文したら待つ。どうも<珍走団>はそれなりに有名ではあるものの、一般人が近付いたりはしないらしい。そういう意味では、実力はあるけど素行が良くないのかな?。
「あんなチンピラが仲間なら、その線が一番正解に近そうね。ギルドに入ってきた連中の態度もそんな感じだったし、周りの奴等も近付く気は無い感じだったわ。更に受付嬢の顔も貼り付けたような笑顔だったしね」
「実力はあるけど嫌われてる。いや、実力がある分だけ対処が面倒な奴等って感じかな? それなりには優秀なチームなんだろうけど、素行が良くないって致命的だよね。何で周りが言わないんだか」
「実力があるから言えない。ギルドも儲かるので強く言えない。<珍走団>の裏には貴族が。さて、どれだろうね?」
「貴族の可能性が一番高い気がするね、ここは魔境に近い町だし領都でもある。ここの伯爵の子供が<珍走団>のトップなら、非常に面倒臭いし手を出せないだろう。ついでに実力はあるらしいしさ」
「私達にとってみれば下らないという程度でしかないけどね。それでも貴族の権力を考えると、一般的な狩人じゃどうにもならない。貴族が狩人の邪魔までするとはねえ。よくやるわよ」
「狩人からは恨みを買っている可能性が高そうだけど、ここの貴族はそれでも力で押さえつけられると思ってるのかな? 醜聞は他の貴族の大好物なのにさ」
「何とでもなると思ってるんじゃない? どこの貴族も自分達の醜聞には神経を尖らせているのに……。気楽なものだとは思うわ」
「気楽と言うか、いつでも潰せるとか思ってそうだね。唯でさえ皇太子が決まって、何処もピリピリしてるっていうのに。対立派閥から足を掬われる可能性を考えてないのかも」
意図的に酒場のマスターの前で喋ってるから、この情報は伯爵に届くかな? 癇癪持ちだったり面倒臭い貴族なら報告しないだろう。それを見極めてからでもいいし、マスターから反論も何も無いのが気になる。
沈黙して全て報告する? でも自分の店で貴族批判とか勘弁してほしい筈だから、普通は止めたり注意するんだけど……ここのマスターには止める気配が無い。ワザとなのか、敢えて見逃してるのかは不明だね。
とはいえ酔っ払いが言っていても問題ない範囲で止めてるから、それもあって注意しないのかな? とりあえず食事も終わったし戻ろうか。
既に出来上がっているロフェルを右腕で抱き上げて、私は宿に戻る。周囲を詳しく調べても、私達を尾行してくる者は無し。やはりスルーしただけっぽいね。
宿の部屋に戻った私はベッドにロフェルを寝かせ、狐の毛皮を敷いたら【浄滅】を使って綺麗にする。セリオとレティーが寝転がったら、後は私も寝転がって目を瞑るだけ。
ファーダは窓から出て行ったから、私は瞑想しつつ朝を待つ。ここのスラムは急いで殲滅しなきゃいけない訳じゃない。
それにしても<珍走団>を始め、この町には色々と厄介事が転がっていそうだ。早めに解決できるのが一番良いんだけど、どうなる事やら……。




