0654・これからの事の説明
屋敷の中を案内しつつ、ストレーナは疑問を聞いてみた。それはエリザヴェートの事である。
「ミク殿が来るのは分からなくもないのですが、そこの方はいったい何方でしょうか?」
「こっちのはエリザヴェート。ワルドー伯爵の娘なんだけど、実は善に寄ってる人物だった。ようするに長男の方と違って、悪い事は何もしていないって事ね。今、ワルドー伯爵の領地はかなりマズい事になってる」
「マズい事、ですか?」
「そう。もう一度兵士を集めてアルダギオン子爵領に攻めてこようとしてたから、そいつら皆殺しにしておいたの。2度に渡って負けたうえに元々重税だからね、そろそろ民衆の叛乱でも起こるんじゃない? そんな状況だったよ」
「………」
ストレーナは唖然としているが、そもそもまともな統治もされていない領地なのだから、叛乱ぐらい起こって当然である。むしろ起きない方がおかしい。そして治める事になるのは多分だが国軍だろう。
部屋に案内したストレーナは、メイドにお茶を用意するように言い、改めて先ほどの話を整理する。もしアルダギオン家に加増されるのが元ワルドー伯爵領だったらと思うと、今から憂鬱になってくるのだった。
しかしそれが分かっているミクは、現在やるべき事の方向性を口にする。
「こういう時は国が鎮圧に乗り出すしかない。大抵は伯爵家を取り潰しにして、誰かに渡すか新たに家を興させる。後を任されたヤツは御愁傷様だけど、安定させるのは大変だろうね。だから国の代官がやった方がいいかも。国軍を駐屯させてね」
「一度一揆が起きたら大変らしいから仕方ないね。国の軍隊が目を光らせてないと無法地帯になるだろうし、言う事を全く聞かない盗賊の集まりみたいになりかねないよ」
「………御自分の実家の領地だと理解されてますか?」
「それはおかしくない? だって貴女、子爵様に口出しできる? 私は父親が伯爵だっただけよ。その私に何か出来たとでも? 出来るって言うなら、貴女も子爵様に物申してみたらどう?」
「………無理、ですね。すみませんでした」
「分かってもらえればいいのよ。そもそも暗殺なんて考えるヤツが、家族であっても他人の言う事なんて聞く筈が無いでしょ? 私に出来る事なんて何も無いし、だからこそ連座は御免だと逃がしてもらったのよ」
「私が何の呪いも掛けてない事から分かる通り、エリザヴェート自体は善に寄っている者となる。そこまでハッキリと善ではないけど、決して悪ではない。だから長男と違って呪ってないわけ」
「成る程、それは分かりました。で、何故連れて来られたのですか?」
「詳細は省くけど、エリザヴェートは様々な知識を持ってる。思い出すまでに時間は掛かるし、知ってるだけなんで試行錯誤しなきゃいけないけど、その知識は子爵領にとって確実に利するものである事に間違いは無い」
「つまり………私の手元に置けという事ですか?」
「そう。既に伯爵は苗床にし、それぞれの貴族家の当主も苗床にしてある。更には悪逆であった家族も苗床にし、それよりマシな奴等は【善なる呪い】に掛けた。その中で呪いを掛けなかったのは2人だけ。それがエリザヴェートと公爵家の次男」
「えっ!? ゴヴェスティ公爵家の次男には、呪いを使っていないのですか? いったい何故ですか!?」
「それは次男もまた善に寄った者だったからだ。私は善か悪かを完璧に判断できる特殊な力を持っている。だからこそ、悪人は容赦なく苗床にするんだけど、善人までそうする必要が無い。伝説の黒魔女とやらもしなかったでしょ? 当然、私もしない」
「ですが! あの者達の所為でロフェルは!!」
「それとこれとは違う。エリザヴェートと同じであり、命じた本人と関係の無い家族は別だ。連座で罪の無い者にまで罪を着せろと? その権利がお前にあるとでも?」
「そ、それは……」
「そんな権利は私にさえない。怒りは分かるが、己の分を弁えろ。そもそも連座などおかしな話なのだ。ハッキリ言えば雑な方法でしかない」
「まあ、誰が関わっていて誰が関わっていないか分からないから、纏めて処分しようって話だしね。そんな雑に命を扱われても困るっていうのが正直なところなのよ」
「………」
「まあ、それは横に置いておくとして、ワルドー伯爵は苗床で妻の方は【善なる呪い】。他の貴族家も公爵家以外は同じ。そして公爵家は次男以外が苗床」
「「えっ!?」」
「それぐらいの悪徳一族だったんだよ、ゴヴェスティ公爵家はね。おそらく元々の侯爵家時代からそうだったんだろう。でも銀鉱山があるから目立って悪さをしてなかっただけ。おそらく金に飽かせて相当酷い事をやってきたんだと思う」
「そうじゃないと苗床になんてしないわよね? 尋常じゃないほど悪じゃないの。正直に言って異常すぎるわよ、それ」
「そう言われても仕方ない。それ程までに悪徳に塗れてたんだからさ。そういうものを表に出さないヤツは居るって事だろうけど、見事に騙されてたみたいだね」
「「………」」
「パーティーとかで会った事があるんだろうけど、見た目に騙されるのは三流もいいところだから、少しは見る目を養った方がいいよ。……それはともかく、そういう事だからエリザヴェートを宜しく。お菓子作りとかぐらい出来るでしょ?」
「まあ、ウチはあんまり裕福じゃなかったから、色々と自作したりしてたけどね。それでいいなら色々と作れると思う。あの家はクソ過ぎて知識を活かす気になれなかったし、丁度良かったのかもしれない」
「じゃあ、私の用も終わったからこれで。これからロフェルの墓を作りに行かなきゃいけないからさ」
「あの遺体まだ持ってたの? アイテムバッグの中って腐ったりするけど、大丈夫?」
「私のアイテムバッグは時間停止機能付きだよ。だから遺体はあの時のままだし、後は送るだけ」
「あの、私も送りたいのですが……!」
「申し訳ないけど、私一人でやるから。じゃあね」
そう言ってミクは案内された部屋を出ると、屋敷の中を歩いて外に出る。門番は居なかったが、まだ下着などを洗っているのだろうか? 下らない事を考えたなと思いつつ、ミクは町の外へと出て行く。
宿はエリザヴェートが使えばいいいのでスルーし、町を出たミクはワルドー伯爵領へと歩いていく。そのまま歩いていると、突然本体空間に神がやってきた。
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目の前には巨大な尻に大量の豊満な胸が付いた神が居る。いったい何の用だと思ったら、突然驚くべき事を言い出した。
「まさか怪物たるお前が、矮小な命に対してそこまで慈悲と怒りを持つとは思わなんだわ。これは存外に良い傾向である故、褒めてやらねばならぬ」
「そんな事はどうでもいい。それより何をしにきた」
「ほほほほほ……。妾にそんな口をきいても良いのか? あの矮小なる者を正しく蘇生させてやるというのに」
「なに!? それは許される事ではあるまい!」
「理を曲げるというのであろう? 再誕するのであれば理を曲げる事にはならぬ。お前がやった事と同じ事よ。お前の力だけならば如何にもならぬが、妾が過去に戻してやれば済む。それもこれも、お前が後生大事に遺体を残しておるからよ。御蔭で楽に済む」
「いや、しかし……それは……」
「四の五の言わずに早う出せ、この田分けが!! そなたの肉にくっつけよ!」
「わ、分かった」
本体は言われるままに分体から遺体を転送させ、本体の肉にくっつけた。すぐに根源の神はロフェルの時間を巻き戻し、死ぬ寸前へと状態を変える。
「ゴホッ! ゴホッ!」
ロフェルが咳き込んだ瞬間、根源の神は消えてしまい、そこには本体と肉にくっ付いたロフェルしか居なくなってしまった。どうやら説明諸々から逃げたらしい。手助けはここまでという事だろう。
「ゴッホ! ……うん? えっ! 何ここ!? どういう事!?」
「とりあえず落ち着けロフェル。ここは私の本体空間であり、お前は今、私の肉にくっ付いている状態だ」
「は? ミクの声がする? えっ、ちょっと待って! ここ何処!?」
「復活した途端に賑やかなヤツだな……」
何故かその賑やかさに悪い気はしない本体であった。




