0669・何処にでも居る愚か者
大きな声を掛けてきたのは、男4人組の狩人のチームだった。しかしその後は続々と他の狩人達も周りを囲んできた。ちょっとビックリしたロフェルだが、周りの連中に対して口を開く。
「あんた達いったいなに? いきなり大きな声を出して。アンデッドが近寄ってきたらどうするのよ?」
「そりゃ、すまねえな。だがそっちの女。お前はそっちの子に任せるだけで何してねえじゃねえか! 寄生するのは許される事じゃねえぞ! オレ達が許してやる間にその子から離れてとっとと失せな!」
「は? ……あー、そういう事。意外と言ったら何だけど、初めてだねこういうパターン。ちょっと新鮮な気がするけど、ウザい事に変わりはないか」
「いやー、驚きね。私も何の用だと思ったら、まさかの魔境の真っ只中で引き抜きが始まるとは思わなかったわ。それにしてもバカ過ぎない? こんな危険地帯で何やってるのかしらねえ」
「本当にねえ。自分達の欲しか見えてないんでしょうけど、頭が悪いにも程がある。お前達が集まる所為でアンデッドが集まってるんだけど理解してる?」
「ああ? 口からでまかせ言いやがって、逃げようとか思ってんじゃねえだろうなぁ。寄生野郎が調子に乗んじゃねえぞ」
「あぁ? 貴様ら如きカス共が一体何を調子に乗っている? あまりフザケた事を言ってると、貴様らもアンデッドの仲間入りをさせるぞ?」
ミクが<暴虐のオーラ>を吹き上げると、途端に腰を抜かして漏らし始める狩人達。ロフェルが浄化していくのを見て自分達のチームに入れようと思ったのだろうが、横に居たのが怪物だとは思いもしなかったのだろう。
完全に腰を抜かしてしまい動く事も出来ない者どもを尻目に、周囲に多くのアンデッドが集まり始めた。それを感じ取ったのかロフェルがミクを見る。
「仕方ないな。このクズ共が集まってこなければ面倒な事にはならなかったというのに、ゴミは何処でもゴミでしかない。ま、ロフェルの練習にはなるでしょ。とりあえず手分けして浄化していこうか」
「了解。しっかし、役に立たない奴等に限って邪魔するのよねえ。何でかしら?」
「役に立たないからじゃない? 迷惑掛けるまでがセットなんでしょ」
「ミクがよく言うように、本当にゴミねえ……」
2人は軽口を叩きながらも次々にアンデッドを浄化していく。ミクまでもが簡単にアンデッドを浄化していくのを見て、ようやく自分達の言った事や思った事が言い掛かりだったと気付く。しかし既に遅く、彼らは喧嘩を売った後である。
ミクとロフェルが周囲のアンデッドを全て浄化し、不死玉と魔石を拾って去って行った後も、彼らは暫く動く事が出来なかった。それほどに<暴虐のオーラ>は厳しいものだったのだ。
「それにしてもさ、あんな喧嘩の売られ方は初めてだったよ。その所為で最初は理解出来なかったね。私が寄生してるって驚くよ、本当。そもそもお前らだって寄生しようと思ってたんだろ、って話でしょ?」
「まあ、ああいう連中の考える事ってそういう事よ。寄生してるのが気に入らないっていうより、寄生してるのが羨ましいって感じ。あまりにも分かりやすくて呆れてくるわね。それと、アレだけ派手に漏らしていて大丈夫かしら?」
「自業自得でしょ。私は興味も無いしどうでもいいよ。どこかで綺麗にして帰るんじゃない? どうやってかは知らないけどさ。そもそも漏らしたくなければ喧嘩を売らなきゃいいんだよ」
「それはそうね。自分達から喧嘩を売ったのだから、誰の所為でもないわ。それはともかくとして、そろそろ始めたいんだけど?」
「いいよ。とりあえず危険なヤツはこっちで何とかするから」
「ありがとう」
ロフェルは再びアンデッドを探して瘴気を探る。先程よりもそれなりに奥に進んだからか、瘴気が濃くなった所為で再び3回に1回程度しか当たらなくなった。その結果、再びアンデッドを探しては【清浄】を使う状態に。
それでも認識して使っている以上、的外れで適当な事をしている訳ではない。後はじっくりと的中率を上げていくだけだ。ある一定を超えれば完全に分かるようになる。
そこまでになるには時間が掛かるだろうが、それでも無限に近い時間がある以上は何の障害にもならない。ミクはロフェルを見守りつつ、ゆっくりと修行を行わせるのだった。
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昼食はミクがアイテムバッグに入れていた食料で済ませ、その後も練習を続けたロフェルはそれなりの精度で当てられるようになっていた。やはり【武魔一体】と【天覚】のスキルが作用しているのだと思われる。飲み込みが早い。
その飲み込みの早さがあっても、一定以上ともなれば修行に修行を重ねるしかない。その領域はそれぐらい大変なのだ。それでも最初が早いというのは有利である。そんな事を説明しながらも、帰りの道を【身体強化】で走る2人。
程なくしてウェルスの町に着き、門番に登録証を見せて中へと入る。すぐにギルドの建物に行った2人は、受付で不死玉と魔石を大量に出す。解体する物が無ければ受付に持って行くのが基本である。
「まさかこれほどの不死玉と魔石を持ち帰る狩人が居るとは思いませんでした。少々お待ち下さい」
その後、必死になって数えてくれた御蔭で、ミクが28の28、ロフェルが67の67である事が分かった。不死玉と魔石は一緒に手に入るので個数は同じ筈だが、一応全て数える決まりになっている。その所為で時間が掛かったのだ。
「大きさはそこまでですが、数が多いのが助かります。不死玉28個で大銅貨28枚、魔石が28個で中銅貨28枚ですが宜しいですか?」
「それでいいよ」
不死玉は1つで大銅貨1枚らしいが、これは大きさが小さかったからであり、<澱みの山>のアンデッドから出る不死玉には3つの大きさがあるそうだ。
小は1個で大銅貨1枚。中は1個で大銅貨2枚。大は1個で小銀貨1枚。中を狙うよりも小を2つ狙う方が狩人にとっては楽。だからこそ麓などの浅い場所に多くの狩人が屯しているのだと受付嬢は言う。
「本当なら奥の方でアンデッドを間引きしてほしいのですが、特にゾンビは武器が腐食されますので嫌われるんです。奥の方へと行っている方の大多数は木の棍棒で戦っていますね。錆びてボロボロにならないので」
「まあ、金属製じゃ腐ってボロボロになるし、臭いも酷いでしょうねえ。私もミクも浄化するだけだから、特段武器は使用しないけども」
「本当ですか!? 浄化できる方は本当に助かります。アンデッドが嫌になって離れる狩人の方も多いんですよ」
「アレが相手じゃ分からなくもないけどね。とりあえず何時まで居るかは分からないけど宜しく」
「ええ! いつまでも居て下さい!」
「流石にそれはないかなー……」
ロフェルは小銀貨16枚に大銅貨16枚、それと中銅貨2枚を受け取るとミクと一緒にギルドを出る。周りからは自分達のクランに入れようという声や、チームに入れようという声が聞こえるが、一部の連中の顔は引き攣っていた。
そいつらは当然ミクの<暴虐のオーラ>を喰らった連中であり、もはや彼ら彼女らは関わる気などない。どれほど隔絶した差があるかを思い知らされた為、自分達の実力の無さも含めて関わりたくはないのであった。
狩人ギルドを出た2人は、いつも通りに酒場へと足を運ぶ。カウンター席に座ると大銅貨5枚を支払って食事と酒を頼み、雑談をしつつゆっくりと待っていると、ミクの隣に見知らぬゴブリンが座った。
そいつに関してミクはガン無視していたが、ロフェルが気になったので視線を向けると、ミクは溜息を吐いてから話しかける。
「言ったその日に来なくてもいいんだよ? 鬱陶しいだけなんだからさー」
「ふむ。私が誰かすぐに分かったか」
「顔も名前も知らないよ。だけど周りの阿呆どもの所為ですぐに分かる」
「成る程、それはそうかもしれん。お前が来いと言ったから来たのだ、自らの言葉の責任ぐらいとるがいい」
「だから話し掛けてるでしょうが。で、いったい何の用だ? 辺境伯」
ロフェルもそれで理解したらしく、大人しく2人を見守るのであった。とはいえ、ミクの命の心配などは一切していない。それはするだけ無駄だからだ。




