0692・オーレクト帝国へ
Side:ミク
あれから4日、やっと領都ウェルスに戻ってこれた。辺境伯達は尋問した際に工作員が本物だと知り、もはや私達を舐めた感じで見る事は無くなっていた。私からすれば今ごろかと思うし、見る目の無さに呆れるくらいだ。
そもそも小物に対して、いちいち怒りなど持つ筈が無い。奴等の相手など唯々面倒なだけだ。そこに何の価値も無いし時間の無駄だとしか思っていない。言い換えれば、怒りを持つ価値も無いのが奴等なんだ。
私達は戻ってきてすぐ狩人ギルドに行き、収入を得たらその足で酒場へ。大銅貨4枚を渡して酒と食事を注文し、適当に飲みながら今回の戦争を振り返る。
「大した相手じゃなかったねえ、草原コボルト。もうちょっと歯応えがあるのかと思ったら、最初のあれで死ぬという体たらく。話にもならないよ。ある意味で記録に残る死に方だとは思うけどね」
「それは流石にねえ、記録に残してやるのは可哀想じゃない? まさかのビックリして立ち止まったら、後続に潰されて死にましたっていうのはさ。恨みも何も無い相手だからこそ、ちょっとねえ……」
「まあ気持ちは分かるけど、名前を残さなきゃセーフだと思うけどね。あんなマヌケな死に方はそうそう無いんだし、ちゃんと後世にまで残してあげた方が良いよ」
「本当に容赦が無いわ、流石はミク」
「どうしたんだ? 帰ってきた途端、随分とご機嫌そうじゃないか」
おっとマスターが来たか。まあ、話のネタになるだろうし教えてやってもいいか。
「コボルトとの戦なんだけど、攻めて来てすぐ銃の部隊が一列に並んで敵を撃ったのよ。そしたらコボルトの先頭が音にビックリして止まったわけ。でも連中って駆け抜けながら矢を射るでしょ?」
「おお、そうだな。奴等は確かに走りながら矢を撃ってくるって聞く。だがよ、それがどうしたんだ?」
「マスター、ちょっと鈍いのね。コボルトは走って矢を射る、その先頭が銃の音にビックリして止まったのよ。なら後ろから来てる味方は?」
「そりゃおめえ、すぐには止まれないんだから……ああ! そういう事か!!」
「そう。それで先頭を走っていた各部族の戦士長は、後ろから来た後続に押し潰され……」
「押し潰され………まさか、死んだのか?」
「その通り。情けなくも恥ずかしい死に様であり、戦闘が始まってすぐに死亡したよ。あまりに情けないから歴史に残してやるべきだと思うんだよねー」
「ハッハッハッハッハッハッ! そりゃ傑作だ!! まさか大きな音に驚いて、立ち竦んで下敷きとか。そんな下らない死に様は初めて聞くぞ」
「私は可哀想だと思うんだけど、ミクは名前が残らなきゃ問題ないって感じね。まあ、確かに名前が残らないなら大丈夫かとも思う。とはいえ……」
「どうしたの?」
「いえ。それが元でコボルトを舐め始めて、後になって足を掬われなきゃいいけどなーって思うのよ。今回は銃を見た事が無い連中だったから良かったけど、見慣れたら相手も対処してくるでしょうし、今回で欠点も見つかったじゃない?」
「練習しなければいけない事と、数を増やして発射間隔を短くしないと突進を防げないってトコかな? 練習はすればいいだけなんだけど、不死玉の金額がそれなりにするからねえ。後者は陣地を構築すれば何とかなるかなって感じ」
「まあ、色々としなきゃ駄目って事よね。でないと銃は使えないわ」
その話はすぐに止め、私達は適当に飲み食いしてから宿に戻る。戦争への参加を言っておいたので泊まれるが、そろそろ一ヶ月経つので追加を払わなきゃいけない。とはいえ、そろそろここも出ていくし払う必要はないか。
酔っているロフェルをベッドに寝かせ、狐の毛皮を敷いて準備は終わり。【浄滅】を使って綺麗にしたら、セリオとレティーの寝ている横に寝転がり瞼を閉じる。後は瞑想をしつつ、朝まで待つだけだ。
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Side:ロフェル
ゴブルン王国とコルクサの戦争も終わり、辺境伯から面倒な声を掛けられるのを嫌った私達は、ゴブルン王国を南西へと抜けて行った。理由はオーレクト帝国を見に行こうというもの。どのみち北には国が少なく、モンスターと自然しかない過酷な環境だ。
だからこそ私達は南西のオーレクト帝国を目指して進み、国境を越えて3つ目の町へと進んでいる。オーレクト側の辺境伯の領都はそうでもなかったのだが、2つ目の町からはちょっとギスギスしていた。やはり皇太子が決まった影響が出ているのだろう。
オーレクト帝国も帝国とはいうけれど、そこまで国土が広い訳じゃない。理由は2つの国を軍事力で吸収しただけだから。それも片方はアルラウネの国で、もう片方はケンタウロスの国。そして両国は広くなかったと聞く。
どちらも強い力を持つ種族である為、オーレクトはその2種族を優遇している。その為か下層に置かれているのがゴブリン族とコボルト族だ。表向きはそうではないものの、裏では差別が存在する。正しくは弱い者という差別だ。
アルラウネは魔力が高いのと特殊な香りで魅了したり眠らせたり出来るという、花が人型になったような種族。ケンタウロスは馬の首から上が人間型なんだけど、ガイアという星と違って顔は馬になっている。
「アレは驚いたねえ。ガイアの神話ではケンタウロスって人間の顔の筈なんだよ。でも完全に馬の顔だったし、思わず被り物でも被ってるのかと思っちゃったよ。新鮮な驚きだったけど、笑いを堪えるのには苦労したね」
「そもそもケンタウロスってどうやって生まれたのかしら? そして馬とケンタウロスの差って何なの? 不思議で仕方がないわよ」
「ケンタウロスと馬の違いは不明だってね。そもそもケンタウロスは馬の言葉が分かるらしいし、結婚も子供を生む事もできる。いったいどういう事なのか訳が分からない。そもそも生態からして不思議だし」
「子供の頃はどっちも馬なのよね。成長と共に段々とケンタウロスになっていくらしいし……いったいどうなったら、ああなったのかしら。本当に謎な種族よ」
いや、本当に意味が分からない。ゴブルン王国には居なかったから見た事もなかったし、噂で聞いた事はあっても信じて無かったのよね。まさか本当にあんな不思議な種族が居るなんて……。
「……何か前の方で立ち往生してる? 嫌な予感がするけど、どうしようか?」
「どうしようって、助けるしかないんじゃない? 願わくは向こうが突き放してくれると助かるんだけど」
「敢えてこっちから言ってみる? だったら平民の助力なんて要らんとか言ってくれたりして」
「可能性は無い訳じゃないけど……とりあえず言ってみましょうか」
馬車を使ってるくらいだし貴族でしょ? どうせ都合よく使われるんだろうけど、それでも貴族の全部が悪い人って訳でもないのは分かったしね。アルダギオン子爵家とかあるから。
可能性は低いと思うけど……。
「すみませーん。お困りなら手助けしましょうか?」
「貴様ら平民の助力など要らぬわ!!」
「ありがとうございます!! それじゃこれで!!」
「え? ………あ、おい!」
ミクがお礼を言った瞬間、ケンタウロスの騎士みたいな人の目が点になったけど、私達は全く気にしない。平民の助力は要らないって言った以上、私達が助けなくても何ら問題は無い。むしろ向こうから断ってくれるという大ラッキー。
私達は急いでダッシュし、馬車が動かなくて困ってそうな一団から距離をとった。いやー、こっちから言ってみるものね。おそらく弱みにつけこんで、って感じで警戒されたんだと思う。御蔭で上手く乗りきれた。
今回は運が良かったわね。
ドリュアスからアルラウネに変更しました




