0668・瘴気と浄化魔法
納得するまで瘴気の有無を調べさせる。その事は間違っておらず、ミクのように即座に気付ける者がそもそも珍しいのだ。もちろん最強の怪物にとっては容易い事であるが、普通の者にとってはスキルになるくらいは難しい事である。
それでもスキル無しでも可能な事には間違いなく、ロフェルもミクの鑑定結果がスキル無しだったのは知っている。逆に言えばスキルが無くても自力で再現出来る事は多いのだ。だからこそロフェルは自らの五感を用いて理解しようとしている。
その事は間違いではなく、むしろ正しい。普通の狩人も何となくではあるが、やっている事である。何故なら誰も彼もが有用なスキルに恵まれている訳ではなく、誰も彼もが実力無く死んでいく訳でも無い。
生き残っている者はスキルという壁を、自身の努力で突破しているのだ。もちろん危険の少ない場所でしか生きていない者も居る。とはいえそれは己の実力を理解しているという事であり、とても大事な事だ。
(努力して身につけるか、それを諦めて危険には一切手を出さないか。欲を掻かなければ、十分に生きていくだけの金銭は手に入れられる。モンスターさえ倒せれば狩人というのは生活を約束されるからね。っと……)
ミクは新たに現れたアンデッドを、ロフェルの邪魔にならないように浄化する。そして不死玉と魔石を拾おうとしたら、ロフェルが高速で顔を動かし浄化した場所を見た。どうやら浄化された場所は分かるようになったらしい。
「もしかしてアンデッドが近くに来てた?」
「何回もね。まあ、今はロフェルが瘴気を正しく認識する方が先だから気にしなくていいよ。先に進めば進むほど瘴気が濃くなってるみたいだからさ、今の内に正しく把握できるようになっておく必要がある」
「じゃないと奥は難しそう?」
「判別できても難しいんじゃないかな? どんどん濃度が濃くなっていくという事は、アンデッドと比べても判別し辛い事を意味してる。つまり奥に行くほど見つけるのが難しいって事」
「まだ浅い所で分かってないんじゃ、先に進むのは無理ね。とてもじゃないけど、アンデッドが何処から来るか分からないのは危険だわ」
「時間は幾ら掛けてもいいよ、余りまくってるものだしね。それにこれが分かるようになれば、他のも応用で分かるようになる。気配、精神、生命力、そして存在。そこまで分かる様になれば不意打ちは殆ど受けなくなる」
「それでも殆どなんだ……」
「仕方ない。私の感知能力をもってしても、神の不意打ちは防げなかった。第1の星で呪いの神に首を落とされて呪いを掛けられたけど、それは不意打ちであり感知できなかったからね」
「神様に不意打ちを受けたのに勝ってるのも凄いわよね。まあ、ミクの首を落としても意味が無い事は分かるけど、呪いを受けても意味がなかったんだ? 神様の呪いでさえ効かないって凄いわね」
「凄いも何も、私は<喰らうもの>だよ。私にとっては呪いもまた食い物でしかない。だから幾ら呪われてもねえ……私としては美味しく頂くだけかな」
「あー、そういう事な訳ね。それなら、うん? そこ?」
ロフェルが【清浄】を使うと、岩の陰に隠れていた鼠のゾンビが浄化されて不死玉と魔石が残った。会話をしながらも何となくの感覚があったロフェルは、ようやく瘴気の濃度というものが判別出来てきたようである。
そこから気を良くしたロフェルは自分が思ったところに【清浄】を使っていく。確率的には3回に1回しか正解していないが、少しずつ精度は上がっていくだろう。大事な事は敵が居そうな場所を知覚しだした事である。
ミクは調子が良いなら放っておくべきだと思い、注意は一切しない事にした。そもそもロフェルの体は特別製である。今まで作ってきた肉体とは違い、根本的に魔力や生命力などが高いのだ。
相当の優遇をしているのだが、一度殺されている事がミクにも影響していると思われる。そもそもドラゴンの素材自体を使う事が優遇と言えるぐらいなのに、結構な量の怪物の血肉まで使っている。
そちらの方が遥かに優遇なのだが、万能血液と万能細胞は必ず元の肉体の持ち主に適合する。つまり言い換えればロフェルにどれだけミクの血肉を与えても、強化される事はあってもロフェル以外にはならない。
そこを変化させて再誕させる為のものがドラゴンの血肉と骨である。アレがあるからこそ別の存在に変わったとも言えるのだ。だからこそミクはアレッサには自身の血肉しか与えていない。それだけで生者に変わるからだ。
その時点で再誕とも言えるので何の問題も無い。何故なら生きるアンデッドに等しい存在に生まれ変わっている。だからほぼアレッサでも、その存在の根幹は明確に変わっているのだ。他の者は色々と加えなければいけなかっただけである。
実際、ティアもミクの血肉だけではなく、それなりに〝色々〟と使われている。本人には何も言っていないが。
「それでも死ぬよりマシでしょう。私もそうだけど、命が失くなっていくって恐ろしいわよ。他の者達もアレを受けたのなら文句は言わない筈。恐ろしいし寒いし、何かが急速に失くなっていくあの感覚だけは、どんな言葉でも表現出来ない」
ロフェルは思い出しながらも震えているようだ。それほど生命力が失われていく感覚というのは恐怖なのだろう。自らが死ぬ。生き物は皆生きようとする本能に突き動かされている。だからこそ、その真逆には激しい恐怖を抱く。
それを一度味わったからこそ、生きていることの素晴らしさを理解したのだろう。どんな姿形でも生きているだけマシだと。
「そこっ………意外と当たるようになってきた?」
「最初は3回に1回だったけど、今は2回に1回以上は当たってるね? 自ら魔法を使って倒してるから、その御蔭かな? 案外自分で戦っている方が感覚が研ぎ澄まされやすいのかもしれない」
もしかしたらロフェルがそういうタイプなだけかもしれないと思っているが、いちいち口には出さないミク。上手くいっている時に余計な事を言うのは野暮というものである。
それからもロフェルの好きにさせていると、周りに他の狩人が増えてきた。単に狩人が到着し始めたのかと思うも、どうやらそれだけでは無いらしい。微量の悪意を感じるので何かしらの理由があるようだ。
ロフェルの調子が良いので邪魔してほしくなかったが仕方ない。そう諦めたミクは、ロフェルに周りに狩人が増えた事を注意する。
ミクからの注意を聞いたロフェルは慌てて魔力を探り、周囲に他の者の反応が多い事を知る。流石に少々の疑問を持ったのかミクに聞くと……。
「若干の悪意を感じるけど、こちらに危害を加えようという程の悪意じゃない。何かを奪おうとしているのか、それとも私達についていった方がアンデッドを倒して貰えるからかな?」
「ああ、邪魔なアンデッドと戦わず先に進めるって感じ?」
「あくまでも可能性だけどね」
ロフェルは内心「下らない連中だな」と思いつつ、しかし邪魔をしないなら無視するかと考え、有象無象を無視して瘴気に対し再び集中する。結構な確率で当たるようになってきたので、急激に腕は上がっていると言えるだろう。
そしてこういう時には楽しいものなのだ。己の腕が上がって悪いと思う者など居ない。そう思って気合を入れて探し浄化していると、いきなり大きな声が聞こえてきてビックリする。
「おい、そこのヤツ!! てめぇ、いい加減にしろよ!!!」
いったい何なのか分からないが、どうやら狩人が突っ掛かってきたようである。




