0064・隠し部屋と米
洞窟の中に入ったミクはそれぞれの小部屋などを確認し、中にある武器を回収していく。他の物も確認していくが、汚れた布や食器があるだけで使えそうな物は無い。
ウロウロしながら探していき、一番奥の部屋に着く。そこが盗賊のボスの部屋だったんだろう。少々のまともな食べ物があったが、大した量でもなかった。
『碌な物がない部屋だけど、どうも騎士達は気付かなかったようだね。分かりやすく風が流れてるのに、その風も感じられないとは……獣人の筈なんだけどね』
『獣人といっても獣ほど敏感ではないのでは? 所詮は獣”人”ですし。それよりも隠し部屋には何があるのでしょうね? ちょとワクワクします』
最近は感情が分かりやすくなってきたレティーを宥めつつ、ミクは壁っぽく塞がれている部分に前蹴りを放つ。すると、「ドゴッ」という音と共に壁が崩れ、向こうに進めるようになった。
1メートル程度の高さしかなかったので腹這いになって進み、向こう側で立ち上がる。隠し部屋の壁には武器が立て掛けてあり、真ん中には木箱が複数置かれていた。それと金銭の入った袋だ。
木箱を開けてみると、中には小麦や干し肉に干し魚、更にはチーズなどが入っていた。別の木箱には大麦や米が入っている。こちらはぞんざいに置かれているので、おそらく雑穀扱いなのだろう。
武器はジュライフ銅の物が数本あり、それも纏めてミクは全て回収した。ジュライフ銅は銅ではあるものの、通常の鉄よりも強靭な金属だ。とはいえミクに必要かと言われると、微妙なところでしかない。
ミクが隠し部屋の外に出ると騎士が数人居たので隠し部屋の説明をし、外に出てヴェスに隠し部屋の事を伝える。するとヴェスは騎士達をジロッと睨んだが、それ以上をする事はなかった。
「それで、盗賊のボスの隠し部屋には何があったんだい?」
「ジュライフ銅の斧と剣が2本。鉄の剣や槍に斧が数本。木箱の中に小麦と干し肉に干し魚、別の木箱には大麦と米。そして金銭の入った袋が3つ。……これで全部だよ」
「隠し部屋を作って保管する筈さ。思っている以上に多いね。騎士達の武器は鉄の物で良いとしてだ、ジュライフ銅の武器はどうするんだい?」
「私は別に要らないかな? そもそも私の大型ナイフとククリナイフはドリュー鉄だし、他のは普通の鉄で良いしね。むしろ大麦と米が欲しいかな? お金も特に欲しい訳じゃないし」
「大麦は分かるけど、米……? ってこれは家畜用の雑穀じゃないか。こんなのが欲しいのかい?」
「大麦も米も食べられる雑穀であって、家畜の餌にされてるだけなんだけどね? まあ、そこはいいか。それより今から戻って移動して、町に着けるの?」
「あー……多分だけど、無理なんじゃないかい?」
「無理ですね。流石に盗賊との戦いに時間が掛かりましたので、町に着くのは無理です」
「だったら私が料理するよ。多少は出来るから。それより馬車に戻ろう。少しでも進んでおかないと損だからさ」
そうミクに促され、騎士達もヴェスも馬車へと戻っていく。ミクは一瞬で木箱を本体空間へと送り、本体空間では本体が処理を行っていく。鉄とトレントの木材で羽釜を作り出し、骨を使って即席の竈を作る。
大麦のふすまや殻を溶かして中の実だけにしたら、それをトレントの木材で作った蒸篭で蒸していく。その後に押し潰して乾燥させれば押し麦の完成である。【熱風】などの魔法ゴリ押しで作ったが、誰も見ていないので問題無いだろう。
米も殻や糠は溶かしてしまい、中の米だけにしておく。本体空間では雑菌その他は存在しない。理由は本体が喰らうからだ。なので通常空間よりは物が腐りにくい為、長く保つ。
米と押し麦の用意が出来たら木箱を作って詰め、本体から転送してアイテムバッグに詰め込む。既に馬車に乗っている為、ゆっくり収納しているとヴェスにジト目で見られた。
「いったい何をしてるんだい? 右手が膨らんで木箱が出てきたんだけど?」
「私は神に作られたって言ったでしょ。こういう存在なの。あくまでも人間種の女性に”見える”というだけ。それよりも押し麦と精米にしておいたから、後で炊いて食べるよ。水も用意したし」
「……まあ、よく分からないけど分かったよ。少なくとも何か言っても無駄だって事はね」
それ以降は会話もなく、ミク達はダラダラと進むに任せ停車。どうやら夕方が近くなってきたらしく、見晴らしの良い場所に停まったらしい。
外に出て伸びをしたヴェスとは対照的に、ミクは骨で出来た竈などを取り出して料理を作っていく。といっても押し麦と米を半々にして羽釜に入れ、水を入れて洗った後で炊いていくだけだが。
「それが米ってヤツの食べ方かい? 茹でで食べる物だとは知らなかったけど、そもそも家畜の餌じゃなかった事が驚きだよ。南部の連中の中でも好むヤツは食ってるとか聞くね」
「私は南部の出身ですが、殻を外した後で粉にし、水と塩で練ってから小さくして茹でます。こうやって中の粒ごと茹でるというのは知りません」
「そもそもなんだけど、これは茹でるじゃなくて炊いてるんだよ。つまり”炊く”。蓋で閉じて茹で続けると言えば良いのかな? 茹でるとはちょっと違うんだよ」
「ふーん、そうなのかい。それよりもこの白い竈はちょっと面白いね。火は魔法で済むとはいえ、なかなか大変だし。あたしもコレを持ち運んで訓練させるかな? 料理で魔法なんて大変だからさ」
ヴェスがそう言うと、周りの騎士達は一斉に渋い表情をした。料理の火加減を魔法で行うのは難しく、火力の調整は魔力の調整とも言える。多くても少なくても駄目なのだ。それだけ高い技術力が要求される。
面倒だという気持ちは分からなくもないが、調整の技術力は上達するのに必須の技術だ。その事の意味を分かっているのだろうか? そんな事を考えつつもミクは麦飯を炊いていく。
その横で新たに出した竈を使い、鍋に水と塩を入れ、干し肉と干し魚を淹れて煮こむ。他には多少の野菜をヴェスが出してくれたので、そちらも投入。
それらを煮込んでいきつつ、羽釜の方は弱火での炊きが終わったので火を止め、ここからは余熱で蒸していく。ミクが何をやっているのかサッパリ分からない獣王国の面々。
10分の蒸らしが終わったので蓋をとると、なかなかの香りが広がり、トレント材のしゃもじで混ぜるとおこげが出来ていた。
ミクはアイテムバッグからトレント材の茶碗だったり鉄のスプーンなどを取り出し、皆に手渡して麦飯とスープを入れていく。全員に行き渡ったら食事の開始だ。
「これが米ねえ……特に食べる事に問題はないし、不味くもない。という事はだ、家畜の餌だと思われてた事と、食べ方を知らなかったってのが原因だろうね。そもそも炊くっていう料理法を知らなかったんだけどさ」
「これは食べ応えがあっていいですね。実家で食べていたのは丸めてモチモチする物にしただけなので、食べているって感じがしなかったんですよ。これなら噛んで食べられますし、良いですね」
「何か、この米? っていうのと一緒だと、そこまで麦も悪くないな。大麦の粥は実を言うと結構大変だったんだけど、これはそうは思わないし味も悪くないからさ」
「大麦も米も安いですもんね。これなら実家も助かるんですけど、家畜の餌って思われてるんですよ……」
「確かになー。それさえ何とかなれば食べられるんだが……ウチは腐っても男爵家だし」
ミクはそんな会話を聞きながら、「家畜の餌じゃなくなったら値上がりするけど?」と思っていた。




