0683・戦場に到着
Side:ファーダ
それにしてもコボルトと言いつつ、普通の装備しかしてないな。いや、普通というのは正しくないか。
金属を使わず毛皮とかの装備が主流。元々自分達の足で走り回るので、家畜は輜重の馬車を牽く分だけ。武器自体は弓矢以外にあったのは剣だけだった。しかしただの剣じゃない、いわゆるところのマカナだったので驚く。
徹頭徹尾、草原コボルトは金属を使わない。いや、使えないのか? 本来のコボルトは爪と牙が主武器だ。あの爪が邪魔して金属の精錬や鍛造が出来るようには見えない。つまり、毛皮とか木とか石しか無理なんじゃ……。
もちろん、あくまでも俺の想像でしかないんだが、何だか嫌な予感がするな。ゴブリンの国が一番文化的とか………あり得そうで怖い。マジでゴブリン程度の国しかないかもしれないのかー。
まあ、それは横に置いておくとして、コボルトが近接武器として持っているマカナに似た剣。見れば見る程にそっくりだが、それは木の板に黒曜石を取り付けた物と考えればいい。
実際にガイアの古い時代に存在し、人の首程度ならば切り落としたと言われている物だ。そもそも黒曜石とはガラス質の物なので、ガラスの鋭利さ程度は生み出せる。つまり人の首程度は十分に落とせるんだよ。
ゴブリン側は大盾を持っているし、兜も被っているので切るのは簡単じゃないだろう。とはいえ十分な殺傷能力を持つ武器でもある。何よりコボルトの上背に合わせた大きさなので、思っている以上にデカい。120センチぐらいはあるんじゃないか?。
実際、縄が取り付けられているので、おそらくマカナは背中に背負う形だと思われる。となると弓は矢を撃ちつくした後に捨て、マカナで突撃って感じを想定してるなー、これは。
普通なら厄介だし、かつてのゴブリン側が大きな損害を被ってきたのは分かる。コボルトはどいつもこいつも背が高い。あの背から繰り出されるマカナの威力は高いだろうさ。たとえ黒曜石以外が木だとしても、棍棒で殴られてるような物だ。ゴブリン側が鉄の兜を被っていても厳しい。
相手の軍は背も高く筋力も強いってなったら、並みの軍じゃやられるのも納得だわ。それも今回は変わるだろう、この毛皮じゃ銃弾は止められないだろうし。とはいえコボルトの天然の毛皮を貫けるかは不明だ。滑空銃だしな。
これがライフルを刻んである銃なら違うんだろうが、俺も滑空銃、それも火縄銃の威力なんて知らんぞ。ガイアではライフルが刻んであるのが当たり前だったし、滑空するのは大型の砲とかぐらいだ。戦車の砲なんて参考にもならん。何より使ってる物が違いすぎるんだよ。
とりあえず見るべき物は見たから、後は輜重の馬車に乗って監視を続けよう。おそらくゴブリンが勝つとは思うが、はてさて……。
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Side:ロフェル
行軍が始まって3日。ようやく私達は草原コボルトの軍が見える場所までやってきた。どうやら向こうは辺境伯の建てた砦を占拠したらしい。思っているより時間が掛かったけど、向こうは予想していた以上に余裕があるみたいね。
まだ朝だからこっちも体力はあるけど、向こうは砦に篭もって出てこない。厄介な事をしてくれるわ、本当。
「ファーダからの報告で、今回向こうには軍師的なヤツがついてる事が分かってる。もちろんオーレクトのヤツ。どうもコルクサに潜入してるというか、煽ってるヤツの一味らしいね。そいつが篭城戦を提案したみたい。バカだよねえ」
「バカ……? 篭城している相手を倒すのって大変だって聞くけど、そうじゃないの?」
「いいや、ロフェルの言う通りだよ。でも、草原コボルトの武器は縦横無尽に走り回って矢を射かける事だ。それは砦に篭もっている限り出来ない。もちろん篭城している連中から強力な矢が飛んでくる事は厄介だ。でも縦横無尽に来ないなら、やりようは幾らでもある」
「そうなんだ……」
「だって雨霰と降ってくるのが恐ろしいのであって、砦から飛んでくるなら当たらない所まで下がれば良いだけだよ。それで矢が当たる事は無い。ついでにその矢を撃ち返してもいいと思うよ」
「撃ち返す……?」
「はい、これ」
ミクが私に渡してきたのは、小さいながらも弓だった。私にこの小さな弓でどうしろと? そう思ったけど、これってもしかして……。
「これ、ドラゴン素材で作られてない?」
「ロフェル、正解。ドラゴン素材の弓だから小さいとはいえ張力は高いよ。【身体強化】して引く必要があるのと、威力が高いから気をつけるくらいかな? せっかくだから練習するといい。相手が沢山矢をくれるし」
「………うん。まあ、分かった。どうせここからじゃ武器なんて届かないし、矢を撃つ練習くらいはしてもいいかな? もちろん味方に当たるような危険は冒せないから、後ろに向かって撃つけどね」
「それで良いんじゃない? 私は敵に向かって撃つけどね。これで」
そう言ってミクが取り出したのは、何だかおかしな形の弓だった。それも異様に大きく、ミクの身長よりも大きい。あんな大きくておかしな形の弓、果たして本当に使えるの?。
「不思議な顔で見てるけど、これは第2の惑星であるガイア。そこにある日本という国で使われている弓で、和弓というんだよ。ガイアという星最大の弓であり、最も太い矢を放つ弓でもあるね」
「へー。そんな弓を使う国があるんだ、本当に驚き。そんな大きな弓じゃ簡単には使えないでしょうに、それでも使われるって事は何か良い部分があるんでしょう?」
「良い部分っていうか、単純に威力が高いのと遠くに飛ばせるからだね。戦争なんて出来得る限り近づかず、遠間から敵を射殺す方が良いんだよ。味方の損害を少なくし、敵の損害を増やすのが基本だから」
「まあ、それはそうでしょうね。……うん? となると銃って、もしかして」
「そう。遠間から射殺す武器としては基本に則った武器だと言えるね。だからこそ弓が銃に変わっていったんだよ。その手前にクロスボウもあったけど、何故か戦争で禁止されたりっていう意味不明な事もあったみたい」
「クロスボウ?」
「クロスボウっていうのは簡易的な弓かな? 弦を引っ張った状態で固定し、そこに専用の矢をセット。そして敵が居たら撃つって感じの武器。弓矢の発展系って言えばいいのかな? でも古くからあるんだよね」
「ふーん……」
私とミクは暢気に話をしているけど、どうも辺境伯とその周囲は作戦会議中みたい。私はミクが渡してきた弓をアイテムバッグに仕舞い、適当に座って待つ事にした。
セリオも既に装具は外されてるから走り回ってるし、レティーは馬車の屋根の上に居て緩く警戒してくれている。ミクはアイテムポーチに和弓を仕舞い、適当に座ったら水の入った樽を出した。
あの樽の中の水も、毎回ミクが【聖潔】と【聖浄】で綺麗にしているからか、不思議に美味しい感じがするのよね。気のせいじゃないと思うんだけど、ミクは「水は水だよ」って言ってたしなぁ。なら味なんて無いのかな?。
それはともかく、少し水でも飲んでゆっくりしましょうか。私達には関わりないし、不死玉を出せって言われたら出すだけだしね。それ以上はする事でもないうえ契約にも無いもの、私達に色々と言われても困るわ。
ミクもそのつもりみたいだし、ゆっくりしていようっと。どうせ攻めるまで時間も掛かるだろうし不死玉を出すのもそれからよ。私達が動くのは、もっと後になってからね。




