0682・横流しの犯人は?
Side:ミク
さて、今日はここで野営をするんだけど、やるべき事はしっかりとやっておかないとね。ファーダは草原コボルトの方に飛ばすけど、私はこちらの軍を見張るかな。何たって鳴り筒こと銃を横流しした奴が居るからね。
ファーダがオーレクトの影の者を捕まえた際に、悪人だった事もあって記憶は覗いてるんだよ。その結果、誰が横流ししてるかも判明してる。そもそも影の者達はその男と直接取引はしていないけど、薬を用立てた以上は調べてる。
肝心の辺境伯が、何故その男を連れて来たのか分からないんだよね。影の者には【善なる呪い】を掛けてあるんだから、横流しの犯人も特定できている筈。にも関わらず、その犯人が野放しなのはどういう事か調べておかないといけない。
いや、それもファーダに調べさせようかな? 私自身が動くとおかしな事になりかねないし、裏で動かした方が安全だし、言い訳もできる。
「そうした方が良いと私は思うよ。ファーダに負担が掛かるけど、ミクが疑われるよりは良いんじゃない? ついでに怪物の姿は見せない方が良いでしょ。見せても碌な事にならないし」
「まあ、少なくとも利用できるものじゃない事は分かるだろうけどね。あまり噂が広がると最初から警戒されるから、ある程度掃除してからバレる方がマシかな? 本来喰う筈の連中に逃げられる可能性もあるからさ」
「それもあるけど、バレてたら余計な事に巻き込まれるかもしれないじゃない。あっちこっちの悪人が隠れる恐れが高いし、証拠も隠滅される可能性が高いでしょ。そういうのが必要になった場合に困るわよ?」
「確かに困りそうだね。証拠が必要な場合が多くなさそうだけど、無いと困る事はありそう。とはいえ元々バレたい訳じゃないから秘密裏に動いてるんだけどね。バレたらバレた時だとは思ってるけど」
「それはね。不運とかあるから仕方ないわよ。それより本当に任せていいの? 一応私も夜警の為に起きてた方が良いと思うんだけど」
「必要ないって。むしろ無防備に見せておいた方が、バカが引っかかって良いと思う。どうせ私はずっと起きてるんだし、言い訳用にレティーが居るしね。スライムって完全に寝る訳じゃないから」
「ああ。そういえばレティーに起こしてもらったと言えばバレないのね。それにスキルが無くても気配や魔力は分かるんだし、警戒していたとしても不思議じゃない」
「そうそう。という事でゆっくり寝ていいよ。流石にお酒は出せないけど」
「私もこの状況でお酒が欲しいとは言わないわよ。むしろ周りからどんな目で見られるか分からないんだから、絶対に飲まないって」
そう言うロフェルに狐の毛皮を渡し、こちらにも狐の毛皮を敷いてセリオとレティーを寝かせる。私も寝転がりつつ素早くファーダを出すと、後は周囲を監視しつつ朝を待つのだった。
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Side:ファーダ
まさか辺境伯の所の横流し野郎が同行してるなんてな。いったい何があったらそうなるんだか? とりあえず調べてみて、気付かれていないなら【善なる呪い】でも掛けておこう。それで向こうも気付くだろう。
草原コボルトどもの所に行く前に、辺境伯の所に寄って………起きてるな。それも横流し野郎と一緒というか2人か。都合が良いのか悪いのか。
「すまなんだな、こんな所まで連れてくる事になって。そなたには汚れ役を買って出てもらったというのに……」
「構いませぬ。アレの御蔭で妹の薬も手に入りましたので。ただ、向こうの間者が呪いを掛けられて放置されているのは予想外でございました。まさかの動きでございました故」
「アレは私も驚いた。まさかこちらの手の者が動くより早いとは思わなんだからな。予想以上に様々な事をしているらしい。今も見張らせているが、余計な動きをされても読みが外れるだけで困るからな」
「悪人に対して動かれているようですので、戦争には関わらないのではないかと思われます。報告書によると、怒り狂った場合は容赦なく殲滅されるようですが……」
「そうだな。アルダギオン子爵の領地の周囲、その全ての貴族が攻めて来た筈が蹂躙されているとの報告もあった。問題は攻めて行った軍の死体が全く残っていなかった事だ。死体を焼却する余裕まであった事になる」
「それだけではありません、武具も消え去っています。そして比較的近くの町や村で良質の鉄を売る男が居たという話も……。それが影の仲間という事であれば、裏で動いているのは1人ではありません」
「うむ。その辺りは明るみに出さぬ方が良かろう。向こうは王でさえ平然と脅す相手だ、余計な事をして心象を悪くせん方がいい。強き力は自分に返ってくる事を考えねばならんからな」
「はい。強すぎる力というのは考えものです」
「うむ。ところで妹の方は大丈夫か? ようやく体が治ったのだから、安静にしておるといいのだが……。妻が余計な事を言い出しておらねばと、どうしても心配になるわ」
「奥方様であれば、そこまで御無体な事はされぬと思いますが?」
「いや、無理矢理とかは無いのだがなー……弱っている以上はゆっくりと体を動かさねばならん。なのにお茶とかしておらんかと心配してな。いきなり日の光の下も大変であろう?」
「奥方様はお茶会が好きですから、確かに無いとは言えませんね」
「うむ、そうなのだ……。ま、そんな心配をしていても始まらん。明日も移動だからな、早く寝た方がいいか。そなたも早く寝て体力を回復しておくようにな」
「はっ」
そう言ったのを最後に横流し野郎は辺境伯のテントを出て行った。それにしてもワザとだったのかよ。辺境伯も強かだな。手の者に横流しをさせて、それでオーレクトの間者を摘発しようとするとは……。
腐っても辺境伯って訳だし、その程度も出来なきゃ話にならないんだろう。なんたって辺境を守るってのは、そう簡単な事じゃないからな。他国との国境である以上は、かなり難しい判断を迫られる場所でもある。
国の利益を考えつつ自分の利益も考え、更に隣接する他国の事も考えなきゃいけない。簡単に暴発するようなヤツを据える事は出来ないし、簡単に裏切るようなヤツも据えられない場所だ。
だからこそ辺境伯は伯爵の上で侯爵の下なんだよ。少なくとも伯爵以上は確定の一族だからな、それぐらい国にとっては重要な家臣であり爵位の者だ。そして有能な者でないと任せられない。
ま、それはいいか。横流し野郎が横流しをしていなかったのなら問題ない。じゃあ、そろそろ草原コボルトの所に行くかね。
鳥になった俺は空を飛びながら西へと移動を開始。やはり障害物なんぞ無い空は気楽に進める。飛んでいれば済むんだし、夜ならおかしなのが飛んでいるという事も多くない。昼間だと小さい鳥だとして襲ってくるのも居るんだよ。
まあ、一瞬で喰って殺すから見つかりはしないけどな。………それにしても生命反応が無いな。そろそろ、っと居た。確かに700ぐらいは居るな。あの中に下りるか。
草原コボルトどもの陣に下りた俺は、ムカデになって周囲を探る。殆どのヤツが寝ているので碌な情報は取れなさそうだ。見張りは居るが、そいつらを殺すと流石にバレるからなぁ。
仕方ない、輜重の馬車に隠れてこいつらと一緒に移動するか。その間に情報はある程度とれるだろう。そうと決まれば、まずは夜中の内に探れるものは色々と探るか。
弓の大きさとか矢の太さ。更には一般的な装備とか、食料や備品などもそうだ。何を持ってきているかで、ある程度は判断できるだろう。




