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0670・奪われた鳴り筒と辺境伯の依頼




 Side:???



 「まさか都合よく辺境伯サマが居なくなるとはなぁ? 御蔭でテメェもブツを抜き出すのが簡単だったろうぜ」


 「下らん挑発などしている暇があるのか? さっさと要求していた物を渡せ」


 「ほーう、テメェそんな態度をオレ様にとっていいと思ってんのか。ああ?」


 「ならば貴様は任務失敗で切り捨てられるんだな」



 私が〝鳴り筒〟を懐に仕舞って立ち去ろうとすると、下らん挑発をしていた愚か者は急に焦り始めた。



 「ち、ちょっと待てよ。別に挑発してんじゃねぇんだから、さっさとこっちに渡せ」


 「ならばこっちが受け取る物が先だ。貴様の事など一切信用していない、こちらが受け取るべき物をさっさと渡せ。偽物であればこの取り引きは無しだ。辺境伯様が出ている今しかチャンスは無い」


 「………チッ、これで良いんだろうが。さっさと調べろや」



 まったく、さっさと出せばいいものをいちいち勿体つけおって。………間違い無いな、これは本物だ。品質も十分だし、これで妹にも効く。



 「では、お前が取ってこいと任務で言われていた物だ。それを持ってさっさと失せろ。捕まっても知らんぞ?」


 「な? テメェ、裏切りやがったのか!?」


 「お前が失敗したら捕まるというだけだ。私が何もしていなくても、お前がドジを踏んだら終わりなのは当たり前だろうが」


 「だったら捕まった時にはテメェの事を洗い浚いブチ撒けてやるぜ?」


 「心配するな。そんな事をする前に殺す」


 「………」



 散々こちらを睨みつけた後、あの愚か者は去っていった。私も早く家に戻らねばならん。調合してすぐに妹に薬を飲ませねば。


 これでようやく妹の病気が完治する。私にとって妹以外はどうでもいい。



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 「貴様! 辺境伯様に対して何という口の利き方をしている! ここで今すぐ剣を抜いて不敬罪で切り捨ててやってもいいのだぞ!!」


 「まあ、待て。まだ話してもいないのだ。ここで切り捨てられても困る」


 「申し訳ございません。しかし許せる事と許せぬ事がございます」



 ミクは茶番だとして見向きもしないが、それを見ていた酒場のマスターは何とも言えない顔をしていた。どうやらミクが言っていた事を理解したらしい。それを見て笑うミク。



 「どうやらマスターも理解したみたいだね。周りのヤツが威圧したり攻撃的に物を言い、貴族がそれをなだめて印象を良くする。よくある下らない茶番でしかない。知らない者は騙されるんだろうけど、知っている者からすれば呆れるしかない」


 「「「なっ!?」」」 「………」


 「下らないよねえ。それで印象が必ず良くなるとでも思ってるんだから、私達のような知っている者からすれば阿呆でしかない。下らない茶番をしに来たならさっさと失せろ」



 ミクがハッキリとそう言った瞬間、辺境伯の護衛をしている騎士3人から殺気が漏れ出す。しかしながらミクにとっては微風そよかぜにもならない程度だ。下らない児戯すぎて呆れるしかない。


 前を向いて「やる気無し」という顔をしていると、後ろの騎士が剣に手をかけた。その瞬間、ミクは裏拳で騎士の顔をブン殴る。殴られた騎士は吹っ飛んだが、ミクは一切気にしていなければ興味も無い。



 「なっ! 貴様!?」


 「剣に手を掛けるなよ? 手を掛ければ先ほどのヤツと同じようにブン殴る。剣に手をかけた以上は敵だ。殺さないだけ感謝しろ」


 「何だと貴様ぁ!!!」



 怒った騎士が剣に手をかけたその瞬間、その騎士も裏拳でブン殴られて吹っ飛ぶ。こいつらは学習しないのかと呆れるが、ミクにとってはどうでもいい。本当に敵になれば皆殺しにするだけだ。



 「「………」」


 「どうした辺境伯、お前は茶番をしに来ただけか? だったらさっさと失せろ。お前になど何の興味も無い」


 「……部下が申し訳ない。私はそちらに依頼をしたかったのだ。先ほどの茶番も合わせて謝罪する故、請けてはいただけないだろうか?」


 「事と次第による。下らぬ事であれば請ける気など無い。まずは話せ」


 「分かった。こちらが依頼したい事は2つ。1つは不死玉を手に入れたらこちらに売ってほしいという事だ。狩人ギルドには全数こちらが買うと言っているにも関わらず、見張らせていると幾らかが流出している可能性が出てきた」


 「それはそうでしょ。そもそも狩人ギルドが何処に売るかはギルドの勝手。統治側がどれだけ不満を持ったとしても、そこに介入する事はできないしね。それをすればギルドそのものとの戦争になりかねない」


 「そうだ。が、不死玉はそちらも理解しているらしいが、流出しては困るのだ。〝鳴り筒〟という物に使わねばならんからな。流出して他国が持ったとすれば最悪の事になりかねん」


 「確実にそうなるでしょうよ。なるべく遅くしようとしているようだけど、それは無駄な努力だね。必ず内部から崩されるし、それは歴史的にも証明されている事。何かしらの弱みを握られ、必ずや流出する」


 「………そうなるだろうとは思っている。しかしそれでも努力し、少しでも遅らせねばならん。それが無駄な努力になると分かっていてもな。それも私の仕事だ」


 「まあ、分かってるなら好きにすればいいよ。その依頼は請けても構わない。次は?」


 「2つ目はこの町のとある人物に呪いを掛けてほしいというものだ。そいつは真っ黒で、既にコルクサ国と関わりがある事が分かっている。私達が調査をしてもどうやっているかまでは判明しなかった」


 「【善なる呪い】を使って無理矢理に吐かせたいという事?」


 「ああ、そういう事になる。標的は<エソロム商会>というところだ。そこの会頭であれば全てを知っている筈」


 「そちらの依頼は微妙。請けても構わないけど、私が呪いを刻むのは悪人だけ。かつての伝説の黒魔女と同じく、まともに生きている者や真面目に生きている者に呪いを掛けたりはしない」


 「そやつは我が国を裏切っておるのだ! 必ずや悪人に決まっておる!」


 「それは分からないね。元々この国に対して忠義が無いなら、それは裏切りにはならない。忠義も無い者に対して裏切りも何も無いんだよ。そういった意味でも、自分が気に入らないからといって必ず悪人とは限っていないのさ」


 「………」


 「罪や咎とは勝手に決めていい事じゃ無いしね。特殊な力でもなければ、それを正しく判別する事は出来ない。各々の立場や状況によって幾らでも変わる。誰かの為に手を汚したのであれば、罪にならない場合もあるんだよ」


 「言いたい事は分かるが………」


 「1つ目の依頼は構わない、しかし2つ目の依頼は微妙。もし悪人であれば、そいつは黒い紋様が体に浮かび上がっているだろう。それを確認してから捕まえればいい。それが無ければ、そいつは悪人ではなかったという事。他の方法を探すんだね」


 「………」


 「そもそも呪いを都合の良い道具として扱おうとするな。【善なる呪い】は悪党を懲らしめる為にあり、【瘴気の苗床】は反省しない、もしくは極悪人に地獄を味合わせるもの。それぞれに意味がきちんとある。権力者の都合の良い道具じゃない」


 「分かった。すまないがその2つは宜しく頼む。駄目であればこちらで手を考える」



 そう言って辺境伯は残っている騎士に他の騎士を起こすように言い、騎士が起きると酒場を出て行った。その後姿を見つつマスターが話しかけてきた。



 「いいのか? あんなに曖昧な返事で。場合によっちゃ向こうが何ぞ仕掛けてきたりしねえか? 少なくとも貴族と平民っていう身分差はあるんだぜ?」


 「辺境伯の方も話してて気付いたみたいだけどね。もし呪いを都合よく利用したら、今度は自分が悪人になって呪われるってね。呪いを自分の都合よく利用しようとしたんだ、呪われる要件である悪人になるのは確実なんだよ」


 「ああ、そういう事か。だから命令したりとかしなかったんだな。万に一つも自分が呪われるかもって思ったら、呪えなんて命令出来ないか」


 「そういうもんだよ。誰だって自分の命が惜しいからね。……ん?」



 ミクが横を見ると、既に酔っ払ったロフェルが寝ていた。どうやらミクが喋っている間に食事と酒を終えて、気分が良くなり寝てしまったようだ。


 それを見たミクは苦笑しつつ素早く食事を終えると、ロフェルを抱いて宿へと戻って行った。


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