0680・再びの輜重
Side:ミク
宿に戻って食事とお酒の飲みなおしをしている、特にロフェルが。
私は酒を飲む意味も無いし食べる意味もないので食べないけど、セリオとロフェルが食事を目の前でしてる。お酒を飲むのはロフェルだけなんだけど、早速のように酔ってきてるね。
酒場での食事はレティーが最後に全部吸収したから無駄にはなってないけど、全部は食べられなかったので少々お腹が空いたんだろう。
「ミク。ちょっと聞きたいんだけど、分体2には名前を付けないの? 分体2って呼ぶのもアレじゃない?」
『確かにそうだね。お名前ないと不便だし、ちゃんと付けた方が良いと思うよ?』
「………どうなのだろうな? そもそもどちらも私であり本体なのだ。何故なら、どちらを動かしているのも私だから当然なのだが。もちろん私の中でそれぞれの私が居て動かしている訳だから、個性としては確かに2つ存在するのは間違い無い……。いや、本体である私を含めれば3つか」
「ごめん。難しい事はよく分からないけど、単に名前があった方が良いんじゃないかなーと思ったのよ。何故ずっと分体2なんていう呼び方をしてるんだろうなって、ちょっと疑問に思ったから」
「まあ、自分で名付けるというのもアレだし、そもそもミクという名前でさえ神どもが適当に付けた名前だ。ミート・クリーチャー、つまり肉の怪物。その頭文字をとってミクのなのだからな」
「………神様って適当なの? それともミクを作り出した神様が適当なのかしら? でも名前ねえ……2だからニという言葉で始める?」
『ニナ、ニゼ、ニム、ニコラ、ニヴァス、ニフェリ、ニジェド、フィリオ、ファーダ、フェン……』
「色々言ってますが、音の響き的にはニゼかフィリオが良いと思います。というか何故フから始まっているのですか?」
『いやニだけじゃなくてフタとか言うから、何となくフから初めてみたんだけど』
「私の感覚だと、ニヴァスかファーダかな? でもフェンもなかなか良いかも。………いや、やっぱりファーダかなー」
「じゃあ、それで。私自身としてはどっちでもいいというか、そもそも両方同じであり似たようなものだからねえ」
その後は適当な雑談に切り替わり、ロフェルが寝たのをキッカケにしてセリオとレティーもベッドに寝た。私も寝転がって、明日の朝まで暇潰しだ。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
次の日の朝。セリオが起きた段階でロフェルを起こし、さっさと【浄滅】を使って綺麗にしたミクは、食堂へと移動して小銅貨20枚を支払う。素早く朝食を食べたら辺境伯家に移動し、昨日の事を伝えて入る。
朝から来いと言われていた以上、朝から来ただけなので問題は無い。案内するメイドの後ろについていくと、応接室に案内された。既に辺境伯は起きていて準備もバッチリらしい。
「おはよう。朝早くと言っていたとはいえ、思っていた以上に早かったな」
「私達はいつもの時間に朝食を食べて、その後ここに来たんだけど? そこまで早いとは思ってないよ」
「そうか……。まあ遅い訳ではないし、私も朝食は済んでいるのでいいのだがな。それはともかく、現在は不死玉を積み込み中だ。流石にその現場を不特定多数に見せる訳にはいかん。どのみち戦場に着いたら兵達には見せるしかないが」
「ところで銃はどれだけ持っていくの? 数が少ないなら大した結果にはならないよ。基本的に銃を戦争に使いたい場合は集団運用する事が基本になると思う。まだ銃の威力も高くないだろうし、それなら弾幕でどうにかしないとね」
「鳴り筒の数は増やしていたのだがな、全部で200だ。もしかして少ないのか?」
「700相手なら200でも良いかもしれないけど、明らかに足りないとは思うね。言葉は悪いけど、銃の命中力は高くない。数を沢山撃って、それで中てていくものだと考えれば分かりやすいと思う。本来なら練習しなきゃならないんだよ」
「練習か……。そう簡単に出来るものではないし、そんな事をしていれば間者に見つかってしまうからな」
「銃は弓に比べれば簡単に扱えるのが特徴の1つだけど、それでも真っ直ぐ飛ばすには練習が必要だし、早く撃ったり次の弾込めを急いだりするのにも練習は必要だよ。何事も練習せずに上手くいくなんてあり得ないからね」
「それは確かにそうだな。とはいえ今さらどうにも出来ん以上は、今回はこれでどうにかするしかない」
「逆に言えば扱い慣れている者も居ないんだし、今回の結果が悪くても役に立たないとは言えないね。場合によっては今回の結果で王城が五月蝿くなる可能性はあるから、備えはしておいた方がいいよ」
「………そうか。しまったな。そこまで考えておらなんだ。秘匿する事ばかり考えて、運用を二の次にしてしまっていたな。使える武器なのは既に分かっていたが、場合によっては補助を受けられないかもしれん」
「草原コボルトに対抗する為には、こちらも強力な遠距離武器を持つしかない。普通に戦うなら魔法でもいいんでしょうけど、草原コボルトの弓は厄介だと聞くし、その距離では魔法は簡単に避けられる」
「そうなのだ。だからこそ今までは一気に攻めるか守り続けるしかなかった。それなのに中央の連中は歩兵戦と同じように考えておる。向こうは足が速く強力な弓矢を使うのだと言っても理解せん。己の目で見た事がないからであろうがな」
握った拳が震えているので相当中央の者達に怒りを持っているらしい。ミク達にはどうでもいい事なのでスルーするが、ちょうど執事が入ってきて積み込みが終わった事を告げる。
「よし、既に騎士達や兵士達の準備も出来ているだろう。町の外に集合せよと言っておいたし、敵は待ってはくれん。準備が出来たなら急いで出発するぞ」
「「「「「「「「「「ハッ!」」」」」」」」」」
慌ただしく出て行く辺境伯らを見送りつつ、ミク達は執事に案内されて大きな馬車の所までいく。確かにそれは大きく積載量は多いだろうが、馬3頭ぐらいで牽く予定だったのかと言いたくなる大きさだった。
セリオは大型馬車に合うサイズまで大きくなり、装具を着けたら出発する。今回の馬車でもセリオにしたら問題ない重さであり、ゴロゴロと楽に牽いていく。周りの者達の方が唖然としているくらいであり、ミクやロフェルは平然としている。
実際にはセリオが大きくなった驚きも含まれているのだが、それは今さらなのでミク達にとってはどうでもよかった。いちいち騒がれるのも鬱陶しいのでさっさと出発し、町中を進んで外に出る。
既に集められた騎士や兵士の前で辺境伯が演説しており、それが終わるまでは待つ必要がある。とはいえ長々と話している意味など無いので早く終わり、騎士も兵士も歩きだした。
ミク達が居る位置は最後尾なので、前のワルドー伯爵軍との戦いと同じでポジションであり楽だと感じていた。特に大型の馬車なので、中途半端な場所に置かれると避けようが無いのだ。
もちろん火気厳禁なので可能な限り防ぐのだが、オーレクト帝国が弱点を知っていれば厄介な事になりかねない。それも含めてある程度は自由に動き回れる場所で良かったと言える。
後ろをついていきながらミクは警戒しているが、ついでにロフェルに気配の探り方も教えていく。夜中の休息時に分体2ことファーダを出して偵察をさせるつもりだ。
果たして草原コボルトの方はどうなっているのか。場合によっては殲滅してもいいし、敢えて全てを辺境伯軍に任せてもいい。ミクにとってはどちらでもいいのだが、その判断もまずは情報を得てからである。
そういう意味では楽しくなってきたミクであった。




