0666・銃と辺境伯の話
Side:ロフェル
「ワシが辺境伯様から聞いたのはだ、王城を脅した相手がここに来た。もしかしたら不死玉を使う新たな武器を狙っているのかもしれないって事だ。だからお前さん達を慎重に見張れと言われたんだが、お前さんは宿からほぼ出んし、そっちの嬢ちゃんは壁塗りの仕事ばかり」
「つまり、見張っていてもそれらしき行動はまるで無し。更に言えば低ランクの仕事をしているだけ。訳が分からなくなって遂に直接聞く事にした、と」
「そうだ」
何と言うか、紛らわしいというか混乱していると言えばいいのか、よく分からないわねえ。こっちを調べても何も出ないのは当たり前よ。そもそも私達は辺境伯の領地にどうこうなんて気は無いもの。幾ら調べたってそんな答えは無いのよ。
「それにしても、辺境伯は余程その新しい武器が流出するのを恐れてるみたいだねえ。許可は今のところ辺境伯にしか出されていない筈でしょ。その割には……ってもしかして他国の間諜? もしくは草原コボルトに洩れる事を危惧してる?」
「……両方だ。新しい武器は簡単に敵を殺せる。ワシも一度だけ見せてもらったが、ありゃ駄目だ。今までの戦争が変わっちまう。だからこそ<澱みの山>は死守しなきゃなんねえ。絶対にだ」
「成る程、やっぱり銃を完成させたか。爆発する粉を使い、筒の先から弾を飛ばす。間違い無い?」
「っ!? 何でそれを……!?」
「やっぱりか。そもそも私は銃を知ってるんだよ、だから別に不思議じゃない。それは連射銃? それとも単発銃?」
「連射できるもんがあるのか!?」
「声が大きい」
「す、すまねえ……」
「作り方は教えないけど連射できる銃はある。それより銃が作られたって事は、これからは体を鍛えなくても簡単に殺しをする者が現れるという事。そしてこういう物は歴史的に見て、必ず悪党の手に渡って量産される。金に靡くものは古今東西において必ず居るからね」
「辺境伯様もそれを危惧してた。絶対に流出する、それは避けられねえってな。だからそれを少しでも遅らせる為に、ワシらに徹底的に見張れって命じられたのさ」
「それでも無駄だよ。一般人が無防備なのに、スラムの悪人どもが銃を持つ。そういう世の中は必ず来る。来させない為には銃を全て破壊して無かった事にするしかない。しかも生み出されたら壊すを延々と繰り返す必要がある。もちろん世界中でね」
「そんな事は不可能よ。で、ある以上は認めるしかないんじゃない?」
「だからなるべく流出しないって方針にしたんだろうね。どうせ誰かが作るなら、自分達は先に作ったんだからその有利を維持する。おそらくそういう形だと思うよ。後はどんどん使いやすく強力にしていくしかないね。それに遅れたら敵国の軍の方が強くなるだけだよ」
「………開発競争ってヤツね。問題はそれが国の命運にも関わってくる事かしら? ただの武器だと思ってたら、とんでもない事になったわね」
「そうでもない。少なくとも不死玉を産出するのは<澱みの山>。ならここを守っていれば、爆発する粉を独占する事は可能。そもそも銃には大量の火薬が要る。それを安定的に調達できない事には銃を運用する事は出来ない」
「ああ、火薬な。良い言葉だ。辺境伯様は<鳴り筒>と<あの粉>としか呼んでなかった。おそらくワザとだろうけど、銃なんて言葉じゃなかったぜ」
「爆発する粉は火薬、もしくは爆薬でいいと思うよ。銃はそのままでも知らないヤツは分からないだろうね。それはともかく、私の想像した通り火縄銃の可能性が高そうだ。火の着いた縄を落として爆発させるんでしょ?」
「………本当に良く知ってるな。あんたが知ってるって事は、他の国では既に作られてるのか?」
「私が王城で暴れたって知ってるなら、私が【呪魔法】を使える事も知ってるでしょ。そっちからだよ」
「成る程。伝説の黒魔女っつーのは恐ろしかったんだなぁ。そんなに古くに完成させてたなんてよぉ」
「簡単に殺傷出来るから危険だって分かるでしょ。それが世に出なかった理由だよ」
ミクはサラっと嘘吐いてるけど、全ては伝説の黒魔女さんの功績になるから、たぶん許して貰えるわよね……?。
「確かにそうだな。あれなら草原ゴブリンどもの弓矢の方がマシだ。あんなもんを敵軍が使ってきたらシャレにもならん。コルクサの奴等は用意できねえだろうが、オーレクト帝国なら用意出来る可能性は高い。厄介な事だぜ」
「オーレクトって南西の帝国よね。あそこで何かあった? 去年、皇太子の選出で揉めたって話は聞いたけど……」
「皇太子の選出は結局のところ第1皇子に決まったそうだが、第2と第3皇子が色々な国とのパイプ作りに邁進してる。場合によっては簒奪するつもりかもしれん、あそこは元々皇族が殺しあう国だからな」
「現在の皇帝も先帝がまだ存命中に殺しあったんだっけ? 確か第3皇子であったけど、殺し合いに勝って皇帝になった筈。帝国の中を引っかき回す闘争になるんだったかな? 強い国の為には強い派閥と皇帝が必要っていう考えだったような……」
「そうだ。あそこは新しい皇帝を決める際に必ずと言っていいほど下剋上が起きる。派閥の中でも裏切りがあり、それを抑える為に上位貴族が四苦八苦。そんな国だから当然強い。何と言っても常に争い合ってると言っても過言じゃねえからな」
「常に争い合うって良い意味には聞こえないけど、外からの攻撃にも強いって事なのよねえ。平和だとどうしても闘いを忘れるし、そうなると咄嗟に反応もできない。その一撃で国が滅びる事すらある事を考えると、間違ってはいないのかしら?」
「だろうな。上の連中は争いに明け暮れてるが、かといって国民はそうじゃねえ。闘争を行ってるのは上だけだからなぁ。それに強い奴っていうのは頼り甲斐がある。どうせついていくなら強い方が良いのは当たり前のこった」
「そういう意味では強い者を示す戦いでもあるのよねえ、次の皇帝を決める戦いは。毒殺や暗殺含めて何でもありだけど、結果的に一番強い皇族を決める争いだもの。ある意味で国民にとっては娯楽かしら?」
「かもな。当人達にとっては生きるか死ぬかだが、蚊帳の外の国民にとっては娯楽だろ。実際、上にはバレないように賭けの対象にまでなってるらしいし、上がどうでも下は下ってところだろうさ」
「話が逸れてるから戻すけど、私達は銃に関してそもそも知ってるうえに使う気も作る気も無い。でもさ、それで辺境伯は納得しそう?」
「たぶん大丈夫だとは思うんだが……何度説明しても駄目な場合はあるかもしれん。その場合は呼ばれるかもしれねえ」
ちょっと緊張しながらも、言葉を選んで話してるわね? おそらく辺境伯は自分の目で見なければ信じないタイプなんでしょうけど、ミクがそれに応える義理は無いのよ。だから多分……。
「もし聞いて納得出来ないって言うなら、「お前が来い」と言っていたと伝えればいい。おそらくマスターの所為にはならないでしょ。もし側近とかが五月蝿いなら、「【呪魔法】が怖くてそんな事できるか」って言えばいい」
「………まあ、それなら言えるけどよ。辺境伯様は良い方なんだが、側近連中がなー」
「それおそらくだけどワザとだよ。辺境伯が良い人の顔をして、周囲が威圧したり五月蝿く言う。それをする事で辺境伯が優しいというか、素晴らしいって思わせてるだけ。貴族がよくやる手法だよ」
「………」
「辺境伯なんだから、そんなお優しい筈がないじゃない。その程度は普通にするし、そうやって求心力を高めるのよ。簡単に騙されて手先にされてたみたいね」
私もミクに聞くまで、そんな方法があるなんて知らなかったけど、確かに目の前でやられたら騙されるかも。




