0066・喰い荒らす夜
「要するに、証拠は無いんだけど、このまま放置していると被害者が増える一方なので喰ってくれ。そういう事だね」
「そういう事さ。こいつらは証拠が無いからって放っておいていい訳じゃない。これからも証拠探しを続けていると、その間にいったいどれだけの被害者が生まれるか。そんな被害者をこれ以上出さない為にも、ここで止めを刺してほしいのさ。しっかりとね」
「ターゲットは伯爵夫妻と次男夫婦に三男夫婦、そしてそれぞれの子供ね。了解、了解。それじゃ早速行くから」
「ああ、頼むよ」
ミクはレティーやアイテムバッグなどを本体空間に転送すると、小さな蜘蛛の姿になって屋敷を出る。
そしてその姿を見ながら、アレは駄目だと改めて思うヴェス。敵に回す事など既に考えていないが、それ以上にどうにもならない事を理解するのであった。
ミクは教えられた場所に行き、そこの屋敷の窓から内部へと侵入する。そこは2階であったが、早速当たりを引いたようである。男が寝ているベッドと女が寝ているベッド。そしてその横に、赤ん坊が寝ているベッドがあった。
おそらくは次男夫婦か三男夫婦だろう。ミクは男と女を肉で覆って転送すると、その後に赤ん坊を転送する。ミクは肉塊であり、可哀想などという感情は無い。男も女も子供も”肉”でしかないのだ。
本体空間でレティーに脳を食わせ血を吸わせた後、本体は死体を喰いながらレティーの話を聞く。
『どうやらターモノア伯爵の三男夫婦のようです。赤ん坊の脳には当然ながら大した知識などありませんね。三男の方ですが、どうやら王都の兵士などと懇意にしているらしく、便宜を図る代わりに抜け荷に加担させているようです』
『ふむ。その兵士も分かるか? 犯罪を犯している者を見過ごすのは良くないからな』
『はい。兵士の一部ですし顔は分かります。兵士用の宿舎にいるようですが、どこの部屋かまでは分かりませんので、そこは探すしかないようです。後、妻は平民であり、特に何も知らなかったみたいです』
そんな話を聞きつつも、分体の方は屋敷の中を調べて行き、新たに子供の居る寝室を発見した。こちらは次男夫婦だろう、子供が大きいので間違いない筈だ。
7歳か8歳の子供も含めて転送し、再びレティーが脳を貪る。その結果、新たに色々と分かった。
『次男の方は、どうもスラムの者と関わりがあるようです。ここ王都フィラーは堀がありません。なので作りやすいのでしょう、ゴールダームと同じ事をしているようです。トンネルを掘っての密輸ですね』
『犯罪者の考える事は変わらんな。まあ、秘密裏に王都に入れるには方法など限られるであろうし、似るのは仕方ないか。それはともかくとして、そこも潰すべきだな。犯罪を放置するのは良くない』
どう考えても肉を喰う為に言っているのだが、誰も止める者など居ないので突き進むミク。最後に伯爵夫妻を見つけて転送したら、さっさと伯爵邸を出るのであった。
次に移動するは門の近くにある兵士の宿舎。ここで寝泊りしている兵士は多いのだが、部屋が狭いにも関わらず窓がある為、ミクとしては非常に都合が良かった。
窓から中を覗き、兵士の顔を見て特徴をレティーに伝えれば、喰っていい者かどうかが分かるのだ。そして喰っていい者を転送し、レティーに脳を食わせて仲間の情報を引きずり出す。
新たに見つかった密輸の仲間も喰らい、脳を調べて仲間を探す。こうやって貴族特権での密輸に加担していた者達を、須らく喰らう事に成功したミク。明日は大騒ぎだろうが気にも止めていない。
その後は北東のスラムに移動し、ここで外のトンネルを掘った裏組織を捜す。
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フィグレイオ獣王国の王都フィラーにもそれぞれの区画があり、北東は住宅街とスラム。北西も住宅街や店とスラム。そして南東に各ギルドと連なる店があり、南西は主に酒場や色町。
そして中央に城があり、それを囲むように貴族の屋敷がある。ここが中央区画であり、ミクが泊めてもらっているヴェスの屋敷もこの区画だ。
スラムが北東にも北西にもあるのは、王都近くのダンジョンで夢破れた者達が巣食った結果であり、ある意味では仕方のない結末であろう。これはゴールダームでも変わらない。
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ミクは北東のスラムの一角におり、そこから地下に魔力を流して調べていた。強い魔力ではなく弱いのだが、細く長く地面の下の奥深くに流している為、空間があれば魔力は途切れる。
外にトンネルが通じている以上は、必ず何処かに空間がある筈なのだ。トンネルがそもそも空間なのだから、土などが無い空間があって当たり前なのである。
(ここか! やっと見つけた!! まったく、随分と梃子摺らせてくれるよ)
ミクは空間を見つけたが、それはゴールダームのトンネルより小さく狭かった。通りでなかなか見つからない筈だと思いつつ、そのトンネルがあるであろう建物へと侵入する。
どうもスラムの組織が使っている建物らしいので、ミクは中の者達を調べ上げ、一番偉そうな者を転送した。レティーに脳を喰らってもらうと、予想通り組織のボスだったようだ。
『先ほどの男は組織のボスのようですが、どうも他の貴族と関わりがありますね? ターモノア伯爵ではなく、レットバニン男爵……ですか? 何故伯爵ではなく、男爵と懇意にしてるのでしょう』
『さあな。元々は男爵と共に悪行を行っており、そこのルートを伯爵にも使わせている、とかではないか? もしくはレットバニンという男爵は知らないとかな。そこの組織の者が勝手に使わせている、と言う事もあり得る』
『………どうやら主の推察通りのようです。男爵が資金を出してトンネルを作らせたようですが、この組織の者どもが勝手に伯爵にも使わせて利益を上げているようですね。男爵は法衣貴族で、それゆえに金銭が必要なのでしょう』
『成る程。爵位を上げる為に金銭で根回しをしようと考えたのだろう。神どもから聞いた話にもあったが、分かりやすい事だ。法衣貴族という事は王都に住んでいるな。で、ある以上は喰わねば』
組織の者を全て喰らったら、ミクはトンネルを通って外へと出る。場所は王都近辺の森の中だった。やはり周りから見え難い所に繋げてあるが、見られたら困るからだろう。
ミクは森の側の入り口に糞尿を捨て、魔物などが入る可能性を持たせておく。入り口は地面に掘ってあり、石の蓋で隠されていたので外してある。そのうえで穴の近くに糞尿を捨てたのだ。
人間種のものなので、魔物などはむしろ近付いてくる可能性がある。これで何かあれば地下のトンネルは発覚するだろう。
やるべき事を終えたミクは、ピーバードの姿で王都フィラーへと戻る。次に男爵の屋敷に行き、夫婦と子供を転送して終了。ヴェスの屋敷へと戻った。
これ以上関係者を喰っていくと際限が無くなるので、後は次の日に回す事にしたらしい。
伯爵家や男爵家はともかく、スラムの組織からはお金を回収してきている。その金銭は、本体が今数え終わったようだ。
小銅貨が13枚、大銅貨が211枚、小銀貨が64枚、大銀貨が53枚、小金貨が13枚。思っているよりも小金貨が多かった事に驚くミク。あの組織は荒稼ぎしていたらしい。
ゴールダームのトンネルを掘っていた連中とは違い、フィグレイオ獣王国には町や村が多いからだろうか? それだけ様々な商人がおり、違法な物を王都に入れたい者が多いのであろう。
伯爵はその取り纏めをしていたみたいだし、男爵も地方の悪徳商人と関わりがあった。男爵はともかく、伯爵はヴェスが指名する筈である。
世に悪の種は尽きまじ、と言うが、どうやら本当の事だとミクは納得するのであった。




