0689・本格戦闘開始
Side:ミク
朝食を食べた私達は、またゆっくりと最後尾で待っていた。このままだと奇襲のように攻められるけど大丈夫なのやら? 相手が攻めて来てから私達に助けを求められても遅いんだけど、そこのところは理解してるのかな?。
後ろに魔法で的を作り、そこに射って練習をしていると、後ろから複数の気配がやってきた。魂魄反応で辺境伯だと分かっているけど、いちいち後ろを振り返ったりなどしない。こっちが理解していると教えてやる必要もないからね。
「すまない、少しいいだろうか?」
「ああ、辺境伯。いったい何の用?」
「今朝の物見の報告によると、相手の砦から立ち昇る煙が多かったそうなのだが、それに関してどう思う?」
「コボルト達は攻めて来るよ。昨夜、内部で喧嘩をしてね。今まで軍師気取りだった奴をブン殴って、今日攻め込むって決めてる。だから朝から煙が多く立ち昇ってるんだよ」
「「「「「なっ!?」」」」」
「どうしてその情報を我々に渡さないんだ! 依頼をしているというのに、契約違反だろう!!」
「契約には私が手に入れた情報を流せとは書かれていない。それにもう1つ、お前の家臣達は私の情報を信じるのか? 手柄を取られると考えているのか知らないが、味方を警戒するような連中に教えてやる必要が何処にある。嘘吐き扱いされて終わりだろう」
「それは……」
「そんな状態のまま放っておいたのは最高指揮官である辺境伯、お前だ。なら私が情報を出さなくても何ら不思議じゃない。いちいち嘘吐き扱いしてくる鬱陶しい連中に与えてやる情報など無いんだよ。しかも契約には入っていないんだしね」
「新しい契約には「相談があれば協力する事」、しか追加されてないからね。だから相談されたから教えた。契約内容としてはミクの方が正しい。その御蔭で、ここ数日は相談も無かったし気楽なものだったよ」
「………」
「自分がどういう契約内容にしたかは、正しく覚えておくべきでしょ。そうやって自分に都合の良い思い込みをするからこうなる。一応言っておくと、向こうは3つの部族の戦士長と兵達に、各部族長に媚びたお気に入りで構成されてる。で、そのお気に入りが軍師気取りで指揮してた訳だ」
「お気に入り?」
「各部族長に随分と贈り物をしているヤツであり、そうやって取り入ったオーレクトの工作員。その一味だね」
「「「「「な、何だってー!?」」」」」
「そこまで驚く事? オーレクトの手が入ってたのは分かってたでしょうに。それよりも、そいつの言う事に我慢が出来なくなって昨夜喧嘩になった。戦士長からすれば、功も無く帰れば戦士長の座を奪われるかもしれないとなる。とてもじゃないけど小競り合いを続ける訳にはいかない」
「それはそうだろうな。功も何も無く帰れば叱責されるのは当たり前だ。それは何処の国でも変わらん」
「そう。だから焦った戦士長達は攻める事を言った。でも策士気取りはこっちに銃がある事を知ってる。だから砦内に篭もる提案をした。これが真相みたいだね。それより本格的に攻めて来るから、銃の用意をしなきゃマズいよ」
「そうだ。早く不死玉を出して砕け! 銃と弾を取り出して兵に教えるんだ。急げ!!」
「「「「ハッ!」」」」
慌ただしく動き始めたけど、この調子じゃ駄目っぽいなぁ。結局、敵が攻めて来るギリギリまで練習すら無かった。徹底的に隠したからこそ隠せたんだけど、誰も知らない物をいきなり使って上手くいく筈なんて無い。
恐ろしくグダグダな戦いになる可能性があるけど……私達の所為じゃないし別にいいか。あれだけ練習させろって言っておいたのに、練習させない辺境伯が悪いんだしね。史上稀に見るほどのグダグダな戦いにったら笑うけど。どうなるのやら……。
…
……
………
銃持ちが構えて1列になるのは分かる。何で私達が弓でその後ろに居るんだろうねえ。まあ、弓矢を持ってるなら協力してくれと言われたからなんだけど。それにしてもロフェルがやる気で良かったよ。
実戦で弓を撃つ経験って重要だと思うし、今回を逃すと難しいだろうからね。こういう機会でもなければ戦場を正しく経験なんて出来なかったかもしれない。
ロフェルだって後方での炊き出しとか、前に逃げた村を襲うなんていうのを見た経験はあるんだけど、自分が戦場に立って戦った経験というのは無いみたいなんだ。ここにシャルが居れば色々と教えてくれるんだろうけど、今は居ないから無理なんだよね。
そもそも第1の星とガイアの空間座標を私は知らないから、転移する事そのものが不可能なんだ。それさえ分かれば飛べなくもないと思うんだけど、空間座標が分からない以上はどうにもならない。
ちなみに魔力だけだと【転移】するのは私も無理だ。でもそこに神力まで使えば、おそらくどちらかの星には届く筈。どのみち考えても無駄だから思考を戻して、今は戦争に集中しようか。
ファーダからの情報でもそろそろ敵が出てくる筈。そう思っていたら、早速こっちに向かってきた。二足歩行の毛深い狼が走ってくるけど、特にどうこうと思う事は無いね。連中じゃ私を殺せないから当たり前だけど。
合図があったら銃が撃たれるから、私達もそれに合わせて撃つ。銃隊の前には大盾隊が居て、矢から守るべく大盾をしゃがんで構えてる。そんなこちらの陣営に対し、向こうは走りながら弓を構えていて……。
「撃てぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!」
バンバンバンバンバンバンバン!! という音が一斉に響き、銃から弾が発射された。その音と反動に銃隊が驚き放心していると、相手のコボルトもビックリして止まった。そこに雪崩を打ったように押しかける後続。
急に止まる事など出来る筈もなく、コボルトは後続に押されるようにして倒れていき、それを見て更に驚いて固まる銃隊。
「火薬を入れろ! 弾を込めろ! いつまで放心している気だ!! 敵は目の前なんだぞ!!」
私が大声を上げると、ようやく我に返ったのか火薬と弾込めを始める銃隊。それより銃隊の指揮官も放心してたんだから、如何に経験の無いヤツにやらせちゃ駄目なのかよく分かるだろう。練習は大事だ。
ズドン! ズドォン!! ロフェルと私が撃った矢が敵に中ったが、銃の音より凄いのは仕方がない。私は【身体強化】など使っていないが、ロフェルは使っているのであれぐらいの音はする。
むしろもっと大型の弓でも良かったのだが、ロフェルが扱い難いかと思って中型の物にした。流石にショートボウではドラゴン素材を活かせないし、ロフェルの力も活かせない。なのでそれは最初に却下した。
ロフェルが一目見て普通だと思ったなら、良い悪いは別にして標準なんだろう。でも最近ロフェルは自分がゴブリンだったのを忘れてるしなぁ。もしかしたら自分の身長基準で考えてるのかも。ゴブリン時代から30センチも伸びてるのにね。
銃隊が火薬と弾を込める間に私達は2射目と3射目を行う余裕がある。やはり火薬を入れるのも弾を込めるのも練習しなければ遅い。ガイアの古い時代でもそうだったと言われている以上、やはり初めてで銃を扱うのは難しいと言わざるを得ないね。
でもこれで辺境伯も分かっただろう。銃は練習しなくちゃ使えない。隠したところで使えない物として扱われるだけだ。そしてそれは、せっかくゴブリンの欠点を克服する武器が出来たのに、役立たずに思われるという事を意味している。
果たしてこの先どうするのやら。ま、とりあえずは戦争を終わらせてからかな。今はあいつらを射殺す為に矢を放つんだけど、本当に火薬と弾込めが遅いね。こんなに遅かったとは知らなかった。そりゃ<早合>とか生まれるよ。
バンバンバンズドンバンバンズドォンバンバン! 私達の音は間に挟まってもよく聞こえる。これでビビって逃げ帰ってくれれば、あっさり終わって助かるんだけど……。そうそう上手くはいかないかー。




