0650・怪物の与える罰
豪奢な扉を吹き飛ばし、謁見の間に入ったミク。<暴虐のオーラ>を治めているので、中に居た多くの者は戸惑っている。知っている者からすれば、あの<暴虐のオーラ>を治めている方が恐ろしいのだが、そんな事は知らない愚か者が口を開く。
「なんだキサマ!! ここを何処だと思っている、謁見の間だぞ!! 近衛騎士ども、さっさと始末しろ!!」
「向かってくるのか? 構わんぞ。死にたい者からかかってこい」
「「「「「「「「「「………」」」」」」」」」」
周りに居た大臣らしき連中も、近衛騎士もが揃って動かない。ミクがチラリと見ると、第3王子の腰には剣の鞘だけがあった。本来納められている筈の剣が無い以上、第3王子がロフェルを殺した者で確定だろう。
謁見の間の扉が吹き飛び、王子の護衛の何人かが吹き飛ばされた扉に当たって、ないしは下敷きになって死んでいる。しかし2人程度はかろうじて残っていた。そいつらが慌ててミクに対して剣を抜くも、勝てる筈など無く。
ドゴン!! という音がしてウォーハンマーで頭が潰され、もう片方は左手で首を鷲掴みにされて圧し折られた。あっさりと護衛が死んだ事によって第3王子は逃げ出そうとするが、透明な触手に足を掴まれて転ぶ。
傍目には無様に転んだように見えるだろうが、怪物にとってはどうでもよかった。ウォーハンマーを仕舞いアイテムバッグを床に下ろした怪物は、その中からロフェルの死体を取り出す。
「これは私の〝仲間〟であったロフェルだ。そしてロフェルを貫いているこの剣は貴様の物だな? 答えろ」
「し、知らぬ! そんな剣など知らぬ!!」
「そんな事はありません! 私を妾にすると言って無理矢理に連れて行こうとし、それを止めようとしたロフェルを目の前で刺し殺したではありませんか!! しかもその時に叔父上とワルドーと言っていました!!!」
「知らん!! 子爵家の者如きが何様のつもりだ!! 王子に対して罪を被せようなど言語道断!! 近衛よ、すぐにこやつらを切り捨てろ! ……どうした、早くしろ!!」
第3王子はそう叫ぶも、周りの連中は完全に白けた目を向けている。少なくともここに居る者達は裏で何があったのか、ワルドー伯爵が何をしようとしていたかを知っているのだ。何故ならワルドー伯爵令息と【豪腕】の取調べ結果も話し合ったのだから。
そのうえで叔父であるゴヴェスティ公爵まで絡んでいたとなったら、もはや国家としての醜聞である。そのうえ王子の無礼討ちで関係者を始末しようとしたのだ。もはや醜聞を超えて完全なる歴史の汚点である。
大臣や近衛は白けているが、王はキレかけていた。それでもキレていない理由は、それ以上に怪物が激怒していると知っているからである。だからこそ、自国が置かれている危険な状況も理解できた。
しかし怪物がそんな事を斟酌してやる必要も無く、ロフェルを貫いている剣を抜いて遺体をアイテムバッグに仕舞う。そして第3王子に近付き、剣を鞘に仕舞った。
「ほら見ろ。貴様の持つ鞘に見事に仕舞えたな? ならばこの剣は貴様の物で確定だ」
「他のヤツが私から剣を奪ったのだ! 私は知ら、ギャァァァァァァ!!!」
第3王子が更に言い訳をして逃げようとするのを怪物が許す筈もなく、右目があっさりと抉られた。2本の貫手を素早く突き入れられ、そこから引きすり出されて引き千切られたのだ。怪物が許す筈など無いというのに。
「ゴミが下らん言い訳をホザくな。もう一度聞いてやる。この剣はお前の物だな?」
「………」
言い訳をすると攻撃されると思ったのか黙った為、今度は右耳を引き千切った怪物。化け物を目の前にして黙秘が通じると思っているとは、随分と甘っちょろいボンボンである。
「ギィィィィィィィィ!!?!?!」
「お前は随分と私を舐めているようだな? その甘ったれのゴミ根性がどこまで続くか見ものだ。さてもう一度問おう、これはお前の剣だな?」
「そ、そうだ! それがどうし、ギャァァァァァァァ!!?!?!」
認めた瞬間、怪物は第3王子の剣を抜いて右腕を肩から切り飛ばし、【火魔法】の【火炎】で切り口を焼いていく。当然ながら止血の為である。怪物はこの程度で許す気などなかった。
「さて、燃やして止血してやったからな。この程度では死なんぞ。簡単に殺してもらえると思うなよ? では次に行くぞ、叔父上だとかワルドー伯爵とか出てきたが、それはどういう意味だ。答えろ」
「アアアァァァァァァ!!! 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛、ウギャァァァァァァァァァ!!!?!!!!」
答えない第3王子の左足を根元から切り落とした怪物は再び切り口を【火炎】で焼いて止血する。答えるまで終わらないと悟ったのだろう。第3王子は限界を超えてしまい、洗い浚い全てを話し始めた。
「叔父上とワルドーが私の後ろ盾となり、王になるのを手助けしてくれると、そう言ったのだ!! だからワルドーの恨みの相手である平民など、無礼討ちでどうにでもなると思ってやった!!」
「ほう。つまりロフェルを殺したのはゴヴェスティ公爵とワルドー伯爵からの命令だったと?」
「そ、そうだ! 叔父上からは上に立つ者は己の手を汚す事ぐらい出来ねばならんと、ワルドーは平民を殺せば多くの支援をすると!」
「何という事を……」
王があまりの事に声を出してしまう。今は<暴虐のオーラ>を出していない為、その余裕はあった。もちろん自分が声を出してしまった事を理解し、すぐに口を閉じた王。
何が怪物を怒らせるか分からない為、行動1つに気をつけなければいけない状況である。流石にその事は、この場の全員が理解していた。
「お前の裏に居たのはゴヴェスティ公爵とワルドー伯爵だけか?」
「セドルス子爵にギュン男爵、それにエトヴィ子爵からも支援の用意があると聞いた。アルダギオンを潰せばもっと献金は増やせると……」
「周り全てが謀っていたのか……。許せん!!!」
「動くな、私が潰す。……分かったな? 私の邪魔はするなよ。すればお前もゴミ虫として潰す」
「わ、分かった……」
アルダギオン子爵は心底理解した。目の前の怪物は本当に化け物なのだと。貴族や王族という肩書きなど怪物にとっては何の価値も無い事に、遅まきながらやっと気付いたのだった。
「さて、ゴミの所在は分かった。だが、これで終わりとならんのは分かるな? 貴様は私の仲間を殺したのだ。今までのは唯の拷問であり、ここから先が貴様への罰だ。この最強の怪物と呼ばれし私を本気で怒らせたのだ。この程度で済ませてもらえるなどとは思っていまいな?」
「あ、ああ………ギャァァァァァァァァァ!!!!」
第3王子は左腕と右足も切り落とされ、傷口を焼かれた。それだけではなく左耳と鼻も削がれ、左目も抉られる。しかしそれでも怪物は止まらない。最後に頭の上に手を置きブツブツと唱えると、第3王子の体には灰色の紋様が深く刻み込まれた。
その瞬間、絶叫してのた打ち回る第3王子。これで怪物の罰は完了である。
「これに施したのは呪いの1つである、【瘴気の苗床】というものだ。限定的な不死になれる素敵な呪いでな、この呪いの御蔭で腹は減らず、病気もせず、寿命も無くなる。代わりに瘴気を吸い込み続け、浄化する為に肉体と精神を切り刻まれ続けるのだ」
「「「「「「「「「「………」」」」」」」」」」
「こいつはこれから永きに渡り瘴気を浄化し続けてくれるという、この国にとって都合の良い〝道具〟となった。体を切っても瘴気が回復させ、首を飛ばしてもくっ付く。適当に地下室を作って放り込んでおくだけでいい。それで五月蝿い声を聞かずに済む。良かったな?」
誰もその言葉には答えられなかった。四肢を切り落とされ、目も抉られているのだ。耳と鼻はもはやおまけ程度の意味しかない。その状態で死にたくても死ねなくなり、更に激痛を絶え間なく受け続ける。そんな生き地獄を作り出せる相手だったのだ。
最悪の相手を軽んじていたのだと理解したその場の全員は、誰も口を開く事など出来なかった。
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