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0686・両軍戦闘中




 Side:ミク



 ん? 前の方が動き始めたね。という事は何らかの策をもって動き出したんだろうけど、果たして何を始めるのやら。付け焼き刃で上手くいくなんて事はあり得ないし、聞きかじった程度で上手くいく事もない。分かってるのかねえ。


 ま、このまま触手を通して確認しようかと思ったら、どうやら大盾の連中を前に行かせてるみたいだ。相手の矢を使わせるのか、それとも近付いて魔法で木柵や木塀を焼くのか。どちらかは知らないけど、何かをやる気みたいだ。


 どっちでも良いけど、少しは戦況を動かしてほしいもんだ。睨み合いを続けたって誰も得をしないし、このまま睨みあいを続けられるほど両軍に食料が無い。そこまで長々と戦い続けるのは無理だ。


 大盾以外の兵はダラダラしてるみたいだし、となると命令なんかは出てないのか。なら矢を使わせるっていう堅実な策に出たと見ていいね。結局そうするなら、何故依頼を変更してまで私に聞いたのやら。


 もしかして画期的な方法でもあるかと思ったのか? それとも銃の運用方法を知りたかったのか。どのみち高度な運用ともなれば絶対に練習が必要だ。しかしなるべくバレないようにしていた所為で、兵士は碌に練習も出来ていない。


 それどころか使い方さえ碌に知らないんじゃ、ぶっつけ本番で何とかするしかない。あまりにも話にならないし、お粗末すぎる。何でもそうだけど、いきなりで上手くいく事なんて無いんだよ。


 もし上手くいったのなら、それは簡単な事かつ偶然だ。複雑な事が初めてで上手くいくなんて、絶対にあり得ない。



 「複雑なんだから、それは無理よ。そして銃の扱いも複雑な部類に入るって訳ね?」


 「そこまで複雑ではないね。しかし複数の銃を持った者が連携して撃つとなれば複雑。更に撃つ際に火の粉が散るんだよね、火縄銃は。しかも飛んだ火の粉は別の者が持っている銃に引火したりする。実際、集団運用は難しいんだよ」


 「沢山の人なら難しくなるって訳ね。確かに盾を構えて歩くのも、1人なら簡単だけど大人数だと難しいもの。歩幅を合わせたりとか、周りに遅れないようにとか……そんなのも練習しないと無理だもの」


 「だから練習が必要なんだけど、あの辺境伯は練習をさせてこなかった。そのツケが今この時に響いて来てる。確かに隠せただろうけど、その代わりに使えないんじゃ話にならない。結果が出せなきゃ役立たず扱いになるんだけどね」


 「王城がせっかく辺境伯に許可を出したのに、上手く活用できませんでした。じゃ、話にならないわよねえ。何の為に許可を出したと思ってるって感じかしら。辺境伯の名前も落ちてしまうでしょうし、大変ねえ」


 「前の方じゃそれなりに矢が飛んで来てるみたいだけど、特に大盾がやられてるって事は無いね。このまま矢を使わせるつもりなのか、あまり踏み込んではいないみたい。それでも徐々に接近していってるけど」


 「なら余計に向こうは射かけてくるでしょうね。出来れば近付かせたくない訳だし。でも、不満は確実に溜まってるでしょう。本来は駆けながら弓矢を射る筈が、砦に篭もって矢を射るだけっていうのは……」


 「それはオーレクトの間者の策に乗るのが悪い。結局のところ、砦に篭もるのを選んだのは向こうなんだし、こっちの所為じゃないからね。自業自得としか言えないよ。自分達の長所を殺して何がしたいのかは知らないけどさ」


 「長所……確かにコボルト族の足の速さと体力は長所よねえ。特に遊牧民である以上は子供の頃から駆け回ってるでしょうし、そうなるとその足を活かした戦い方になるのは当然よ。にも関わらず、今はその足を封じてしまっている……」


 「オーレクトの間者はその程度も理解してなかったのか、それとも砦という防御力のある拠点じゃないと怖かったのか。その辺りは分からないけど、間者はおそらく大したヤツじゃないね」


 「調べてないの?」


 「調べてはいない。毛深いうえに全員似たような顔だしさ、喋ってる内容でしか分からないんだよ。オーレクトは工作活動の為に各種族用の孤児院を作ってまで、諜報活動をさせる部隊を作ってる」


 「つまりオーレクトの工作員もコボルトで見分けがつきにくいと。まあ、コボルト族って顔も毛深いから確かに分かり難いのよねえ。実際に他種族ってサッパリな事が多いし」


 「私からすればゴブリン族もサッパリだけどね。何となく主要な連中の顔は覚えてるけど、分かりにくくて仕方ないよ。髪は無いし似たような顔だし、他種族からすれば見分けってむずかしいものだし」


 「そんなに分かりにくいんだ。そこまでとは思ってなかったけど、他種族の事を思うとそうなんだろうね。私からすれば簡単だと思うけど、確かにコボルトの顔なんて見分けつかないし……」


 「おっと、大盾の連中は随分と前に進んだね。かなりの矢が浴びせられてるけど、それでも死者は出てないみたい。結構な数の矢が地面に刺さってるよ。アレは後で取りに行こう」


 「矢を作るのもお金が掛かるし、それに面倒なのよね自分で作るの。それなら敵から貰った方が都合がいいわ。最悪は買って使うって方法もあるけど、ドラゴン素材の弓に耐えられる矢なんて売ってないだろうしね」


 「難しいかな? 実際にアレの張力は相当に高いしさ。弦と共に引くだけで切れ込みが入って裂けるかもしれない。いや、冗談じゃなくて【身体強化】を使わないと引けない以上は、本当にそうなる可能性がある」


 「そこまでなんだ……」


 「まあ、ドラゴン素材の弓だしね」


 「流石に驚くしかないわね、そこまでの弓だったなんて……。果たして私に使えるのかな? 多少なら弓を使った事はあるんだけど、お金が掛かる物だと知って諦めたのよねえ。魔法と弓の遠距離攻撃を目指した事があるんだけど」


 「おっと、大盾の部隊が後退するみたい。矢が届かない距離に新たな部隊が居るから、そいつらが今度は前に出るようだね。とにかく敵の矢を使わせるのは今のところ成功してる」


 「それは良かったわ。最初でつまづくと士気が落ちるって言うし」


 「向こうも分かってるだろうけど、それでも敵軍を近づけない為には矢を撃たざるを得ないんだろうね。それにしても常駐が10人の割には結構大きな砦だけど、何でわざわざあんな大きさにしたんだろう?」


 「確かに10人ほど常駐させてるって言ってたけど、それにしては大きすぎるわよね。砦ってあんな物だと思ってたから気にも留めてなかったけど、10人が暮らす砦としては変よ。そもそも700人が収容できている時点で、大きさがよく分かるわ」


 「いや、全員は収納できてないっていうか、砦の外に輜重の馬車が並んでる。それを守ってる奴等も居るから、あくまでも一部が砦の中に入ってるだけだね。不用意に近付くと外で控えている奴等が前に出てくるかも」


 「それってマズいんじゃないの? それが出てくるって事は、雨霰あめあられと矢を降らせてくるって事でしょ?」


 「どうかな? 難しいところだね。ファーダの話では、氏族が違ってる所為で揉めてるみたい。砦の中に入ったのも、それぞれの氏族の戦士でも強い連中だって。外に居るのは強さがそれほどの連中みたい」


 「それって普通は逆にしない? 強い戦士ほど自由に戦える外に、強くない奴ほど防御の手厚い中に置くべきよね?」


 「強い奴は待遇を良くしないと五月蝿いみたい。何処でも似たようなものだろうけど、ってさ」


 「………」



 強い奴ほど大きな顔で偉そうに出来る。確かに部族レベルならそうなんだろうけど、強い奴を動けなくするって本当にバカだよねえ。


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