0691・工作員と後始末
Side:ロフェル
私とミクはさっさと自分達が居るべき最後尾へと戻っていく。正直に言って精神的には疲れたし、ミクが何も言わずに戻っていく以上は何かあると思うのよね。隠している訳じゃないけど、何かしなきゃいけない感じ。そんな感じがする。
最後尾まで戻ったミクが馬車の中に声を掛けると、中から返事があった。当然セリオやレティーじゃない。
「やっと戻ってきたか。全力で活躍すればあっさり終わっていたのに、随分と辺境伯軍に華を持たせてやったんだな」
「まあね。後々面倒にならないようにと、ファーダが攫ってきたそいつを渡せばこっちの事を侮ったりしないでしょ。ここで尋問するか、それとも王都まで連れて行くのかは知らないけどね」
「了解だ。ま、既に伝えてあった通り、中に工作員は出してある。後はそっちで使ってくれ。俺は取って来た馬車とか色々を何とかしなきゃならないんでもう行く。後は宜しく」
「分かってる。さっさと連れて行ってくるよ」
ミクはそう言って馬車の中に乗り込み、右手でコボルトの胴体を担いで出てきた。適当な持ち方だけど、工作員如きに気を使ってやる必要はないか。ついでに布で口枷をされているからか喋れないみたいね。
「この工作員を辺境伯の所に連れて行くけど、ロフェルはどうする? 疲れたならここに残ってていいし、気になるならついて来てもいいよ」
「んー………気になるからついて行くわ。そいつが何を喋るかも気になるし、戦場でまだ動いてるのも気になるのよね」
コボルト達は逃げてしまい、既に戦闘は終わってる。にも関わらず未だに兵士達や騎士達が何かしてるんだけど……あれってもしかして、身包みを剥がしてるの?。
「そりゃねえ。こんな所に置いていても駄目になるだけだし、武具はそもそも辺境伯家からの貸し出し。ならばなるべく持って帰るでしょ。アレだって税金で買ってる物なんだから無駄には出来ないよ」
「ああ、成る程。身包みを剥がすって盗賊のやる事かと思ったけど、あれらはウェステル領の税金で買われた物だと考えたら、1つも無駄には出来ないわね。流石に死体を持って帰る事は難しいでしょうけど、武具なら何とかってところかしら」
「それでも重いけどね。兵士の2割くらいは殺されたみたいだから、結構な被害は受けたんじゃないかな。それだけの死体を弔わなきゃいけないし、戦闘が終わった後も魔法使いは忙しそうだね」
ミクは何でもないことのように言うけど、死体ってなかなか燃えないのよ。私も供養しようと思って焼いた事があるけど、相当に大変だったんだから。あの時は死体の焼ける臭いも含めて本当にキツかった。
「【根源魔法】の【浄化魔法】に【聖炎】という聖なる炎で対象を焼く魔法と、【葬炎】という死体を焼く専用の魔法がある。どっちでもいいけど、焼くだけなら【葬炎】の方が簡単に焼けるよ」
「そんな魔法まであったんだ。【根源魔法】って本当になんでもあるのね」
「私も殆ど知らないけどね。【根源魔法】の中で神どもが全て教えてくれたのは、【浄化魔法】と【空間魔法】だけだよ。それ以外は実地で学べって言って放り出されたからさ」
「………それってどうなの? <惑星魔法>か<銀河魔法>か<宇宙魔法>か<根源魔法>か分からないじゃない。どうやって調べるのよ?」
「さあ? 別に今の状況で困ってないし、元々魔法なくても喰えば済むからねえ。あくまでも無いより有った方が便利ってだけなんだよ。死体だって、バレる事を気にしなければ喰えば終わるんだし」
「ああ、うん。そうだったわね」
ミクは人間種、この星だとゴブリン族やコボルト族を普通に食べる。どうやら一定以上の知恵なんかを持つ生き物でないと、本体の肉が増えないらしい。もしかしたら神様方が食べていいと言ったものでしか増えないのかも、と言っていたわね。私はそっちの方が可能性は高いと思う。
おっと、辺境伯様が近付いてきた。しっかりと顔を作っておこう。変な勘繰りなんかをされても困るし。
「辺境伯、コレがコルクサを煽ってたオーレクトの間者だよ。そっちが欲しいなら呉れてやるけど、どうする? 要らないならこっちで情報を抜いて処分しとくよ」
「オーレクトの工作員? そいつがか!?」
「そうだよ。このコボルトが工作員だ」
「何故そんな事が出来る? いや、どうやって!?」
「それを教える訳ないでしょ。信じるも信じないもそっち次第であり、私はコイツを活かすも殺すもどっちでもいい。で、コイツをどうする? ……私の言っている事が嘘だと思うのなら、最後尾に戻ってゆっくりしててもいいんだけどね」
辺境伯の周りに居る奴等が随分と疑った顔で見てきてるからねえ。この時点ではそんな顔をしない方が良いんだけど、気付いてないみたい。仮に嘘でも受け取って調べれば分かるんだし、最初から疑ってる時点でミクが警戒して喋らなかったのは正しいのよ。
「そなたら、その疑いの顔を止めろ! それが工作員ならこちらに渡して貰えると助かる」
「じゃ、置いてくよ。それにしても私が捕まえなければ、コイツには逃げられてオーレクトの関与が証明出来なかったね」
ミクの痛烈な嫌味に周りの連中の顔が変わった。相当に腹立たしいみたいだけど、そもそも戦で活躍したのは私達で、情報を取って来たのはミクとファーダ。こいつら特に何かした記憶が無いんだけど?。
「しかし、いったいどうやって……」
「うん? 商人に扮した男が居るっていう話を、ワザと鳴り筒を盗ませたヤツとしてたじゃないか。そこからだよ」
「なっ!?」
「戦場なんて裏切り含めて何でもアリだ、味方が本当に味方か調べるに決まってるじゃないか。どうやってとは聞かないようにね? 聞いたところで教える訳が無いんだからさ」
「「「「「………」」」」」
こいつらは見張られていた事に全く気付いてなかった。それどころか泳がされていたと今ようやく分かったくらいだし。
明らかに自分達より格上だと理解したんでしょうね。若干ながら怯えてるわ。今さら遅すぎると思うけど。
「ロフェル。ちょうど良いから死体を焼くのを手伝って来ようか。魔法の良い練習になるよ」
「………しょうがないわね。ミクがそう言う以上は諦めて参加するしかないか」
死体を焼くなんてあんまりしたくないんだけど、早めに終わらせないと何時まで経っても帰れそうにないか。だからミクも言い出したんでしょうし、さっさと終わらせる為に手助けしますか。
恐怖を感じて小刻みに揺れる辺境伯達を横目に、私とミクは死体塗れの戦場に行って死体を焼いていく。ミクに【葬炎】の魔法を教えてもらったけど、すっごい楽。わざわざ死体を焼く為に作られただけはある。簡単に死体を灰に出来る魔法だとは思わなかった。
ミクは【聖炎】という魔法で浄化しながら焼いているからか、死体を焼いたとき特有の臭いがしない。何故か綺麗な空気に感じるから不思議ね。それとも本当に空気を綺麗にしているのかしら?。
魔力の少なくなっていた魔法使いも剥ぎ取りに加わり、ミクと私はどんどんと焼いていく。どうやらついでにコルクサの兵士の死体も焼くらしい。まあ、ここからアンデッドが発生してウェステル領に来ても困るからでしょうね。
それでも私達が居ないと、こんなに簡単に燃やせないけどね。いくら【葬炎】の魔法が死体を焼く専門の魔法だと言っても、ずっと使い続けられるほどの魔力がある者なんて殆ど居ない。
私達にはそれが出来る。だからこそ、こいつらは必死に集めてるのね。臨時収入になるから。




