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0674・影の者




 ミクはロフェルに腕を回し、支えて歩きながら酒場を出る。その後は宿に帰るのだが、後ろから尾行してくる者にはミクも気付いていた。先ほどの酒場での話、その途中からミク達に向けて悪意を放っていた連中である。


 面白いからそのままにしておき、ミクは敢えて意図的に尾行させる。ロフェルが酔っ払っているので、ていの良い目くらましになってくれているのが本当に助かっているようだ。ミクが演技をしても上手くいったかもしれないが、天然の酔っ払いはやはり違う。


 あっちへフラフラ、こっちへフラフラとして定まらない。やはりこの千鳥足は本当に酔っ払っている者しか使えないとミクは思っている。それはともかくとして、後ろからつけてくる者達は宿に入るまで何もしてこなかった。


 おそらくはミク達の泊まっている宿を確認していたのだろう。なかなか尻尾を出さない奴等である。襲ってきていたら問答無用で叩きのめすのだが、向こうが襲ってこなければミクからは手を出し辛い。


 同じ道を帰っているだけだと言われれば逃げられてしまうからである。とはいえ尾行していた連中も気付いてはいまい、既にミクが分体2を透明状態で放っていた事を。そして分体2は尾行者を逆に尾行している。


 宿の部屋に戻ったミクは【浄滅】を使って綺麗にし、ロフェルをベッドに寝かせて狐の毛皮を敷く。セリオとレティーを寝かせたら自分も寝転がり、後の事は分体2に任せて瞑想を始めるのだった。



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 Side:分体2



 尾行をしている奴等が、逆に尾行されているとは思うまい。それはともかく、こいつら妙な感じがするな? 何ていうか、ちゃんと裏稼業をしている感じだ。今まではチンピラ程度の連中しか居なかったんだが、こいつらはしっかりしている。


 それでも甘い奴等でしかないが、間違いなく真面目に訓練を受けてきた奴等だ。怪しまれないように周囲をうかがったり、足音を立てない歩き方が出来ている。それでもガイアのそういう奴等に比べたら相当甘いが。


 っと、普通の一軒家に入っていったな。ここは住宅街だし、ちゃんと拠点の選定は出来る連中のようだ。こういう場所の方が隠れやすいんだが、1つ目の星は文化レベル的にアレだったからなあ。


 この星も似たようなものだと思っていたんだが、どうも違うらしい。もしくはこいつらの裏に居る奴等が違うのかね?。


 隙間から中へ入って調べるが、どうにも家の中が空だな。必要最低限の物しかないし生活臭がしない。どう考えても怪しいんだが、せめて生活しているフリぐらいはしろよ。これだから手抜きをする奴等は……。



 「おい、本国からの指示はどうなってる? 確か鳴り筒は確保したんだったな?」


 「ああ。バカが欲を出そうとしやがったらしく、危うく向こうのヤツが敵に回るところだったらしい。せっかく我等が薬を用立ててやったというのに」


 「そのバカはどうした?」


 「既にスラムで死体になっている。口を封じられるとも知らず、暢気のんきに報酬を吊り上げようとしていたな。頭の悪い者から死ぬという事を知らんらしい。だから早死にするのだ」


 「元々捨て駒だったバカが死のうがどうでもいいが、我等の痕跡は残さぬようにな。それはともかく、あの酒場の奴等はどうする? あそこのマスターは確実に辺境伯の目と耳だぞ。下手に手を出すと勘付かれる」


 「あの背の高いヤツの方が厄介だ。コルクサとゴブルンで争えばいいものを、裏に我がオーレクトが居る事を言い当てていた。もちろん当てずっぽうだろうが、それでも酒場のマスターから辺境伯に伝わり、その考えを持たれるとマズい」


 「だからといって辺境伯が何か出来るとは思えんがな。コルクサに入れている間者も上手く事を運んでいるし、ヤツは何代にも渡って潜り込んでいるから上手くいっている。実際に欲もあるらしいから、本国が手綱を握れているだろう」


 「コルクサが問題ないとなれば、やはりゴブルンだ。こっちは草原コボルトほど阿呆ではないからな、それ故に今もって上手くいっておらん。少し前に上手くクーデターでも起こせぬかと動いたらしいが、全て叩き潰されたらしい」


 「正しくはクーデターの準備だな。まだその段階だったからこそ我等がオーレクトの名は出なかったが、もっと深く入り込んでからだと表に出ていた恐れもあった。相変わらず上手くはいかぬ国だな」


 「仕方あるまい。コルクサが上手く行き過ぎなのだ、アレと同じだと思う方が間違いであろう。我等が食料を援助する代わりに、ゴブルン王国を攻めさせる。そして弱ったゴブルン王国をオーレクトが叩く。昔からこの方針は変わっておらぬ」


 「この国は存外にしぶとい。その所為で歴代の皇子皇女殿下はゴブルンを手に入れるという栄光を諦めるしかなかった。それが成れば、我等が思いのままの皇帝が誕生するというのに……。いつまで日陰者でおらねばならんのか」



 そういってコップの中の物を飲むゴブリン。どうやらゴブリンではあるもののオーレクトのゴブリンであり、この国の者では無いようだ。種族だけでは分からないのは厄介なものだな。とはいえ会話内容で何処の陣営かは分かるが。



 「おい、任務中に酒を飲むな。それは寝る前だ」


 「少しぐらい構うまい。いつ見つかるかと怯えながら任務を熟す大変さは、雲上の方々には分からんのだろうさ。少しぐらい息を抜いても悪い事はあるまい。我等としても、やりたくて影をやっておる訳ではないというのに」


 「分かっておる。だからこそ侯爵閣下が第2皇子を推しているのだ。我等のような影の者がきちんと評価を受ける為にも、第2皇子殿下には生き残って勝ってもらわねばならん」


 「その為には我等がここで手柄を挙げねばならんのだが、それは難しそうであるし……」


 「鳴り筒が手に入っただけで良しとせねばならん。アレも受け渡しの者がまだ来ておらんので如何にもならぬが、隠す事自体はさほど難しくはない。適当に布で包んで床下に置いておけば良かろう。それでまず見つからん」


 「しかしあんな物が新しい武器と言えるのやら? ゴブルン王国が乱心したと言われた方が納得できるがな。それよりもゴブルー鉄の方がよっぽど重要であろう? アルダギオン子爵家と王家しか製法を知らぬが……」


 「アルダギオン子爵家に関しては無理だな。最近クーデターの準備が失敗した件で相当の警戒をしている。町中も厳しく監視しておるようで入り込むのも危険だ。捕まっても我等がオーレクトの者だとは勘付かれまいが、万が一という事もある」


 「そうだな。余計な事をして失敗し素性がバレるなど目も当てられんし、そんな失敗は絶対に出来ん。せめて我等の出自だけでも隠さねば」


 「オーレクトがそれぞれの種族を秘密裏に育てておるなどとバレたら大問題だからな。我等も孤児院出身とはいえ……」


 「それぞれの種族ごとに孤児院があるからな。我等はゴブリン用の孤児院で育ったが他の者達も同じだ。孤児院組が支える皇子殿下に勝ってもらわねば、いつまで経っても道具にしか思われん」


 「元々我等はその為の道具とはいえ、道具で居たい者など誰もらぬ。そろそろこの辺りで存在感を示しておかんと、孤児院の子供達も厳しい目で見られたままだ」


 「ああ。出来ればこれからの子には、もうちょっとマシな生活をしてもらいたいものだな」



 どうやら相当の鬱憤うっぷんを抱えているようだが、多分だが変わらんぞ? そもそも各種族用の孤児院まで作って集めているという事は、そいつらを道具として使う気だという事だし、そういう道具には金を掛けんのが基本だ。


 素波すっぱ乱波らっぱと呼ばれる影の者がゴロツキだったのと同じ事であり、そんな連中に金を掛けて大事に使ったりなどしない。死ねば新しいのを補充するという程度の感覚だろう。


 こいつらの望みは永遠に叶う事はない。


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