0676・不死玉の売却
元々進んでいた道に戻ったミク達は、ドラゴンの事は忘れて再びロフェルの練習を始める。相変わらずだが、ここまで来ると分かり難いらしく苦労している。瘴気の濃度が濃くなってきており、アンデッドと判別がつき難いのは致し方がない。
それでも詳細に感知出来るようになれば違いは分かるのだが、おそらくまだそこまでは感知できていないのだろう。その横でロフェルが気付いていないアンデッドを浄化しつつ、不死玉や魔石は触手で回収するミク。
「やっぱり半々ぐらいだね。おそらく詳細に判別していないから分からないんだろうけど、そこまで詳細に感知できるようになるのも練習を経てだから仕方ない。それより今日はここまでにして、そろそろ帰ろうか」
「えっ? もうそんな時間なの? さっきドラゴンに会った時は大丈夫だったのに、集中してるとあっと言う間ねえ。ここからだと帰るのに時間が掛かるから、走って帰りましょうか」
2人とも【身体強化】を使って走り、一気に山を下っていく。山をある程度登ると狩人は殆ど居らず、更にミク達が居た所は周囲に狩人など全く居なかった。それほど奥に行っていたのだが、ロフェルはあまり理解していない。
もちろん全く理解していない訳ではないのだが、瘴気の判別としては既にかなりのレベルであると言える。とはいえ、そこで半々の確率でしか当たらないというのは、まだまだとしか言えない。
自分の命が懸かっているだけに、そういう部分で妥協すると危険なのだ。それはロフェルも理解しているだけに、本人もまだ足りないなと思っていた。向上心を持ち続けるのは良い事なので、ミクも余計な事は言わない。
ウェルスの町に戻ってきた2人は門番に登録証を見せ、狩人ギルドに行くと受付に魔石を渡して精算する。それが終わると辺境伯の屋敷に行き、門番に依頼の事を話す。半信半疑ではあるものの中へと聞きに行った門番は慌てて戻ってくる。
その後ろに執事のような者がおり、ついてくるように言われたミクとロフェルは後ろを歩く。そのまま案内された所は応接室のような場所で、家令のような者が待っていた。
ソファーに座るように促されたので座り、早速ミクとロフェルは不死玉を出していく。昨日と今日の分だが、予想以上に多かったのか驚いているようだ。それからメイド達を呼んで人海戦術で数え始めた。
「全部で52個と28個と13個、119個と57個と41個です。小さい物は小銅貨30枚で、中の物は小銅貨60枚。そして大きい物は小銅貨120枚での買取となります」
「それでいいよ」
「では、小銅貨4800枚。大銀貨1枚と中銀貨4枚に小銀貨3枚です。こちらのお嬢さんは小銅貨11910枚。小金貨1枚に中銀貨3枚、小銀貨4枚に中銅貨が2枚です」
それなりの金額になったものの、この価格での買い取りが果たしてこの後も続くのかは疑問である。予想以上の金額の高さをしており、ロフェルもビックリしているくらいだ。そもそもたった2日間で小金貨が稼げること自体が驚きである。
「正直に申し上げまして予想外でございます。まさかここまでの短期間でこれほどの不死玉を集められるとは……。御当主様に相談致さねばなりませんが、この金額での買い取りを続けるのは難しいでしょう」
「あ、やっぱり? 流石に2日程度で稼げる金額じゃないものねえ。やった私もビックリだけど、本当にその金額でいいのか疑問に思ったくらいだし。流石にこれが続くと大変というのは平民でも分かるわ」
「<澱みの山>のアンデッドを駆逐するのが早いか、それとも辺境伯家の資金が尽きるのが早いかって感じかな? まあ、あそこのアンデッドは追加されていくから、最後には辺境伯家の負けで終わるだろうけど」
「という事は、明日の分は狩人ギルドに卸した方が良いかしら? 明日も<澱みの山>に行くしね」
「そう、ですな。御当主様との話が終わるまでは、買い取りについては一旦停止という事でお願いします」
それを聞いたミクとロフェルは了承し、さっさと辺境伯家を後にした。持って来いと行っていた癖にあっさりと日和った辺境伯家にガッカリしつつ、ミク達は酒場へと移動して大銅貨5枚を支払い酒と食事を注文。
酒はすぐに来たので飲みつつ、適当な雑談を始めた。
「そういえば、あの時のドラゴンって町から見えたのかな? あれだけの巨体だから見えたような、それでいて飛んでいった方角からすれば見えないような気もするし……」
「さてね。騒ぎになってないところを見るに、見えてなかったんじゃない? 本当にドラゴンが見えてたなら、もっと騒ぎになってないとおかしいしさ。……あっ、でも騒ぎになった後かもしれないね」
「十分に騒いだ後だから静かって事ね。確かにそれはあるかもしれないわ。マスターが居ないから聞けないし、雰囲気的には騒いだ後かしら?」
店員が料理を持って来てくれたので早速食べ始めるミク達。ある程度食べた辺りでマスターが姿を現したので、ミクは話し掛けてみた。
「今日は店に来てから今まで出てこなかったけど、何かあったの?」
「ん? ああ………まあ、いいか。前に歌が上手くないっつーか、疲れてた歌い手が居たろ? ま、あいつを遂にクビにする事になったってトコだ。散々言ってやったんだがな、それでも駄目なんで辞めさせるしかなかった」
「あー………辞めさせる方も苦労するのよね。元々悪くなかっただけに、何でそうなるっていう気持ちが強くて双方が嫌な思いをするのよ。私はお金が貯まったらスッパリと辞めたから、双方円満な形で辞められたけどね」
「ワシとしてもその方が良いんだがなぁ……。どうしても、ああいうのが出てくるのは避けられねえ。なるべくそうなる前に言うんだが、男女の仲は言ったってどうにかなるもんじゃねえからなあ」
「それはねえ。私みたいに達観してるのならまだしも、普通だと難しいんじゃない? 変なのにコロッと行っちゃうのは避けられないだろうし」
「中にはちゃんとしてくれるのが居るからよ、尚の事ああいう奴等には何でだって思っちまうのさ。……ま、辛気臭い顔をこれ以上する訳にはいかねえし、これで終わりだ」
「なら聞きたい事があるんだけど、いい?」
「ん? 何かあったのか?」
「今日、<澱みの山>の方でドラゴンを見たって話は聞いた?」
「おお、えらい騒ぎだったらしいな。ワシはいつも通り井戸の側で皮むきをしとったんで見てねえんだが、えらい騒ぎになっとったと聞いた。それがどうかしたか?」
「あー、やっぱり見えてたんだね。じゃあ、レッドドラゴンとドラゴンゾンビが戦ってたっていう噂はある?」
「は? 何だそれ? ……いや、ワシはそんな話は聞いてない。っていうか、ドラゴンゾンビって何だよ」
「ドラゴンのゾンビだよ。どうも女性を巡って負けたドラゴンが更に返り討ちにされて、激怒したのか自分を【死霊術】でゾンビに変えたみたい。そこまでして女性を奪い合って負けた事が許せなかったんだろうね」
「で、ゾンビになったら<澱みの山>に飛んで来て瘴気を浴び始めたらしいわ。レッドドラゴンでさえ負けるかもしれないってほどにパワーアップしたって言ってたから」
「………その言い方、お前さんらドラゴンに会ったのか」
マスターは唖然とした顔でミクとロフェルを見ているが、2人としては「そんなに驚く事か?」としか思っていない。こっちから行ったのではなく向こうから来たのだから、問題になるような行動などしていないのだ。
別にドラゴンの縄張りを侵した訳でも無いのだし、驚くような事ではない。




