0688・本格戦闘前
Side:ファーダ
朝になったが、一気に炊き出しをしてるな。どうやら十分に食べた後で大半を動員するつもりらしい。となると残る人数は極めて少なくなる。問題は工作員が打って出るのか、それとも出ずに待機するのか……どっちだ?。
それがどちらかによって、今後の俺の動きも変わってくるんだがな。もし打って出るなら放っておくし、残るのなら始末する。脳から情報を引きずり出しておきたいんだよなー、本体もそう考えてるし。
貴重なオーレクトの工作員だ。それなりに情報は持っている筈。もしくは【善なる呪い】を掛けて辺境伯に渡すか? 目を抉り出せば俺だとは分かるまい。もしくは麻痺させて連れて行くか? ま、とりあえず今は様子見だな。
コボルト達も気合いが入っているみたいだし、3つの部族で色々と話し合いをしているようだ。何処をどういう風に担当するかの綿密な打ち合わせは必要だろう。生き物のように動き、雨霰と走りながら矢を射掛けるんだ。簡単な事じゃない。
古くからそういう戦法なんだろうが、実際にはゴブリンよりも戦術を理解しているんじゃなかろうか? 技術よりも、そっちの方に進化したのかね?。
「我等はこれより打って出る!! 戦士達よ! 今こそ我等の勇猛さを見せる時! ゆくぞ!!!」
「「「「「「「「「「ウォォォォォォォォ!!!!」」」」」」」」」」
「我等も続けぇ!! 敵を討つは戦士の誉れぞ!!!」
「「「「「「「「「「オーーーッ!!!」」」」」」」」」」
「遅れるな! 我等こそが草原の戦士と見せ付けるのだ!!!」
「「「「「「「「「「アォォォォォォォン!!!!」」」」」」」」」」
五月蝿い、五月蝿い。気合いを入れたいのは分かるんだが、いちいち五月蝿いだけだ。興奮するのはいいが、戦術を忘れないといいな。味方同士が戦場でぶつかるとか、マヌケも良いところだぞ。
さて、次々と出発していくが、昨夜ボコられた工作員は……と。居た、やはり俺の予想通りか。自分で動かせる兵など殆ど居ない。そりゃそうだろ、媚びて取り入っただけの奴なんかに兵が従う訳が無い。
側近連中と何やら話しているようだが、もしかしたら逃げる算段か? 全員が出撃したからか砦内には誰も居ない。それだけじゃなく、後方の輜重の一部にしか兵は残っていない。つまり残っている兵自体が極僅かだ。
「いいか、素早く帰る為の準備をしておけ。ウェステル辺境伯は新しい武器を持っているという情報を私は持っている。それが遠距離から攻撃する武器だという事もな。だからこそ砦に篭もる提案をしたというのに、あの愚か者どもは聞きもせん」
「では……」
「奴等は逃げ帰ってくる。敵が新しい武器を持っているというのに、何の警戒もせんなど愚か者のする事よ。奴等のような愚か者が負けるならまだしも、我等がそれに付き合ってやる義理など無い。さっさと逃げる為の準備をしておけ」
「宜しいのですか?」
「宜しいも宜しくないもあるか。奴等が勝手に攻めて失敗しただけよ。私の責任ではない。奴等の失敗の尻拭いまで何故私がせねばならんのだ。さっさと逃げる用意をしろ!」
「「「ハッ!」」」
ふーん。銃を持つという情報は持っており、一応その対策として砦に篭もる事にした訳だな。分からなくはないが、その情報を戦士長に渡していないのと説得もしていない。やはり将帥としての資格は無いな、下を抑えられていないんだ。
それはともかく、早速始めるか。ここでグダグダしている暇は無いからな。
「ガッ!?」
はい終わり。後はコイツの目をくり貫いて【血止め】を使って血を止めたら、本体空間へと移動させてそこで待機。他の奴等は素早く喰らって殺すんだが……。よしよし。本当に僅かな数しか残ってない。これなら素早く喰らえば済む。
俺が最速で喰らうという事は、人間種に視認できないという事でもある。そしてそれなら見つからずに対処するのは容易いんだよ。残されている連中は戦闘に参加出来なかったからか、ダラダラしているだけだしな。この程度の連中に苦労したりなどしない。
他の連中から見えない所で処理し、次のターゲットに移動。こんな感じで残っている連中全てを喰らい、輜重の馬車ごと俺は本体空間へと送った。もちろん馬車を引いてきた家畜も全て喰らい、これで連中は逃げられん。
本体空間に戻ろうかと思ったんだが、どうやらミクは戦場で弓を撃っているらしい。このままだとミクの側に再出現する事になるので、ちょっとマズいな。……仕方ない。鳥になって飛んで、ミク達が牽く輜重の馬車の死角に下りるか。
そのうえで敵の軍師を捕まえたとでも言えばいい。既に【善なる呪い】は刻んであるんだし………いや、馬車の影に隠しておくか。縄で縛っていれば大丈夫だろう。戦闘が終わるまで隠れていれば分かるまい。
タイミングを示して出せば怪しまれんだろう。早めに出すとバカが暴れる恐れがある。適当に手を出されて殺されても困るからな。工作員の情報は渡しておきたい。
よし。それじゃあ、向こうの最後尾まで飛ぶか。
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Side:ミク
朝になった。ファーダの方の情報も知ってるから、向こうが攻めて来る事も知ってる。とはいえ、それを辺境伯に伝えてやる義理も無い。ここ最近は矢を放つ練習をしているけど、3日ほどでロフェルは普通に撃てるようになった。
まだ狙った所に中る訳ではないものの、真っ直ぐ飛ばせるようになっただけで十分だ。どうせ戦場では狙ったってなかなか中らない。それなら真っ直ぐ撃てるようになるだけでも問題ないからね。数撃ちゃ中るし。
矢の方は十分にあるから気にする事は無い。矢筒は無いけどアイテムポーチに入れてるからすぐに取り出せるし、ロフェルには矢筒を渡してある。コボルト軍の輜重にあった予備の矢筒みたいだけど、ファーダが取ってきたんだよ。今はそれを使ってる。
朝食が出来たから、そろそろロフェルを起こすかな? ……セリオが起こしてくれるみたいだから放っとこう。
「ん……んー……「ベチィ!」。いたぁ!? ちょっと何、痛いんだけど!?」
『起きなかったから【竜鱗】使いながら叩いたんだよ。力はそんなに入れてないから、痛いで済んだんじゃないかな? それが嫌なら最初で起きてよ』
「うっ……そんなに起きなかったの?」
『うん。【竜鱗】で起きなかったら、魔法を使おうかと思ってた。そうすれば流石に起きると思ってさ』
「魔法は危険だから、止めてね! 流石に起こすのに魔法を使うとか無いから!」
『それは起きないロフェルが悪いと思うよ? 皆が似たような時間に寝てるのに、どうしてこうも寝起きが悪いんだろうね?』
「何でかしらね? いつもはそんな事ないのに、戦場だと起きられないのよねえ。しかも今回だけ。今まではそんな事なかったのに……おかしいわよ、絶対」
「狐の毛皮が悪い方に出てるのかな? 狐の毛皮無しで寝れば普通に起きられるかもしれないし、そうしてみる?」
「駄目ならそうした方が良いかもしれない。それぐらい起きられないのよ。私自身あり得ないって思うくらい」
「ふーん。ま、とりあえず朝食を食べようか。……どうやら今日攻めて来るみたいだからさ」
「………」
聞いた瞬間ロフェルは黙ったけど、眠気が飛んだかな? とはいえ今日こっちに攻めて来るのは間違い無い。昨夜ボコボコにしてまで出陣するって言ったんだし、功を焦ってる。これで攻めて来ないなんていう事は無い。
自分達の今後が懸かっている以上は、絶対に攻めて来て功を稼がなくちゃいけない。奴等の方も尻に火がついてる。それに朝から豪勢な食事にしているんだ。これから攻めますよと言ってるようなものだしね。
後は辺境伯がどう考えるかだけだ。




