0677・ドラゴンの話
「そもそも私達がドラゴンの縄張りを荒らした訳でも侵入した訳でもないんだし、そこは全く問題にならないでしょ。それに向こうから勝手に来たんだし、あそこはそもそも<澱みの山>だしね。向こうから来るしかない場所だよ」
「まあ、普通はドラゴンさえ近付かない場所よね。瘴気が大量にあって澱んでいるから<澱みの山>な訳で、お金を稼ぐ狩人でもなければ普通は行かないわよ。ドラゴンでさえ近付かないのが普通ね」
「そりゃそうだが、まさかドラゴンに会ってたとは思わなかったぜ。しかも女の取り合いで負けたからゾンビになるって理解不能だな。訳が分からん」
「レッドドラゴンもそう言ってたよ。どうも女性を巡る争いで負けて、更に襲ったけど返り討ち。それでキレて【死霊術】を使ったみたいだね。ゾンビになってでも相手を殺したかったんだろうけど、ゾンビになったら理性なんて残る筈が無いのにさ」
「ああ。それで理性が無くなって、瘴気を浴びにここまで飛んできたって訳か。随分と傍迷惑なヤツだな。ドラゴンにも色々なヤツが居るんだろうが、最強種のドラゴンがアンデッドになるとか勘弁してほしいぜ」
「それはそうだけど、文句を言っても始まらないのよね。ドラゴンが何をするかなんてドラゴンの勝手だし、こっちが何かを言っても意味無いよ。……後は辺境伯家に断られたくらいかな?」
「何だそりゃ? 断られたってどういう事だ?」
「ここに辺境伯が来た時、不死玉を買い取るって話をしてたの覚えてる? 今日売りに行ったらさ、ロフェルの売り上げが小金貨1枚を超えたのよ。流石にこれを続けられるとマズいって事でね、辺境伯との相談が終わるまで買い取り拒否だってさ」
「そりゃあ………流石に小金貨が出て行くのはマズいんだろうなぁ。っつーかどれぐらい売ったら小金貨とか行くんだよ」
「小さいのが100個以上、中が50個以上、大が40個以上? それで小金貨を超えたね」
「どんだけ獲ってきてんだよ。っていうかそれが2日間の成果なら、そりゃヤベえってなるわ。幾らなんでも他の連中と狩る量が違いすぎるだろ。普通は日に10体ぐらいがいいトコだぞ。良くてもな」
「何でそんなに少ないの? アンデッドなんて対して強くもないでしょうに。そのうえ大半の狩人は山を登らないみたいだしさ。麓で弱いアンデッドを狩ってるのはよく見るけど、登ってるヤツとなると極端に減るのよね」
「ここだけの話、ヤバい連中が居るからって言われてるぞ。何でも狩人の中には<澱みの山>で襲ってくる連中が居るんだと。ワシも誰かまでは知らんが、そいつらを恐れて麓で狩りをするヤツが多いんだそうだ」
「ああ、成る程。あいつらの所為か……。通りで山を登るヤツが少ない筈だよ。ドラゴンの居た所なんて周りに誰も居なかったしね。あのバカどもの所為なら分からなくもない」
「知ってるのか? っていうかその感じなら襲われたんだな?」
「その通り。ま、こっちの命を狙ってきた以上、殺される覚悟があると見做す。当たり前の事だね」
「【瘴気の苗床】、あいつらの、自業、自得」
「しょうきのなえどこ?」
「そういう呪いだよ。瘴気を吸い込み続けて浄化し続ける、そういう道具に成り下がる呪い。あいつら自分達が殺した狩人のレイス? に襲われてたくらいだからね。挙句の果てにはレイスに襲われる事すら慣れてるみたいだったし」
話を聞いた瞬間、顔を顰めるマスター。自分達が殺した者が悪霊になり、それに襲われる事すら慣れるというのはメチャクチャだとしか思えなかったのだろう。
「そこまでのクズが居たのかよ。よくもまあ、そんな奴等が平然と今まで生きてたな。何で気付かなかったんだ?」
「確実に殺してたんだろうね、目撃者も含めて。でも私達にとっては相手にならない程度のザコだし、呪いを刻んで埋めてやったから大丈夫だよ。今も耐え難い激痛を味わってるんじゃないかな。どうせ死なないし」
「は? 死なない?」
「そうだよ。両腕両足を切り落として、両目を抉って、耳と鼻を切り落とす。その状態で呪いを刻んでから埋めたわけ。【瘴気の苗床】という呪いは、さっきも言った通りに瘴気を吸い込み続ける呪いなんだよ」
「お、おう……」
「そして瘴気は呪いを刻まれた者を無理矢理に生かし続ける。何故なら【瘴気の苗床】は瘴気をその身に受けて浄化するからだ。その際に耐え難い激痛を受けるんだけどね。そうやって浄化してくれるから、瘴気が呪いの保持者を死なせないんだよ」
「瘴気が死なせない?」
「そう。アンデッドに近い形になるの。ただしアンデッドじゃなく生きてるけどね。そして瘴気が死なせない為に、飢える事無く、病気になる事無く、寿命になっても死なない。そういう状態に無理矢理させられる」
「………それって死ぬ事も無く苦しみ続けるって事か?」
「そう。それが【瘴気の苗床】という呪い。奴等には相応しい末路でしょ? ……ちなみに誰かに言っても信用されないから、適当に聞き流した方がいいよ。他に知ってるのは王城の上の連中ばっかりだし、そいつら自分が呪われたくないから絶対に口にしないし」
「だろうな。今ワシだって口にしたくねえよ、それが事実ならな」
「辺境伯に聞いてみればいいよ、さっきも言った通り王城でもやったからね。第3王子に」
「………」
マスターは何とも言えない顔をした後、溜息を吐き、そして聞かなかった事にしたようだ。気持ちは分かるし処世術としても正しい。
食事を済ませたミクは、ロフェルの腰に右腕を回して支えて戻る。昨日のような後ろをつけてくるような者は見当たらず、ミクは宿まで戻ってロフェルをベッドに寝かせ、狐の毛皮を敷いてセリオとレティーを寝かせていく。
最後に寝転がったら、そのまま瞑想を始めるのだった。
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あれから10日。特に何の問題もない日々を送り、ロフェルもかなりの精度でアンデッドを識別できるようになった。そんな矢先、コルクサ国がまたもや攻め込んで来たという一報が舞い込んでくる。
ちょうどギルドに来ていた夕方近くの事であり、それを聞きながらも受付嬢に支払いをするように話すミク。こっちが先だと言わんばかりである。まあ、正論ではあるのだが。
「申し訳ありません、すぐに!」
そう言って受付嬢は精算をしてくれたが、コルクサが攻めて来た事に関して気が向いているのか、思っている以上に適当だった。それでも支払われるならば問題無いとばかりに受け取り、さっさとギルドを出る2人。
酒場に移動して大銅貨5枚を支払い、酒と食事を注文してから話を始める。
「さて、私達はどうするべきなのかしらね? 流石にすぐには決められないわ」
「おや? ロフェルなら「すぐに参加するべき」って言い出すと思ってたんだけど?」
「流石に私でも戦争に対しては二の足を踏むわよ。それにここはゴブルン王国だけど、別に故郷って訳でもないからね。勝手も分からないし、難しいところなのよ。元来、戦争は軍のやるべき事だもの」
「それが正しい。普通は平民が考える事じゃないからね、領主なり国軍が考える事だ。私達はランク6だから強制参加はさせられないし、参加するかどうかはゆっくり考えればいいよ。正直に言うと、どっちでもいいし」
「私もどっちでもいいかな。ここには銃もあるし、私達が出なくても普通に勝つでしょ。なら、無理に出る必要もないわ。しゃしゃり出た事で嫌な目で見られてもね」
どうやらワルドー伯爵領で、かつてそういう事があったのだろう。嫌そうな顔でロフェルは語った。




